第8章~決着~
あずみ「嫌ぁぁぁぁっ!!」
あずみがサンガンピュールを庇おうと昇降口から飛び出した。ザンギュラのパンチを受けて既にフラフラの状態だったサンガンピュールは、親友の抱擁によって右手側に倒れた。結果として高速ラリアットを交わすことはできたが、突然の出来事に彼女はどう考えて良いかすらわからなかった。
サンガンピュール「あずみ・・・どうして・・・」
あずみ「だって・・・学校のみんなを守るのは・・・生徒会役員としてやらなきゃいけないことだから・・・。もちろん、ゆうこちゃんのこともだよ」
サンガンピュール「あ・・・ありがとう」
苦々しい表情だったが言葉からは照れていることがバレバレで、勇者がツンデレ少女のように見えた。しかし
サンガンピュール「・・・でも・・・」
ここで正気に戻ったようだった。次の瞬間、
サンガンピュール「・・・なんであたしのフィールドに割って入るのさぁっ!あたしのペースが崩れちゃうじゃない!放っといてよ!」
いきなり怒鳴り散らした。自分流の戦い方を邪魔されると機嫌が悪くなるのだ。ましてや味方サイドだったら尚更だ。
あずみ「放っとけないよ!」
謎の使命感に燃える親友に対し、遂に業を煮やした。
サンガンピュール「あずみっ!!」
今までにない強い口調で怒鳴った。
サンガンピュール「・・・ここは危険よ。下手したら命を落とすような戦いなのよ。・・・相手の頭を拳銃で撃ち抜いたこともあったわ。これからもあたしはどれほど残虐なことをするかは分からない。だから・・・」
親友は、おぞましい表現を聞かされて少しは鳥肌が立っているように見えた。
サンガンピュール「だから、あんたのような真人間がここにいたら尚更危険だわ。今すぐ学校の中に逃げてっ!」
あずみ「ゆうこちゃん・・・」
あずみにとってはこんなことは初めてだった。それと前後して、本音を聞かされた。
サンガンピュール「大体、あずみが死んだらあたしが困るのよ!!誰があたしを支えてくれるの!?誰があたしに勉強を教えてくれるの!?」
それと前後して、2年2組教室から大きい掛け声が聞こえた。
エレン「ゆうこ!あずみ!」
長谷川エレンだ。だが実際、町を守るスーパーヒロイン・サンガンピュールとひかり中学校の生徒・塩崎ゆうこは同一人物であるのだが、この学校では岩本あずみ以外の者はその事実に気づいていない。エレンはサンガンピュールの姿を誤認してしまっていたのだ。
女子A「違うよ、あれは塩崎さんじゃなくてサンガンピュールだよ!」
女子B「そうだよ!サンガンピュール!知らないの?」
エレンは頭が混乱してきたせいか、それ以上言うのをやめてしまった。だがそれでも、先ほどのエレンの発言をきっかけに、教室の窓際には生徒があふれ、ギャラリーができてしまった。
男子A「見ろ、サンガンピュールだぜ!」
男子B「ほんとだ!すげーかっけぇ!」
女子C「なんか凄そう・・・」
校庭のサンガンピュールとあずみはこの光景に気づいて振り向いた。
男子A「行け、サンガンピュール!負けんな!」
当のサンガンピュールはうれしいやら恥ずかしいやら複雑な表情になった。顔が真っ赤になってしまっている。
あずみ「あれ?顔が赤くなってるよ?」
サンガンピュール「う・・・うるさい!とっとと行くわよ!・・・とにかくあずみも早く戻ってよ!」
あずみ「うん、分かった」
あずみが今度はすんなりと昇降口まで戻ったことで、ガチバトルの舞台は整った。
ワスピーター「これで邪魔者は消えたようっすね」
セベール「感心してないで早く捕獲するぞ!行けっ、同志・ザンギュラ!とどめの一撃だっ!」
ドンレミ騎士団の司令官が怪人に指令を出し、怪人もその期待に応えようとした。
ザンギュラ「スーパーキック!」
ロケットのような超高速キックを動体視力でかわし、反転攻勢の足掛かりとした。まずは巨体をかわした後にライトセイバーを出して、がら空きのザンギュラの背中をズブリと突き刺した。
ザンギュラ「んだあああああああっ!」
ワスピーター「ザンギュラ、振り払うんだ!」
サンガンピュール「あんた達の思い通りには、いかないよ!」
振り落とされそうになりながらも、高温のライトセイバーで何度も突き刺した。そして、急所に当たったのか、
ザンギュラ「うわああああああっ!!」
断末魔を挙げながら体から白い光が発光。爆発して消滅した。そして体内から素体となる女の子が出てきた。
サンガンピュール「あずみっ!その子を!」
あずみ「分かった!」
あずみは急いで素体となった女の子を安全な場所に移した。
タイミングを同じくして杉山組の援軍も到着し、相手は20人ほどになった。
ワスピーター「くそっ!しょうがねえ!行けっ、杉山組!ウリアッジョー!協力してサンガンピュールを倒せ!」
鷲津「了解!お前ら、束になって襲うぞ!」
犬山、鷹山、鬼柳「おう!」
ウリアッジョー「了解!」
この瞬間、サンガンピュールは味方サイドも恐れる殺戮兵器に変身した。相手が6人と2体から、20人と1体になったとしても彼女の戦闘スタイルは変わらなかった。正面突破の後、身長130センチほどの小柄な身体を活かしてすばしっこく移動し、敵を翻弄していく。彼女のライトセイバーに対応できず、自然に屍が増えていった。杉山組のメンバーの多くは、重度の火傷か深刻な切り傷によるものだった。
ワスピーター「くそっ!援護するぜっ!」
ワスピーターが拳銃を取り出して遠方から援護射撃をしようとした。だが彼女にはその光景がはっきりと見えていた。卓球部での活動で培った動体視力と冷静な判断ができるようになったおかげだろう。すかさず右手から念力を出した。
