闇落ちの治療
週末いつもの治療を終えて病室で目を覚ました。
「目が覚めたかい?」
「え?ああ。叔母さんか。うん。大丈夫だよ。」
「最初はどうなるかと思ったが。」
「いや、良いんだよ。早く治したいからね。」
俺は母さんの付き添いをなくしてから大人と同じやり方で治療を続けていた。母さんには言えないからな。今では適当に理由をつけて母さんには叔母さんの自宅で待ってもらっている。
「無理はしないでおくれよ。こっちもちゃんと見ながらしてるから大丈夫だけど。レイチェルにバレたら怒られるもんじゃないだろうからね。」
「ああ。わかってるよ。それよりも今日はどうしたの?」
「ん?ああ。いろいろ決まったからね。ウルからも知らせがあった。軍の方からも説得してもらった甲斐があって時間稼ぎは出来そうだね。」
「ん?時間稼ぎ?」
「ああ。根拠がない以上、軍は動いてくれないんだ。ウルに裏で動いてもらった上で、軍からバルフ国にエルフ国への援助依頼をしてもらったんだ。軍ができるのは、それで精一杯だとさ。でだ、カーティス家から結界師が派遣される形になった。」
「カーティス家から!?……結界で街を守るの?」
「いや、逆だね。迷いの森に直接かけて、内側からも外側からも出入りできない様にするんだ。だから時間稼ぎなわけだ。」
「なるほど。異変があれば軍は動くってことか。」
「ああ。そういうわけだね。だから今年の魔闘祭にはバルフ国の王家とカーティス家が招待されるそうだよ。」
!?
「……そうか。ならアメリアも……アイツも来るんだね。」
アメリアに会えはしないだろうが見る事は出来るかな……。ただ隣にはアイツがいるんだろう。
あの日のやり取りが脳裏に浮かび、あのクソ野郎の顔が蘇る。
ズキンとこめかみ辺りに痛みが走った。
「アメリアは大丈夫と以前、父様から聞いたが…アイツはオレに言った。だから未だに信じられない。裏でアメリアがツライ思いをしてるんじゃないか。
王子の嫌がらせがなくても、婚約破棄してからの王子との婚約が原因で酷い扱いをされてるんじゃないのか。そもそもアイツがなんで嫌がらせをしない。あんなに嫌がってたくせに。なんで俺が側にいてやれない。」
頭に痛みが増していくのと一緒にうちにある不安が溢れ出してくる。
叔母さんが強く握りしめる手にそっと手を添えてくれて、優しく握られる。
「大丈夫。マリッサがついてるし、学園で話を聞く限り昔からの友人や、信じられないだろうが王子が
守ってくれているらしいからね。アメリアには会ったことがないからわからないが、良い子なんだろう?」
「……うん。努力家で、気遣いもできて、俺と同じで差別が嫌いで、誰に対しても優しいんだ。ただ寂しがりやで負けず嫌いなとこがあったり、自分の心に蓋をして本心を隠して無茶をしたり……。」
「そうか。クルトみたいだね。一度話してみたいね。じゃあ王子もアメリアと共に過ごすうちに心変わりしてもおかしくないんじゃないか?」
「えっ!?……ああ。そうかもしれない。でも…。」
「アメリアはクルトが好きなんだろう?」
「うん。そう…だと思う。」
「ウルから聞いたが、クルトの前では楽しそうに笑うらしいじゃないか。ウルはその笑顔を見た時に驚いたらしい。彼女のそんな笑顔を見たことがなかったらしいからね。子供らしく笑わないとアメリアの父親からも相談をうけていたらしい。まあ、アイツじゃ役不足だったろうが。変わったのはクルトに恋したからだろう。」
「うん。以前言われたけど…。」
徐々に頭の痛みが引いていった。
「なら心配することないじゃないか。アメリアはすぐに心変わりしちまう軽い子なのかい?」
「そんな事はない!」
「なら早く治して、迎えにいかなくちゃね。」
「うん。………あれ?え?俺なんで?」
頭の痛みは消えたが混乱し始めた。治療はうまく進んでいたはずだ。そもそも、症状なんかたまにある頭痛ぐらいで……酷くなった?
