プロローグ
2004年11月24日、火曜日の早朝。数日前から年の瀬が近づくにつれて、日の出の時刻が急激に遅くなっていくのをサンガンピュールは感じ取っていた。この日も2階の自分の部屋は物凄く冷え込んでいるように感じていた。彼女の部屋はいくつかの意味で女の子らしくない。ぬいぐるみやアニメキャラのグッズで囲まれたようなファンシーなものでもなければ、整理整頓が行き届いたと言えるものでもない。ディズニーのグッズには「アメリカのものだから」と相変わらず嫌悪感を示す。清潔さにしたって、つい先日Kに命令されて部屋の清掃を始めたものの、中途半端な片づけをして終わりというものだった。壁に掲げられているのはカレンダーと時計だけで、割と殺風景な雰囲気だ。そんな中、サンガンピュールはもうすぐ午前6時30分という時刻だが、スースーと呼吸の音を立てながら爆睡していた。その静寂の雰囲気を打ち破ろうと一人の男が彼女の部屋をノックした。彼こそが、養父のKである。
K「お~い、起きろ~!もう6時半だぞ!」
朝の恒例ともいえるにわとりの鳴き声ならぬ、Kの起床の催促の声がドア越しに聞こえて来た。あと15分ほどで出勤のために自宅を出なければならない。7時までに土浦駅に着かなければ目当ての電車に乗り遅れてしまう。
サンガンピュール「うう・・・布団から出たくない・・・」
寝ぼけと冷え込みを感じる声が混ざっているのが漏れて来た。
朝食を終え、少し寝ぼけたままボサボサの髪の毛を整える。おしゃれに加えてこのお年頃は肌の調子や生理にも気をつけなければいけない。
サンガンピュール「これだから女は嫌なんだよなぁ。いいなあ、男は・・・」
実際の社会では鉄道での女性専用車や映画館でのレディースデーなど、男性が男性であるからこそ損している部分もたくさんあるのだが。「隣の芝生は青く見える」とはこのことである。
出かけるのが億劫な気持ちのまま、8時過ぎに家を出た。空は雲が少ない青空。だがその半面、朝から北風が吹きつけており、コートなしでは寒く感じるようになった。そんな肌寒い中登校すると、校門前で親友の岩本あずみの姿を見つけた。生徒会役員総出で落ち葉掃きをしていたのだ。
サンガンピュール「あっ、そういえばあずみは何かに選ばれてたよね!」
あずみ「その『何か』が生徒会書記だよ!」
サンガンピュールは2か月前にあった出来事を思い出した。
ひかり中学校では年中行事の一環として毎年9月に生徒総会がある。それと同時に、全校生徒による生徒会役員選挙が行われる。しかも土浦市の選挙管理委員会から本物の投票箱を借りて、自分の票をそれに入れさせるという本格的なものだった。この年の選挙ではサンガンピュールと同じ2年2組の岩本あずみが生徒会役員に立候補したのだ。生徒会長、副会長、書記、一般役員6人の計9人が改選されるこの選挙への立候補者は11人だった。少数激戦だったが、あずみは見事書記として当選を果たしたのだ。
あずみ「ところでゆうこちゃん、昼休み時間ある?」
サンガンピュール「へっ!?」
突然聞かれたことに少々びっくりしてしまった。
サンガンピュール「・・・あるけど?」
あずみ「あぁ、良かった」
サンガンピュール「どうしたの?」
あずみ「実はね・・・、付き合ってほしいの!」
親友の言っていることは甚だ抽象的で、読解力が低い自分には何を言いたいのかさっぱり分からなかった。
サンガンピュール「どういうこと?」
あずみ「まぁまぁ、詳しいことは後で説明するから」
「付き合ってほしい」という言葉の意味が分からないまま、その日は授業を受けていった。どの教科に限らず、教員が「テストに出るからちゃんと復習しろよ」と異口同音に生徒に伝えている。しかし彼女の頭にはその忠告が入ることはなく、右耳から左耳へ通り過ぎるだけ。いつものようにぼーっと窓の外の景色を眺めていた。