ワスピーター「う、う、うわあ、わ、わ、わ、わぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ワスピーターを空中へ浮上させた後、地面へ激突させた。
セベール「同志!・・・おのれ・・・!」
そうこうしている間にも、サンガンピュールはまるで戦争もののテレビゲームで敵兵を殺すことと同様に、杉山組のメンバーを殺していった。そして、もう一体のニュートリノの戦士・ウリアッジョーに対しても同様だった。相方を失ったウリアッジョーはどのように対応したら良いか分からなかった。
セベール「行けっ、ウリアッジョー!高速回転ラリアットだ!!」
指令を出した。だがこの選択が大きな間違いとなった。
ウリアッジョー「うおおおおおっ!」
怪人が右腕を突き出しながら突進してくるものの、
サンガンピュール「同じ手には引っかからないよ!」
真横へすぐによけた。だがかわしたものの、ウリアッジョーから見て右手側に少し出てしまった。その瞬間を怪人は見過ごさなかった。サンガンピュールは上着の背中側を掴まれ、投げ飛ばされてしまった。
サンガンピュール「痛っ!!」
小さな勇者はけやきの木に激しくぶつかった。
あずみ「ゆうこちゃん、負けるなぁぁっ!!」
一番の理解者は昇降口で一部始終を見ていたが、大ピンチに思わず絶叫した。
ウリアッジョー「うおおおおおおっ!」
再びラリアットを繰り出すものの、これはかわした。何とか校舎のある左側へ逸れた。怪人の拳はけやきに直撃した。ドシンという衝撃音が広がり、残り少ない枯れ葉が地面にゆらりと落ちた。その後、方向転換した怪人がパンチを数発繰り出すも、彼女はいずれもかわした。今度は左足から強烈なキックが飛び出すが、サンガンピュールはジャンプで飛び越し、目の前にあるけやきの木を登った。そして高さ2.5メートルほどある大きな枝に移った。
セベール「何グズグズしてる!同志・ウリアッジョー、早く蹴りをつけろ!」
怪人は枝の上のサンガンピュールに目をやると思わず先ほどまでと同様に右手でパンチを入れようとした。その瞬間、すばしっこい彼女は枝から大きなジャンプで飛び降りた。ウリアッジョーの背中はガラ空きとなった。そこから彼女はライトセイバーを抜刀し、怪人の背中に突き刺した。
ウリアッジョー「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
再び学校全体に絶叫が響き渡った。そして、すぐに背中から刃を引き抜いた後、ウリアッジョーはバランスを崩して前かがみになって転倒した。
サンガンピュール「今だっ!」
怪人の背中をツタツタと渡って前方へ回り込み、眉間に一刺し。
「ウガァァァァァァァァァァッ!!!」
断末魔の叫びからほどなくして、ウリアッジョーから白い光が放たれた。
男子A「うわっ、まぶしいっ!!」
女子C「きゃあっ!!」
まるで核爆発が起きたかのようにまぶしい光が起き、校内は大混乱に陥った。そしてシュポッという音と共に素体となった少女が吐き出された。先ほどと同様に、その少女の身体をあずみに託した。
これで怪人2体という厄介な相手は消えた。するともうサンガンピュールの独壇場であった。
サンガンピュール「さぁ、あとはあんた達だけだよ!」
相手は恐れおののいた。
ワスピーター「お・・・に・・・逃げろ・・・!逃げるっす!!」
セベール「そうだ、逃げろ!任務は失敗だ!!」
ワスピーター、セベールの2人にとってはもう後が無い一戦だった。この戦いに敗れれば、支部長という立場どころか自分たちの生活が危うくなる。絶対に負けられない戦いのはずだった。だが内実はグダグダだった。ワスピーターは面倒くさがりだったし、セベールも老舗病院の経営者という自分の立場を気にしていた。そしていざという時に寝坊してチャンスをフイにした。ニュートリノの戦士が2体とも倒され、素体となった少女が救い出された。勝ち目がないと感じたドンレミ騎士団と杉山組の連合チームは撤退を始めた。
サンガンピュール「逃がさないんだから!」
自身の両手で握りしめられているライトセイバーがジリジリとパワーを貯めていく。大技を決めるためだ。その間にもワスピーター、セベール、そして杉山組の中で生き残ったメンバー達は逃走のための車に向かっていった。特に杉山組は戦闘の結果、犬山、鬼柳といった主要メンバーが敗死し、生き残ったメンバーは5人ほどにまで減少していた。しかしその彼らが間もなく校門に到達する。フルパワー攻撃をするには時間が足りなかった。しかも校舎から校門までにはグラウンドやけやきの木がある。それらを避けながら攻撃しなければならず、尚更集中力が必要だった。
起動から1分ほどが経過して、ようやくフルパワー状態になった。そして思いっきり剣の柄を構えて、矛先を逃走車である黒いプジョーに向けた。
サンガンピュール「ストライク・ブラスター!!」
「しゅぱーーーーん!!」
赤い光が矛先から発射された。彼らは既にエンジンを稼働させていたが、タイミングが遅すぎたようだ。
鷲津「うわぁぁぁっ、お母さああああん!!」
ワスピーター「死にたくなぁぁぁいっ!」
セベール「同志・エドゥアール、ばんざぁぁぁぁい!!」
赤い光が届いた瞬間、彼らの最期の叫びと共に黒いプジョーが爆発・炎上した。全員即死だろう。
サンガンピュール「これで・・・一件落着ね」