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依存の行く末

作者: 酸化する人

誰もが何かに依存して生きている。

しかし、その依存の有り様は様々である。


ある人は、物に依存する。

自分には足りないモノがあると考え、それを物によって補おうとする。

しかし、手に入れても手に入れても、飽くなき物欲から逃れることなどできはしない。


ある人は、自分自身の過去に依存する。

過ぎ去った過去というものは、時間が経てば経つほど甘美なものに見えてくる。

そして、もう二度と戻ることなどできない場所に思い焦がれる。


ある人は、可能性に依存する。

可能性というのは、最初のうちは無限のように思える。

だが、いずれ見えてくる自分の限界というものに、打ち砕かれていく。




「教授!発言してもよろしいでしょうか?」


この声は…。草壁か。

トップクラスの成績を修めているはずなのに、うっとうしいという理由で数多の人間から、不評を買っている―言わば、嫌われ者だ。


「…なんだね?」


「さっきから、依存が悪いことであるかのようにおっしゃっていますが、俺はそうは思いません。」


「ほう…。なぜだ?」


「依存がそんなにも悪いモノだとするのならば、それを持つ人間たちは、はるか昔にほろんでいたはずです。しかし現状は、人間は生き残るだけに飽き足らず、科学や文明を育んで生活水準を向上させることにさえも成功しています。よってこのことが、依存は悪ではないという確たる証拠となります。」


「…悪くない意見だ。確かに依存というモノは、生きる希望と言い換えることもできなくはない。そうなるかどうかは、君たち次第だがね。…さてと、これで講義を終わりだ。…席を立ってもらってもかまわない。」


学生たちが、講義室から出て行くさなか、さきほどの自分の発言に思いを巡らせる。


依存も生きる希望となりえる…か。

笑いがこみ上げてくる。


その言葉に、対してではなく、その言葉を発した自分に対して…。


「すみません。まだ俺の話、終わっていません。」


「…まだ何かあるのか?」


「誰もが何かしらに依存しているのだ、とおっしゃりましたよね。教授も例外ではないはずです。」


「なにが言いたい。」


「いや、なにが言いたいっていうか…ただ教授の依存しているモノを聞きたいなと思いまして…。」


なるほど。

確かにうっとうしい。

どうりで嫌われるわけだ。


「私の依存しているモノか…。聞いてどうするんだ?」


「どうもしません。ただ知りたいだけなので…。お願いします。教えてください。」

何度も何度も懇願される。

本当にうっとうしいな。

コイツ。


「…。死人だよ。」


「へっ?」


「文字通り。死人だ。私は死人に依存している。」

最愛の人の死。

取り戻したいという欲望。


これらは、いずれ自分の身を滅ぼすことになるだろう。なにせ希望というものとはほど遠い感情を、己の依存に対して抱いているのだから。





「ありがとうございます!参考になりました。」


そう言うと講義室をものすごい速さで出て行った。


「はっ?」

予想外の草壁の反応に拍子抜けする。


そしてその瞬間、笑いがこみ上げてきた。


なるほど。

ヤツは根っからの嫌われ者というわけか…。


笑い声が、教室の中を反響する。

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