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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編恋愛シリーズ

夜に響く虫の音色は藍の色

作者: 三上 空

 「はぁ~」


 溜息もしたくなる。

 別に夏の暑さにやられたからではない。

 俺には幼稚園の頃からの腐れ縁で、中学ではヒーローとアイドルみたいな、才色兼備な幼馴染がいる。

 

 俺の名前は、日向夏樹。

 そしてさっき言った幼馴染は、結城優月。


 昔からほぼ常に一緒にいた。

 いわゆる幼馴染パワーだ。

 そんなもんあるかはこの際知らん。

 が、中学に上がると俺も、あいつ(優月)も部活に打ち込んで疎遠になった。

 あいつは頭もいいし、部活の成績も優秀。

 それに引き換えて俺は・・・・

 

 まあ今回は俺はどうでもいい。

 

 2025年8月1日


 この日、俺は初めて告白をした。

 そして、


 2025年8月3日


 に初めてフラれた。


 優月は、部活じゃ県大会は余裕、全国は目前の最強。

 テストは当然の如くに2位。

 

 まあそうだ。

 俺は部活じゃまあ普通だったし、テストもやらなきゃ殺されるから頑張ったくらいだし。

 釣り合わない。

 まあ結果は妥当。

 けど心が追っつかない。


  ☆


 あたしの名前は結城優月。

 

 「はぁ~」


 別に暑さに当たって溜息をついたわけではない。


 「マジ、何考えてんだろ?」


 幼馴染で腐れ縁で、部活じゃ最強。

 勉強は1位。

 

 なのに、なんであたしなんだろう。


 そもそも、釣り合わない(・・・・・)

 やっぱりあいつのために、私じゃない人と付き合って貰おう。



  ☆


 本日8月5日なんでか急に縁談があるらしい。

 俺はよく聞かされなかった。

 そして相手も。


 「「はぁぁ!?」」


 ビビった。

 目の前にいるのが、


  ☆


 「「なんで!?」」


 何で夏樹なの?


 「「こほん」」


 うわ、芝居がかってる。


 「「結婚しろ」」


 両親揃ってそれは無くない?



 「待て、俺はまだ結婚できないぞ」

 「別に正式に籍を入れなくていい、まだ(・・)婚約者でいればいいじゃないか」

 

  ☆


 ぶっ飛ばすぞクソ親父、とは思ったが懸命に抑える。

 だが・・・・


 「・・・けんな」

 「・・・ん?」

 

 楽しそうに茶をすする、両両親に向かって全力でキレないとは言ってない。


 「・・・・ふっざけんじゃねぞ、おい」


 ポカーンと間向け面を垂れ下げる親ども。


 「あんたらは、こいつの意思を聞いてやってんのか?

・・・自分から縁談したいって言ったのか?」

 「・・・・それは・・」

 「それは何だって聞いてるんだ」

 「君たちが疎遠になってるから、よりを戻してあげようと(・・・・・)・・・」

 「なんであんたらが上からなんだよ、それを決めんのは俺らだろ」

 「・・・」


 俺は普段キレない。

 そうだな、キレたのは・・・・5年ぶりくらいだ。

 昔、優月がなんちゃって不良君達に、絡まれてるのを見てキレた程度だ。


 「俺は多少の我慢が効くよ、俺だけが巻き込まれるんならな・・・ただな、こいつの意思を聞いてもないのになに勝手やってんだ?」


 だんだんと凄みを増して圧をかける。青筋を立てているのかどうかは知らないが、額の血管がブチッと切れる音がする。


 「こいつがそれ(・・)でいい、じゃ駄目なんだよ・・・こいつがこれ(・・)がいいじゃなきゃ意味がないだろ!」


 そう、見合いをするならするで、妥協はしてはいけない・・・と俺は思う。


 「・・・・やはり君に言ってよかったかも知れない・・・が、今日は帰ろうか」


 なんだかよくわからんことをまだほざいてあいつの父親は出て行ったが、そんなことは気にしない。

 俺は両親に向き直ってこう言った。

 

