メルディーナの魔力
獣人の村での事件は呆気ないほど簡単に収まった。
「メル、びっくりするほど腕上げたな」
ロキがわざとらしく褒めてくれる。
この守りの森の神聖な力でパワーが漲ってるのはロキだけじゃなく私もだったみたい。
井戸の水が瘴気に冒されていた時は、何度も浄化をかけてやっと払うことが出来た。あの時は不甲斐なさにがっくりしたものだけど、今回は違った。
3つほどの家に分けて寝かされ、苦しそうな獣人たちに、1つの家につき1回の浄化で苦しんでいる全員の瘴気を取り除いてあげることが出来た。
1人1人の症状は井戸の時よりずっと重そうに見えたのに……不思議な気持ちだけど、とにかく早く楽にしてあげることが出来て良かったと思おう。
「だけどさ、何も言わずに帰ってきてよかったの?せっかく助けてあげたのに、お礼の言葉も聞いていないだろ」
「そんなつもりでやったわけじゃないからいいのよ。何より、あれだけ人間の私に嫌悪感を示してたんだもん。私に助けられるのは迷惑だと思ったかも」
ロキは不満そうな顔をしていた。この小さな精霊さんはたいがい優しいのだ。
木を集めて魔力で小さな焚火を起こし、ハンナさんに回復薬と交換してもらった肉を焼いて食べる。
ひと騒動起こる前に塩も調達しておいてよかった。シンプルな味付けだけど、念願の、久しぶりの果物以外の食べ物!お肉ってこんなに美味しかったっけ……!?
だけど、私が人間だったこと、ルコロから手伝いに行っていた男の人達も多分見てた。……もうルコロには行かない方がいいかもしれない。お肉もまた、当分は食べられないかも。
優しくて親切なハンナさんに、どうにか定期的に回復薬を届けられたらいいのに。
「メルディーナ、こっちへ来てごらん」
優しい声で呼ばれて、リオ様に近づく。
リオ様はそっと体を傾けズラし、私を招き入れるように微笑んだ。
「タマゴ……」
大きな体で丸まる様に寝そべっていたリオ様の体の下に、私が抱える程のサイズのタマゴが鎮座していた。
「そう何日も待たず、孵るはずだよ。その前にメルディーナの魔力を注いでやってくれないか?」
「……いいんですか?」
リオ様の、聖獣様の大事な赤ちゃん。
私の魔力を、この子に食べてもらえるの?
「お前は私の愛し子。我が最愛の子にもメルディーナの美しい魔力を分けてやってほしい」
真っ白な殻。だけど、油膜でもはっているように、空にベールの様に走るオーロラの様に、はたまた儚く消えるシャボン玉の様に、表面が虹色に揺らめいて見える。恐る恐る手を伸ばして、そっと触れてみて驚いた。温かくて、ちょっとだけしっとりしている。まるで……殻を剥いたゆで卵?
顔に出てたのか?まさか心を読んだ?
「メルディーナは意外と食い意地が張っている。おまけに案外節操がない」
……呆れ顔の聖獣様なんて見た人間、きっと私だけだろう。
失礼な!と反論しようと思ったけど。お肉を求めた時にうっかり見つめてしまったばっかりに「あなたを食べようと思ったわけじゃないよ!」と、必死の思いで誤解を解いて、ウサギに許してもらえるまで2日かかったことを思い出す……。
気を取り直してゆで卵改めリオ様の赤ちゃんに向き直った。
手のひらに感じる温もりに意識を集中させて、そっと魔力を流し込む……。
目も開けていられない程、真っ白な光が眩しく辺りを包んだ。
タマゴが、ごろごろとほんの少し揺れる。
「えっ!?」
まさか今生まれるのか!?と焦ったけれど、揺れたのはほんの一瞬ですぐに大人しくなった。
「ありがとう、メルディーナ。この子も喜んでいるようだ。この魔力を目印に外の世界へと導かれるだろう。きっともうすぐ生まれるよ」
離れたところで、風もないのにガサガサと草木が揺れた。
近くでくつろいでいたウサギやリスがさっと姿を隠し、クマや他の動物たちものそりとその場を離れていった。何かが歩いて近づいている?足音が聞こえる頃には小鳥たちも皆飛び去った。
身構えるも、リオ様はもう1度タマゴを包み込むように丸くなり、悠々と体の力を抜いてリラックスしている。
「どうやら清く澄んだ魔力に導かれたのは我が子だけではないらしい」
茂みの向こうから、ゆっくりと姿を現した大きな黒い毛並み。ずっと見たかった金色の瞳が私を見つめた。
ああ、やっとまた会えた。命の恩人。私を裏切らない存在。
「狼さん……」
ゆっくりと近づいてきた黒い狼は、微笑む私に向かって、くん……と小さく喉を鳴らすように鳴くと、優しく体をすり寄せた。




