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【6/12書籍発売】転生令嬢は乙女ゲームの舞台装置として死ぬ…わけにはいきません!  作者: 星見うさぎ
第1章

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逃亡

 


 森へ向かう道をこんなに遠く感じたことはない。

 毒の影響でまだ力が入らないから?それとも追われる者の心理だろうか。


 はやく、はやく森へ……そして、とにかくこの国から出ないと。



 ああ、婚約解消の心の準備はしていた。だけど、まさかこんな風に命を狙われて、犯罪者として逃げることになるとは思わなかった。


 屋敷に帰ることが出来ないかもと思っていたけれど、まさかビクターさんにお別れも言えないなんて。必要な物なんて何一つ取りに行けなかった。


 私が急に現れなくなって、ビクターさん、心配するだろうなあ。

 薬はできるだけ作り置きしているからしばらくは大丈夫だろうけど、その後は大丈夫かな。ここしばらく薬の売り上げが良かったけれど、それは需要が増えたということ。多分ますます忙しくなるのに、ビクターさん1人じゃきっと大変だよね……。


 最近は小さな瘴気が増えていた。私が浄化できなくなって、また貧民街の井戸のようなことが起こらなければいいけれど。


 そんな場合じゃないのに、自分が逃げ切れるかどうかも怪しいのに。

 頭の中では私を必要としてくれた人たちのことでいっぱいだった。



 正門には門番がいる。それにいつ私がいないことに気付いて追手が来るかは分からない。

 あの森と、そしていつも黒い狼と会っていた泉のある場所。


 あの子はいつも立ち去るとき、森の向こうに消えていった。

 つまり、少なくともその向こうに外に通じる道があるということ――。



 回復薬を飲んだのに、ふらふらする!

 目が覚めてからロキの声も聞こえない。ひょっとして私が疲れ果ててるからロキも起きてられないの?



 いつも王宮の中から裏に回って森へ行っていた。地下牢は初めてだったけれど、なんとなく場所は把握しているからどちらの方向へ行けばいいかは分かる。


 だけど、地下牢から森までが遠い。




「――おい!いたか!?」

「いや、こっちにもいない!」


「絶対に逃がすな!」



 バタバタと足音が聞こえる。森まではもう少し距離が……。どうしよう、暗闇に紛れているとはいえ、灯りを持ってこられたらすぐに見つかる!


 必死で走る!だけど、足がもつれて。


「っ!いたっ……」


 はやる気持ちと焦りで躓き、転んでしまった。



「今、音がしなかったか!?どこだ!?」

「近くにいるはずだ!探せ!」



 早く起き上がって、走らなくちゃ……。

 すぐ目の前に森が見えるのに、力が入らない。起き上がれない。


 もう、だめなの?せっかく私を信じてくれる人達が、危険を冒して私を逃がしてくれたのに。

 こんな情けない結末ってないよ!



 ガサッ!!!


 すぐ近くで物音が聞こえる。

 暗くてよく見えない上に、あんまり顔があげられない。ここまでなの?



 諦めかけた、その時だった。




「何も言わずに!背中に乗って!!!」


 不意に耳元で聞こえた大きな声。なんだか、どこかで聞いたことがある気がする――。

 誰……?


 僅かな力を振り絞って目を開け顔を上げると、そこには慣れ親しんだ金色の瞳。



「狼さん……?」


「ウウウッ!」


 黒い狼は静かな声で唸ると、私の体の下に頭を突っ込もうとしてくる。



「あっちにもいない!まさか、森の方へ行ったのか!?」

「急げ!森に入られれば見つけにくくなる!」

「絶対に見つけるんだ!」



 バタバタと、足音が続く。


「ウウッ!ウワオーーーーン!!!」


 私を励ますかのような大きな遠吠えだった。



「なんだ!?まさか、獣!?」



 追手の怯んだような声と共に足音が僅かに止まる。

 私は必死で狼の体に縋りついた。


 今までも大きな狼だと思っていた。だけど、なんだかいつも以上に大きく感じる?

 黒い狼は首元にしがみつく私を身じろぎひとつで器用に背中に乗せ、森に向かって一気に走り出した!


「怯んでる場合か!急げ!行くぞ!」


「いや!こっちにもいない!」

「まさかもう森に入ったのか!?」

「でも1人で森の奥に入って生きて出られるとは思えない」

「さっきの声……獣に食い殺されて終わりなんじゃないか?」


「とにかく、夜の森には入れない!他の場所を探すぞ!」


 声のしている場所が、どんどん遠ざかっていく。



 ――黒い狼さん、私を、助けに来てくれたの?



 すごいスピードで走っているのは分かるのに、全く落とされる感じがしない。しがみついているとはいえほとんど力が入らないのに。何かにしっかり支えられているかのような安定感だった。


 それに、風も全く感じない。ガサガサと草木をかき分ける音はするのに、何も体に触れない。それどころか少しだけ体が温かくて、まるで何かの膜に覆われて体を守られているようだ。



 安堵と疲れと、非現実的な状況に、どんどん瞼が開けていられなくなる。ああ、まるで今日起こったすべてのこと、悪い夢だったみたい。

 そしてそのまま、意識が――――。




 私はまた、気を失ってしまった。

 だから気がつかなかった。優しい声が、私を守る様に囁いていたこと。



「今度は僕があなたを、助けます――」






いつも読んでくださってありがとうございます!

次話から第2章になります。(多分章分けします)(予定)


もしよければ評価ポイントやブクマ、感想など頂ければ嬉しいです(*´ω`*)!

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― 新着の感想 ―
[一言] 鬱展開がめちゃくちゃ苦手なヘタレなので、第二話まで読んだところで一旦離脱し、時々感想欄だけ覗いて様子見していました (^^;。遂にメルディーナが逃げ出したので、先ほど頭から最新話まで一気読み…
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