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第1章~クリスマス前の試練~

 その日のお昼休み。校庭では10人前後の男子生徒がサッカーをしていた。今日は快晴なので、身体を動かすには何の不都合も無い。体育館では女子が有志同士でバレーをやっていた。その一方で岩本あずみに呼び出された女子4人が2年2組教室に来ていた。メンツとしてはサンガンピュールの他に同じ2組の長谷川エレン、1組の初台春、3組の長谷川美嘉、以上だ。貴重な休み時間を潰されて今にも「どうしてくれるのよ!」と言いたい顔になっているのはサンガンピュールと美嘉の2人。クラスメイトから呼ばれてウキウキしている気分のエレン。そして「これから何が始まるんだろう・・・」という不安な面持ちの春。みんな四者四様の姿で岩本あずみを待ち構えていた。

 あずみ「みんな、お待たせ!ごめんね」

 サンガンピュール「・・・『ごめんね』じゃないわよ」

 チクリと率直に言ってやった。だが生徒会書記は絶対的な自信を持っているためか悪びれる様子もなく説明を続けた。

 あずみ「みんな、今日集まってくれたのには理由があるんだ」

 春「り、理由・・・?」

 エレン「ねぇ、どんなこと?教えなさい」

 サンガンピュール「学校で何かあったの、あずみ?」

 学校の内外で大事件が起こるのではと考え始めるサンガンピュールは最早職業病だ。

 あずみ「『あった』じゃないの。これから起こるの!」

 美嘉「何なの。もったいぶってないで、さっさと言ってちょうだい!」

 あずみ「うん、それは・・・」

 全員が固唾を飲んで聞いていた。

 あずみ「・・・期末テストだよ!」


 ・・・少女たちにつらい現実が改めて突き付けられた。クリスマス前の地獄である期末テストまで2週間を切っていたのである。

 エレン「べ・・・勉強会?別にいいわよ、かったるいし!」

 すると発案者がすかさず濃厚なスキンシップを送ってきた。

 あずみ「エレンちゃん、私知ってるよ。エレンちゃんのこの前の中間テストの結果・・・」

 サンガンピュール「あれ?さては悪かったの?」

 美嘉「ゆうこ、あんたも他人のこと言えないよ・・・」

 あずみどころかサンガンピュールにまでからかわれることになった長谷川エレンはあっけなく降参した。

 エレン「も~う、いいからやるわよ!やればいいんでしょ!?」

 春「フフッ、意外だね」

 その場が一瞬ほっこりした。しかし次の瞬間、

 あずみ「ゆうこちゃんもだよ・・・」

 サンガンピュール「ギクッ・・・」

 親友から冷たい視線を感じた。あずみはかなり勉強のできる子だ。現在でも2年2組ではトップ。学年全体でも1年の2学期あたりから定期試験の総合成績では学年ベスト10の常連として校内では有名だった。その生徒会書記・あずみに睨まれたら、いろんな意味でどうなるか。彼女達には想像もつかなかった。


 ここで説明しよう。12月6日~8日の3日間かけて実施される期末テストの最大の特徴は、出題範囲がかなり広いこと。例えば歴史の場合、10月にあった中間テストの範囲は応仁の乱から関ヶ原の合戦までの約130年間。だが今回はその約2倍。範囲は大坂の陣から江戸幕府滅亡までの約250年間にも及ぶ。数学、英語など他の教科をとっても出題範囲は前回の約1.5倍。しかも今回は保健体育、音楽、美術、技術家庭という芸術系教科も入る定期試験なので、全部で9科目の対策が必要になる。実にハードな試験だ。

 さらにこの日(11月24日)には約2週間後に迫った期末テストの日程が発表された。


 1日目:12月6日(月) (1)国語(2)社会(3)保健体育

 2日目:12月7日(火) (1)数学(2)美術(3)技術家庭

 3日目:12月8日(水) (1)理科(2)英語(3)音楽


 こともあろうに、最も嫌いな科目である国語が初日の1時間目にきてしまった。続いて二番目に嫌いな社会が2時間目に配置されてしまった。特に今回の社会は分が悪い。1学期は地理を学習してきたが、2学期はずっと歴史を学習してきた。今回の期末では江戸時代(大坂の陣以降)から明治維新にかけての時代が出題範囲となる。「江戸時代の三大改革は何か」を始め、「工場制手工業はどんなだ」とか「東海道五十三次は葛飾北斎だったか安藤広重だったか」とか漢字を書いて覚える内容が山積している。フランス生まれのサンガンピュールにとっては地獄そのものだった。

 そしてさらにサンガンピュールは、とある先輩のエピソードを思い出した。先週末の20日(土)、卓球部の土曜練習でのこと。この日が試験前最後の練習日だった。休憩時間中にサンガンピュールはこんな話を聞かされ、とても驚いた。


 「えっ!?テストの成績が悪くてレギュラーから外された!?」


 話題になっているのは、引退した先輩についてのことだった。これは先輩が2年生だった前年度の話だ。ちょうど自分たちが置かれている環境とオーバーラップしてしまっていて、現実味をもって語られていた。

 部員仲間「この前引退した村上先輩は、2年の時の2学期からテストの成績が落ちてきて親に叱られるようになり、精神的に疲れてきて部活にも身が入らなくなった」

 サンガンピュール「うん、知ってるよ。物凄く落ち込んでたもんね」

 部員仲間「その後、遂にはレギュラーから外されたって」

 この会話は、現2年生部員の多くが「次回は我が身だ」と実感させるのにふさわしいエピソードだった。

 昨日、今日と突然提案されてもすんなり全員が同意できるはずが無かった。みんなは塾や習い事などで忙しいのだ。そうこうしている内に午後1時10分、昼休み終了5分前のチャイム(予鈴)が鳴った。

 美嘉「ねぇ、チャイム鳴っちゃったじゃん!外に出かけたかったんだよ!」

 あずみ「ごめん、突然言い出して」

 春「あずみさんって勉強できるけど、たまに押しが強いところあるよね」

 呼び出されたメンバーからは不平の言葉ばかり出てしまった。結局この日は5人全員の都合が合う日を探し、その日にあずみの自宅で合同勉強会をすることが決められた。

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