「大丈夫だよ。ようやく兆しが見えたね。」
俺の困惑した顔とは裏腹に叔母さんはホッと一安心した様子で椅子の背もたれに寄り掛かった。
「どういう事?」
「…そうだね。なんて言ったら良いのか。…闇落ちする薬には意思があると考えているんだが。解薬が調和して無くなってくると、体内に残ってる薬物が消滅しない様に活性化するんだ。今のがそれだね。今、投与している薬は消すための薬だ。抑えるためのものではない。子供だからなのか兆候が出でこなかったから心配していたんだ。…良かったよ。」
「そういうものなんだね。…良かった。でも、だったら先に説明してくれても良かったんじゃないの?」
「できたらしてるさ。闇落ちの進行が一時的に酷くなるのは人によっちゃあ、本当に悪化することもある。もちろん、レイチェルには言っておいたからね。本当なら自覚させておいた方がいいんだが、話した患者の方が失踪率が高いんだ。」
「なんかへんだね。それ。」
「ああ。結果的に良くなっているのは間違いないんだがね。なんども失敗して、…後悔して、1番いい方法をとっているんだ。この闇落ちの薬はおそらくなんらかの条件がそろうと増殖するんじゃないかと仮説はたてているんだが、そこはまだなんだ。消す事は出来るんだがね。まだ完全に解明できてないんだ。残念ながらね。」
「でも消せるんだよね?」
「ああ。私も疑問だらけだよ。消せるのだから増殖も抑制し続けれるはずなんだが。しかし、治療中の患者が失踪するのは未だにある事なんだ。正直、治す薬も試行錯誤する中で唯一見つけれただけで、なぜ効いてるか、抑制力が効かなくなる原因はわかってないんだ。まあ、私は本人の意志の力だと思っている。」
「本人の意志?」
「恨みや、嫉みに負けずに自分の善意を持ち続けれるかどうかだ。クルトは1人じゃないんだ。私たちがついているからね。不安になるんじゃないよ?」
再度、俺の手を握る叔母さんに感謝しかなかった。
「うん。ありがとう。」
ちょっと照れ臭くなって頬をかきながら視線を外してしまった。そんな俺に優しい笑顔を向けてくれていた。
「少し横になりな。後、今日明日は入院だからね。念の為だ。状況次第じゃ明後日もだね。」
「え!?そこまでするの?学校が…魔法の勉強が…。」
俺の絶望した顔を見た叔母さんが顳顬に手を当てながらため息を吐かれた。
「1日くらいいかなくても大丈夫だろ。それでなくても優秀だときいてるからね。それに兆しが見えたんだ。何があるかわからないんだから我慢しな。」
「……はい。」
叔母さんの強い口調に押し負けして明日までの入院が確定された。
「そういえば今回の魔闘祭はバルフ国の生徒も出るらしいぞ。」
部屋を出ていく前に、ツイデ程度に言ってきて俺の時間が止まった。
「え!?」
どう反応したら良いのか…。ただなんかやりづらそうだなと思ってしまったのはしかたないと思う。
「そんな嫌がるんじゃないよ。お前さんを向い入れたし、この調子でバルフ国との友好を深めるためだろうね。まあ、自国の生徒の優秀さを見せつけるためとも受け取れるが、あの校長だ。前者だろ。」
「はぁ。なんか憂鬱だな。」
「まあ、まだ先の話だ。今は休みな。」
「うん。ありがとう。」
部屋を出ていく叔母さんを見送り、病室の天井を見つめながら少しボーとした。
アメリアに会える。…会えると言われても未だに実感が湧かない。モヤモヤした気持ちのまま意識をはなした。




