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第5章~試験初日~

 いよいよ試験初日の12月6日、月曜日。午前6時30分。少し前に起床したKが寝ぼけまなこで養子の部屋を通り過ぎようとした時だった。

 サンガンピュール「ストライク・・・ブラジャー!!」

 一瞬Kはドキッとしてしまい、目が覚めてしまいそうになった。ただの聞き間違いだと信じたかった。


 サンガンピュールは緊張のせいか全く眠れなかった。そのおかげで・・・。午前7時30分。塩崎ゆうこが居候するKの家に長谷川美嘉がやってきた。彼女は勢いよくインターフォンを押した。「ピンポーン」と一度鳴らしたものの、1分経っても返事が来なかった。

 「ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン」

 それでも返事が来なかったことに耐えかねて近所の迷惑になることも顧みずに大声を出した。

 美嘉「早く起きてよ、ゆうこ!」

 すると居合わせたように玄関のドアが勢いよく開けられた。そして開口一番、

 サンガンピュール「うるさいよ、さっきから!!」

 パジャマ姿のサンガンピュールが怒り心頭という表情で出て来た。月曜の朝から怒鳴り声とはなんと近所迷惑だろうか。

 美嘉「ちょっとうるさいって」

 サンガンピュール「それは美嘉もじゃん!」

 不毛な言い争いをしている間に、恐るべきクラスメイトが来てしまった。

 あずみ「2人とも!」

 2人にとっては気まずい瞬間である。そして無言の圧力に屈したのか、言い争いをやめてしまった。そして、

 あずみ「・・・手と手を握ればお友達!・・・でしょ?」

 サンガンピュールと美嘉を握手させて解決してしまった。握手させられた2人は不満こそ残るものの、苦笑いするしかなかった。

 春「すごいよ、握手一つで喧嘩をやめさせるなんて」

 美嘉「あずみはずっとこうだからね」

 サンガンピュール「そうなの?」

 美嘉「あずみは小学生の時に学級委員長やってたからねぇ」

 サンガンピュール「あっ、だからかぁ」

 あずみがクラスのみんなから、そして教師たちからも信頼されている理由が彼女なりに分かった。とりあえず美嘉の言い分としては、普段からよく寝るために遅刻が多いのだが、今回に限っては緊張のために結局眠れなかった。そのために6時という早い時間に起床し、サンガンピュールの家に突撃したとのことだった。

 その後、あずみ、美嘉、春、エレン、そしてサンガンピュールの5人で登校。道中、春が何かボソボソとつぶやいていた。

 春「だいじょぶかなぁ・・・」

 小心者という本来の性格が如実に表れてしまっていた。

 あずみ「春ちゃん、どうしたの?」

 春「実は・・・いよいよテストというと緊張しちゃって・・・」

 あずみ「分かる分かる!私も最初の頃はそうだったもん!」

 生徒会書記の声は相変わらず元気いっぱいででかい。

 エレン「べ・・・別に緊張してなんか・・・ないし・・・」

 美嘉「えっ、エレンもなの~?このこのぉ~」

 あずみ「とにかく、せっかくみんなで勉強会をやったんだし、今日は思い切っていこうよ!」

 自分以外のみんなが勝手にまとまっていく様を見て、疎外感を感じたサンガンピュールから思わず本音が漏れてしまった。

 サンガンピュール「も~う、あずみはあたしだけに優しくしてよぉっ!」

 あずみ「何言ってるの、ゆうこちゃん。みんなでやった方が楽しいと思うのに・・・」

 美嘉「まぁ~た、『幸せの王子』が何か言ってるよ!」

 登校途中の一同には先程よりも大きな笑い声が響き渡った。


 そんな空気が変わったのは、ひかり中学の正門前でのことだった。サンガンピュールはそこで一台の気になる車を発見した。

 不審な黒いセダンのプジョー。それ以上に気になったのは、ナンバープレートの地名が宮城だということだ。それでもフランス生まれのサンガンピュールにとってプジョー、ルノー、シトロエンといったフランス車は祖国を思い出させた。実の両親に幻滅して不本意な形で土浦に来たのが2001年のこと。それから3年、スーパーヒロインとして活躍してすっかり土浦に根付いたものの、フランス車は祖国フランスへの郷愁を感じるものの一つだった。今はひかり中学校に通う「普通の女子中学生」として生活しているものの、自分の正体は学校の関係者では岩本あずみ以外知らない。

 サンガンピュールはその黒いプジョー、そのナンバープレートをまじまじと見つめていた。

 あずみ「ゆうこちゃん、どうしたの?早く行こっ!」

 試験に遅刻するわけにもいかず、校門をくぐった。

 その黒いプジョーの車内には、戸越で戦力外予告を受けていたワスピーターとセベールの2人がいた。2人は早朝6時からひかり中学校の校門前に待機していたものの、面倒くさがりのワスピーターは勝負の時だというのに仮眠をしつこく主張した。これに対し、表の世界の職場からそのまま駆け付けた闇医者・セベールも疲労困憊だったことから、「しょうがない」ということで折れ、10時まで車内で仮眠時間とした。10時を決行時間とし、武器を持って行動開始、と当初の予定を修正した。

 だが・・・。


 セベール「おい、起きろ!・・・起きろ!」

 ワスピーターとセベールの2人は車内ですっかり寝過してしまった。10時前に起きるはずが起床した頃には正午を過ぎていて、初日の試験はとっくに終わっていた。

 セベール「だらけすぎ!」

 計画が台無しになった。

 

 その30分ほど前、サンガンピュールら5人は試験を終えてとっくに下校していた。特にこの日は彼女にとって大嫌いな科目ツートップである国語と社会科の試験が終わっていたため、ほっとしていた。

 サンガンピュール「社会は葛飾北斎が出て来たよ!」

 あずみ「江戸幕府の3大改革も出て来たね。じゃあゆうこちゃん、寛政の改革は誰がやったんだっけ?」

 サンガンピュール「それ、答えられたよ!確か・・・水野忠邦?」

 あずみ「ざんね~ん!正解は松平定信でした!」

 サンガンピュール「あっ、そうだったー!!」

 美嘉「うちも忘れてたー!」

 他愛もないおしゃべりで盛り上がっていた。

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