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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
第2章

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アーカンド

 


 ローブを羽織り、人の目を避け歩いているうちに人通りの多い場所に出た。やっと街中まで来た。ここまでくれば一先ず簡単には追手に見つからないだろう。フードを目深にかぶり、俯いたまま必死で歩く。どこに向かうでもなく、とにかくもっともっとと、来た道の方からより遠くへ向かって。


 そろそろ私が逃げ出したことに気付かれてしまっているかな?――というか。


 追手でなくとも、こんなに人が多い場所で私が人間だとバレたら大変なことになる……!

 セイブス王国が獣人を嫌うように、獣人も人間を嫌悪していることは私も知っている。そもそも、お兄様がアーカンド担当の外交官になったなんて今でも信じられない話なのだ。


 例えばどんな小さな繋がりでも、アーカンドとの外交が再び始まることは素晴らしいことだと思う。何年ぶりのことだろう?アーカンドもよくぞ受け入れたものだと思う。だけど、それは獣人に嫌悪のない私の気持ち。あれほど獣人や動物を禁忌しているのに、どうして外交官をアーカンドに派遣することになったのか……。


 ――もしかして、お兄様だから?


 お兄様を侮辱するつもりも、アーカンドを馬鹿にするつもりもない。だけど、現状おかしいじゃない?思いついてしまった。もしやアーカンド担当は体のいい閑職なのでは……?魔法を使えないお兄様の立場は、私と同様あまりいいものではない。外交官とは名ばかりで、これまで大きな仕事を任された話などは一切聞こえてこなかった。


 頭を振って考えるのを止める。今はそれどころじゃない。



 城のあの部屋を出た時点で認識阻害の魔法をかけようと思ったけれど、この後どうなるか分からなかったので止めておいた。魔法を使うのは最終手段にしようと思って。毒を浄化で和らげて気を失ったように、また限界まで魔法を使わなければならないような事態が起こってもおかしくない。


 だから人目を気にしてびくびくしていたのだけど、驚くほど誰の目にも止まらない。フードをすっぽりかぶっているのに、不審な目で見られることもない。もしかして……そっとローブに触れる。これ、魔法がかかっている?認識阻害?これは……この国を訪れるお兄様にとって、ものすごく大切なものだったんじゃ……?


「お兄様……」


 思わず小さな声で呟く。


 お兄様は、大丈夫だろうか?

 私の兄だとバレなくても、私が逃げたと分かれば、逃げる手助けをしたのではと全く疑われずにはすまないだろう。




 1度は来たいと憧れた国、アーカンド。

 だけど、顔を上げることもできずに足早に人の波を通り過ぎていく。



 その時。


((……メル、これからどうするつもりなの?))


 牢で私を励ましてくれた声が再び頭に響いた。


((ロキ!!!あなた大丈夫なの?))


((俺よりメルの方が大変だったろ……もう大丈夫だよ。メルが大丈夫なら俺はいつも大丈夫だ))


 よかった……。また全然声がしなくなったから不安だった。ロキの聞きなれたその声に、緊張しっぱなしの体からほんの少しだけ力が抜ける。体が軽くなるようだ。




 ――というか、本当に体が軽い?まるで酸素の薄い高い山から下りてきたかのように、息がしやすい。空気が美味しい気がする。少し寝て(どれくらい寝てたのか分からないけど)、体の疲れが取れたからかな?……毒盛られて死にかけて、追われて逃げて極限状態だったもんね、きっと。今も心から安心できる状況じゃないんだけど……。


 両手の平を広げ、じっと見つめる。


((ねえ、ロキ――))



 話しかける前に、肩に受けた衝撃に言葉が止まった。無意識に立ち止まってしまっていた私に、通りがかった人影がぶつかったのだ。


「おっと!お嬢ちゃんごめんよ!」


「あっ、いいえ、私の方こそこんなところで立ち止まってしまって……ごめんなさい」


 慌てて答えて、足早に立ち去った。ほんの少し顔を上げると、ローブから覗く視界の中に、行きかう人々の足元といろんな形の尻尾が見える。

 ここは本当にアーカンドなんだ。



 とにかく、どこか安心できる場所に辿り着くまでは色々考えるのは止めておこう。


((メル、どこに行くの?))


((どこに行けばいいと思う?……黒い狼さんはどこに行ったんだろう))


((ごめん、俺もさっきまで全然意識がなかったんだ。狼のことは分からない))


 私を助けてくれた狼さん。きっとあの後、気を失ってしまった私をアーカンドまで連れてきてくれたんだろう。アーカンドについた後に私があの城で会った男の人に見つかり罪人として城に連れていかれたんだとしたら、狼さんはどこにいってしまったの?


 私が見つかる前に立ち去ってくれていたらいい。

 もしも一緒にいるところを見つかっていたとして、さすがにあの子が捕まるなんてことはないよね?アーカンドの獣人たちは私達人間と違って動物をとても大事にしている。


((ロキ……私、狼さんを探したい))


((それなら、もっと自然が多いとこに行こう。森とか?もしどこにもあの狼がいなくてもどっちにしろここより安全だろ?))



 ロキの言う通りだ。とにかく人が少ない方へ行って、これからどうすればいいかゆっくり考えたい。



((どっちに行けば森があるかな?あ、もちろん、セイブス王国に繋がる森じゃないところで))


((分かってるよ!……俺、多分どっちにいけばいいか分かると思う。メル、顔を上げてみて。そのまま右を向いた方角だ))


 とりあえず、言われた方に歩を進める。


((どうしてわかるの?))


((空気が違うから))


 空気?


((セイブスにいた時より体が軽くない?これ、瘴気がここの方が薄いんだ。俺も目が覚めてからすごい楽だ。きっと妖精が多いから瘴気が溜まりにくいんだと思う。そしてあっちの方がもっと瘴気が薄いから、多分森か草原なんかがあると思う))


 ――妖精??というかロキ、瘴気の濃さなんて分かるの?体が軽いとか息がしやすいとか、気のせいじゃなかったんだ……?それに、森や草原の方が瘴気が薄いなんて話も初めて聞いた。


 聞きたいこととか気になることはたくさんあったけど、それも全部後にしようととりあえず我慢する。とにかく今はこの場から早く離れた方がいい。



 ローブが私を隠してくれているようだと言っても、確信はない。見つかる前に姿を隠そう。


 たくさんの獣人たちの、明るく快活な声を聞きながら、私は歩みを速めた。




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― 新着の感想 ―
[一言] くだらない以外の何物でもないよね(笑)
2022/01/30 12:32 退会済み
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