 「次こんなことがあったら、容赦はしない。あんたらに指図されんでも自分で相手ぐらい見つける」


 これは本心であった。

 がおかしい。

 俺は、あいつが好きだ。

 だから告った。

 だけどフラれた。

 そう、あいつが欲しいなら、この縁談に頼ってもよかった。

 だけどそれは出来なかった。

 それは俺が意気地なしだからとかじゃない。

 彼女は自分で選ぶ権利がある。

 だから選んでもらえる人になろう。


 俺のささやかな決意だった。


  ☆


 「あぁあぁ~!あいつ~!」


 私は部屋に籠り、さっきのことを思い出していた。

 何であんなことを平然言うかな。

 

 「はぁ~」


 ため息が漏れる。


 そしていつの間にか日も暮れていた。


 「あ!やばい!」


 そう今日は、いわゆる夏祭りが近所の神社で行われる。

 友達と行く予定が、思いっきり遅刻していた。


 「あ~!マジでやばいよ、カナ絶対怒ってんじゃん!」


 そして、彼女の景色は暗転する。


  ☆


 俺は何をするでもなく近所を散歩していた。

 浴衣姿の人がよく往来してる。

 まだ夏の湿気は感じるが、ひんやりとして、きれいな鈴虫が、リリリリリリリリという音を奏でる。

 

 しばらく歩くと、浴衣を着て走っている優月がみえた。

 煌びやかな浴衣で、小股に走る優月はたまに足を絡ませながら祭りの行われている神社へと走っていた。

 走ると危ないぞと言おうと思った次の瞬間、彼女は交差点に躍り出る。


 見たところ信号は赤。


 (ヤバい!)


 一瞬で何か確証を得た俺は、全力で地面を蹴る。


 が、届かない。


 (届けぇ!!)


 なぜか周りはゆっくり進む。

 だけどそんなこと気にしてられない。


 進む、進む。

 だけど届かない。

 けど、


 「とど・・・けぇぇぇぇえええ!!」


 全力を出し怒号を轟かせ、


 ドン!ドガンッ!と音が鳴る。

 手に、物を押した感触と、横から押し寄せる衝撃が一緒くたになって脊髄を伝い、脳へと届き、そこでやっと痛覚を自覚する。

 横に錐揉み回転しながらまだ周りはゆっくり進む。


 地面に投げ出され、肋骨が肺に食い込む感触がする。


 空を見る。


 「・・・キレイ・・だな」


 花火と、鈴虫の音だけが俺が見た世界だった。

 そこに、整った顔ときれいな透き通るような黒髪が割って入る。

 きれいな顔を歪めて、泣きじゃくっている。

 正直見惚れて、一瞬にしてアドレナリンが出たように痛覚が消える。

 お、すげぇ、面白いくらいに都合がいい。

 それでも体は強張っているので口を開くのに少し苦心する。


 「・・・なん・・で」

 「なんでも・・・くそも・・・ねえだろ」

 「・・・けど・・」

 「べつに・・・死ぬわけ・・じゃ・・あるまいし・・」


 と言葉とは裏腹に血は流れ、息をすれば骨が刺さり、頭蓋は割れるような感覚が一気に押し寄せ、寒くなっても来た。


 「だいじょ・・うぶ・・むり・・・すんな・・・よ」


 動かなくなり始めた手を無理やり持ち上げ優月の頭に手を置く。


 「あとでな」


 この言葉がすんなり出るだけもう問題ないだろう。

 ゆっくりと重くなった瞼は、サイレンと、花火と、慟哭にかき消され、鈴虫の音色はきれいになくなる。

 静かに閉じた瞼は上下に張り付き、動かない。脱力し重力に身を委ね意識を手放す。

 そして俺が2度と瞼を開けることは無かったという。


  ☆

 

 私は絶望の淵にいる。

 が私はそんなこと言えるか分からない。

 

 2025年8月5日


 日向夏樹 15歳が亡くなりました。


 病室には、なぜか虫の音だけが鳴り響いた。

 

  ☆


 お前なぁ自分責めても意味無いだろ。

 俺は死んだ。

 けど考えてもみなよ。

 俺は車に突っ込んだんだぜ。

 俺の間向けな前方不注意だろ。

 まあいいや。

 大好きだぜ。

 じゃぁーな!


 ☆


 「何言ってんのさ・・・ホント・・バカだなぁ・・」


 なんだか遠くから聞こえた声は彼の物その物で

 なんだかそういうロマンチストでバカな彼を私は愛してるのだろう。


 そして思いあふれた音は、五月蠅い虫が消してくれた。

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