守りの森での生活
守りの森に入って1週間が過ぎた。
ちなみに、滞在初日にリオ様に黒い狼さんのことも聞いてみたけど、
「ここにはいないが心配ないよ。それに、慌てなくとももうすぐ会えるだろう」
と、まるで予言のようなことを言っていた。まさか聖獣様って未来も見えるの?
「そんなわけないだろ」
ロキは呆れ顔だ。姿が見えるようになってこの顔よく見るんだけど……見えない間もそうだったのかな?
リオ様に温かく見守られ、毎日ロキの顔をみておしゃべりし、妖精たちに囲まれて過ごす。そんな毎日のなんと平和で幸せなことか。
このまま、リリーやゲームのことなど忘れてゆったりと生きていけたらと思ってしまう。
すでに私はセイブス王国、つまりゲームの舞台から退場した。私のことなど死んだと思ってくれてればいい。そうすれば……イベントの舞台装置なんて馬鹿げた未来を迎えずに済むんじゃないのかな?なんて、ふとした瞬間に考えてしまう。
攻略の進行状況など、本当は少し気になるけど。考えたって仕方ない。
守りの森にいるのは、リオ様や妖精たちだけではなかった。
「ほーら!順番に!ね?時間はたっぷりあるんだからあわてないで!」
毛並みを整えてやる櫛を手にした私に我先にと群がるのは、この森にすむありとあらゆる動物たち。グレーの毛並みが美しい狼や、小さなウサギやリス。小鳥もいればクマもいる。
クマ!?と最初はびっくりしたもんだ。
食べられる!と身を固めたのは一瞬。咄嗟にギュッと瞑った目を恐る恐る開けた視界に飛び込んできたのはなんともメルヘンな光景。クマの肩に小鳥が止まり、頭にリスが乗って、足元ではウサギがスリスリと体を擦りつけていた。
絵本の世界なの?
いたずら好きのリスや食いしん坊でよく食べ物の取り合いをしているウサギよりこのクマちゃんの方がよっぽど大人しくておっとりしている。
「ははは!この森にはずっと瘴気を払う神聖な魔力が漲っているからね。取り込む体が大きな方が聖なる存在に近いのさ」
驚く私にリオ様は笑って教えてくれた。
どうりでリオ様は規格外のでかさだ。さすが聖獣様!
クマは自分に比べて随分小さな私に、跪くように顔を近づけて頬ずりをしてくれた。ゴワゴワしているかと思ったけど、聖なる力のおかげなのか?毛並みがすべすべでふわふわのラグに触れているような感触だった。や、やみつきになりそう……。
ちなみに妖精やロキのような精霊は存在そのものが聖なる者なので動物とはまた違うんだとさ。
「俺たちはサイズじゃなくて、うーんそうだな、言うなれば純度と密度かな?」
「密度?」
純度はなんとなくわかるけど。
「そう。聖なる力をためてためて、パンパンになってもう入らない―!ってなった妖精は精霊になれる」
つまり進化するってことね!
「ロキも元は妖精だったの?」
「俺は…………」
なぜかロキはそこで首を捻った。
「メルと出会うよりずっと前のことを思いだそうとすると、なぜか頭が真っ白になって何も考えられなくなるんだ」
なんだかよく分からないけど、苦しそうにうんうん唸るロキにもういいよと言った。
「ごめんね、ほんの興味本位で聞いただけだったの」
「うん…………」
無理に思い出す必要もない。今ロキが私といてくれるだけで十分なんだから。
そうして平和に、暇な時間は動物たちと遊んだり、薬草をつんで薬を作ったりして過ごした。
1度、もっとできることはないかとリオ様に聞いたけど、私がいるだけで少し守りが強くなるからそれで十分だと言われた。私の魔力に触れることで妖精たちは力を増し、それによって森に聖なる魔力がより満ちていく。
愛し子とはそういうものらしい。
「リオ様、タマゴはいつごろ孵るんですか?」
「命に関わる時間は分からない。ただ、恐らくもう少しでこの子に会えるだろう」
温かい母の顔だった。
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森には恵みがいっぱいあって、食べる物にも飲み水にも困らなかった。
だけど……
「肉が……食べたい」
「メル?なんて?」
はっとして口元を抑える。
実はずーっと思ってた。食べる物は基本果物と木の実。水は湧水。ここには川もなくて魚も食べられない。空腹に飢えることはないけど、肉が食べたい!でも、森の動物たちやリオ様の手前、肉が食べたいなんて言ってはいけないと我慢していたのに……心の叫びがつい口をついて……。
ロキは不思議そうにこちらを見るだけだったけど、リオ様には聞こえていた。
「肉が食べたいなら近くの村に行き、分けてもらってくるといい」
えっ!?
「お肉食べるのって、いいんですか?」
「いいも何も、今までも食べていたんじゃないのか?」
そうですけど……。なんとなく禁忌なのかなと思ってた。
側にすり寄っていたウサギをちらりと見る。
目が合ったウサギは私の不穏な考えに気付いたようで、驚き、脱兎のごとく逃げ出した。
ウサギだけに。
「こら、脅かしてやるな。守りの森の生き物たちは聖なる存在に近いと言っただろう?反対に、瘴気のある場所で育った獣は見た目は同じでも存在は全く別なんだよ。お前たちが食べている肉はそういう動物のものだ」
どうも、聖なる存在に近い動物→普通の動物→魔落ちした動物 の3種類は、似て非なる全く違う生き物と思っていいんだとか。
「慣れればメルでも見た目で分かると思うよ」
ロキはそういうけど、ちょっと難しいよ……。
人間に育てられた動物はほぼ「普通の動物」に成長するらしい。人間自体が多少の瘴気を放出する生き物だから。ちなみにここでも愛し子の私は例外だってさ。自覚はないけど。
獣人は人間よりも妖精たちと密接に生きているため、放出する瘴気がほぼない者もいるらしい。だけど村には少なからず食用の動物がいるはずだと言っていた。
とにかく!お肉を食べてもいいのは嬉しい!
「メルディーナ自身が瘴気を払う役目をするから多少の肉を持ち込む分には構わないけど、絶対に生きているままここに連れてきてはいけないよ」
リオ様に注意される。分かりました!
私は久しぶりにお兄様に借りたローブを着込む。もちろんフードを被るのも忘れない。
……ここに逃げ込んで以来、初めて森から出るのでちょっとだけ緊張する。
ともかく!お肉を求めていざ出発!
じわじわとブクマ増えてます…!嬉しいです!
読んでくださってる皆様ありがとうございます(*´ω`*)!




