国境の街へ
「これは……」
朝から困惑気味のリアム殿下と顔を合わせる。私の腰には昨日大泣きしたときと同じようにジェシカ王女が巻き付いていた。
甘えるように私にくっつくジェシカ王女の姿に、リアム殿下は色々察したみたい。
「いつの間に……ジェシカがすみません。その様子だと、この子の話を聞いてくださったみたいですね」
「ええ、ジェシカ王女殿下と仲直りいたしました」
昨日ジェシカ王女殿下に泣いて縋られて、私の肩でぐったりと疲れ果てているロキはとりあえず無視。後で労わってあげよう。
「ジェシカ、許してもらえたからと言ってあまりにもメルディーナに甘えて迷惑をかけてはいけないよ」
「迷惑だなんてかけていないわ!ねえ、メルディーナ様、お姉様って呼んでもいい?」
「こら、ジェシカ!」
リアム殿下が慌ててジェシカ殿下を止めようとする。
「ふふふ、ジェシカ王女殿下がよろしければ是非殿下のお姉様にしてくださいな」
「王女殿下、なんて言わないで?ジェシーって呼んで、メルお姉様!」
ロキがあきれたようにため息をつく。
「なあ、この子供距離の詰め方がすごいな?昨日あんなに泣いてたくせに」
最初の時とは別人のようになったジェシカ王女の姿が微笑ましい。
国王陛下やハディス王太子殿下と約束した通り、私達はこれからアーカンドとセイブス王国の国境付近にある街へ向かう。
瘴気の浄化は多分、問題なくできると思う。守りの森を出てから気付いたけれど、自分の中に清浄な魔力がたっぷり溜まっているのを感じるのだ。ロキやリオ様に言われていた通り、セイブス王国の妖精たちを守るために無意識に魔力を与え続けていた分、私は常に軽度の魔力枯渇状態にあったらしい。どんどん魔力が回復している今、体がものすごく軽い。これが普通で、今までが尋常じゃなく重くなっていたのだと思うと、やっぱり不思議な気分だ。
ただ、1つ気になっていることがある。私に魔力が戻っているということは、セイブス王国の妖精たちはどうなっているのだろうか?
リオ様は「セイブスの様子は相変わらずよく見えない。瘴気が濃くなりすぎている」とだけ言っていた。
「メル、心配なんだろうけど、妖精たちは多分大丈夫だと思うよ。あんまり苦しそうだと俺にもその気持ちがなんとなく伝わってくるけど、今は何も感じない。メルが不安になってると妖精たちもそわそわするから、できるだけ元気でいてほしいな」
側にいるジェシカ王女殿下やリアム殿下に聞こえないように、ロキが耳元で私を励ました。
気にはなるけれど、現状セイブス王国の妖精たちがどうなっているか、セイブス王国は何も問題は起こっていないか、確かめる方法はない。
「それでは、イーデンとともに準備が整い次第出発しましょう。急なことでしたから、あまりゆっくりさせてあげられなくてすみません……ミシャとオルガに荷造りは頼んでいますが、一緒に確認してくださいね」
「はい、お気遣いありがとうございます」
リアム殿下がミシャとオルガと入れ替わる様に、私と離れたがらないジェシカ王女殿下を連れて部屋を出ていく。
今日も元気なミシャと、なんだか少し残念そうな顔をしたオルガ。
「メルディーナ様、お荷物の確認をいたしましょう!国境へはこのミシャがついていきます!」
「私も一緒に行きたかったのですが、今回はお留守番だと言われちゃいました~」
「……メルディーナがジェシカに姉と呼ばれる……悪くないな……」
部屋のドアが閉まる瞬間、リアム殿下が何かボソボソと呟いていた。何でもないような顔をして私を不安にさせないようにしてくれているけれど、ひょっとしてリアム殿下も少し緊張しているのかもしれない?
あまり不安な顔をしてリアム殿下に心配をかけないようにしないと。
◆◇◆◇
国境の街までは馬車で2日かかるらしい。
セイブス王国をでてすぐ気を失って、アーカンドへはリアム殿下(狼バージョン)に背負われてきた私。目が覚めた時にはすでにアーカンドの城だったから、どれくらい距離があるのか知らなかった。あの時私はすぐに目覚めたわけではなかったらしい。
……思っていたより遠い。リアム殿下、私のこときっと重かったよね……?今更恥ずかしく、申し訳なくなってくる。
そして思った。お兄様が居心地の悪いセイブスにあまり帰らず、アーカンドに居つくわけだわ……何度も往復するには時間がかかりすぎる。
国境の街――トーリャ。この場所は非公式にセイブス王国の農民や行商人との取引をしている場所でもあるらしい。
トーリャに近づくにつれ、空気がなんだか重くなっていくのを感じる。
「メルディーナ、大丈夫ですか?ずっと守りの森にいたあなたには今この空気は少し辛いでしょう」
馬車の中にはお兄様、私、リアム殿下とミシャ。念のためと馬車の外に2人、護衛が馬で並走している。
「リアム殿下、なんだか少しメルディーナに近くありませんか……?」
お兄様が目を丸くして呟く。ミシャはその隣でなぜか少し嬉しそうだ。
「そうですか?」
私の肩に、支えるように手を添えるリアム殿下は心底不思議そうな顔をしているけど……正直私も近いと思います……。
「いつもこんな感じでしたよ?ねえ、メルディーナ」
なんの含みもない顔をして私に話を振らないで……!
脳裏にはセイブスでリアム殿下と過ごした時間がよぎる。確かに……私は黒い狼さんに抱き着いたりくっついたり頭や背中の毛並みを撫でまわしたりしていたわ……あれがリアム殿下だったと思うと……!
どうもこの距離の近さは長年かけて私が作り出したものらしいと分かった。リアム殿下は狼姿だろうが何だろうが本人でしかないから、どんどん麻痺していったのね……。
エスコートされる時くらいしか異性と接することがほとんどなかった私。
正直どうしていいものか分からなくて固まってしまう。だけどなんとなく、近くて恥ずかしいとは言えなかった……。
昨日は更新できずすみません(>_<)
出来れば夜にもう1話更新したいと思います^^




