アメリアとアルベルト
学園登校日の朝。頭が重い。昨夜はあまり眠れなかった。唯一、ここ数日、アルベルトの私に対する接し方が優しくなったお陰で気は楽になったのが救いになっている。これなら周りがなんと言っていようとも時間が解決してくれると思う。ただ友人達やキリカが噂をどう思ってるのかと不安になる気持ちは抜けずにいた。噂は良くてもアルベルトと仲良くしている様に振る舞えなければいけない。それを見た時の3人がどう思うのか?どっちに転んでも不安でしかない。
それにずっと自分を誤魔化すことがこんなにもキツいとは思ってなかった。たまに見せるアルベルトの笑顔を見るたびに心が痛くなる。
今日は王城からアルベルトと共に学園へと向かうことになっていた。
「おはようございます。アメリア様!!……ご気分でもわるいのでございますか!?」
「おはようマリッサ。いいえ。大丈夫。あまり眠れなかっただけよ。」
私はなんとか体を起こしマリッサの心配そうな顔に申し訳ないと思った。
「しかし……。」
「ごめんなさい。今日は薄く化粧をお願いするわ。」
私は起き上がり洗面台に向かいながら言った。
「かっかしこまりました。直ぐにご用意いたします。朝食の時間まではまだございますのでご心配頂かなくとも大丈夫かと。制服はすでにご用意してございます。このまま支度をさせていただきます。」
「ええ。お願い。」
私は顔を洗い、歯を磨きながら自分の顔を鏡で見た。確かにこれじゃあマリッサも心配するだろうなと思うくらい酷い顔をしていた。私はため息を吐きながら化粧台へと移る。そこから化粧、着替えとマリッサに手伝ってもらいながら済ませた。そこから朝食を取るために部屋を出た。
(ごめんなさい。私がなかなか立ち直れないばかりに。もう大丈夫よ。ここからは私がなんとかするわ。)
頭の中で久々にもう1人の私が声をかけられた。未だに魂は二つのままだ。ザハルの死が彼女にとっては相当ショックだったようで今日この時まで全然出てこなかった。
(いいのよ。気持ちは充分わかるから。でもごめんなさい。少し私も休むわ。)
(ええ。任せてちょうだい。)
今のアルベルトの様子だったら恋愛感情はないで欲しいが友人にはなれるだろう。もう1人の私が頑張ってくれたのだ。私がしっかりしなくては。
そのまま2人だけの食事を済ませ、それぞれ一度部屋に戻った後に玄関で待ち合わせをした。
「寂しいのですか?」
出る前に王城を眺めるアルベルトを見て気になり声をかけた。
「ん?そんな訳ないだろう。ただ私としても初めてだからな。ここを離れて別の場所で使用人もいない中、生活するんだ。まあ、君のおかげで予行練習は上手くできた。…お手をどうぞ。」
私は会釈をしながらアルベルトの手を取り共馬車に乗り学園へと向かう。
「まさか、君が既に自分のことを1人で出来る様になっていたなんて思いもしてなかったよ。」
「はい。私にも…お手本になる方がいましたから。」
もう1人の私のお陰だが、クルトとしておけば追求されないと思ったが想像通りだった。
「ん?………そうか。彼の影響か。」
アルベルトは渋い顔をしてから外に目をやってしまった。
「…なら感謝しなくてはな。君に言われたからだが、君と彼のお陰で私も少なからずだが出来るようになったのだから。」
思いもしない答えに向けられた笑顔を直接見れなかった。
「彼には酷いこと言ったからな。いつか謝るとするかな。」
???アルベルトがクルトと会っている?どこで?
私の驚きの顔を見たアルベルトが少し気まづそうにしていた。
「じ…実はな、彼が帰る前に会ったんだ。まあ、だいぶ失礼な奴だったな。最初から敵意剥き出しにされたからなのもあるが、君を雑に扱うような事を言ってしまったんだ。まあ最初はそのつもりだったんだが。たった数日だが、アメリアが悪い人間ではないのはわかったし、今となっては君のおかげで出来ることも増えたからな。この先どうなるかわからんが大事にはしてやるよ。」
「なっ!!何を急にそのような事を……。」
何を私は顔を赤くさせているのか…。私にはクルトが……。
「だからな。今となっては彼には悪いことをしたとは思っているんだよ。」
「そっ…そうですか。」
もう1人の私へ。嫌味がなくなったのは良い事ですが、これはこれで別のキツさがあります。
「そうだ。学園に入る前に確認したいことがあるんだが。」
「はい。なんでしょうか?」
急にかしこまったアルベルトに少し緊張しながら言葉を待った。
「噂の件だが、私がなんとかしよう。アメリアは気にしなくていいよ。」
「え?」
さらに思いもしない言葉に愕然とする。
「そんなに以外かい?まあ、確かに最初の君に対しての扱いが酷かったのは申し訳なかったが。アメリア。君はもう私の婚約者なんだよ。それを見捨てるようじゃ次期王としては駄目だと思ってね。だから任せてくれ。」
(いや、貴方ゲームじゃあ、あっさり捨てたんですけど?)
(あら起きてたんですね?そうなの?それ聞くとなんかキュンとしたのが悔しいですわね。)
(同意。私も不覚にもキュンとしちゃったわよ。ただな〜ゲームの中の私がおそらく違うからわからないのよね。今のアルベルトが私に対してどう思ってるのかがね〜。)
(ゲームでしたか?その物語の中の私ってそんなに酷かったのですか?)
(いや実際はわからないけど、言い方はキツかったそうよ。それもどれも正論だからいいかせない感じ。)
(うっ、それは確かにあなたがいなければそうなってたかもしれませんわね。でも私もあなたの影響で少しはマシになったとは思っています。…なるほどそうするとあなたが知ってる物語でアルベルトが嫌に思っていた私と今の私達は別人なわけですわね?)
(そういうこと。本当に恋されたらどうしよう〜?)
(そっそっ…それは困りますわ!私にはクルトがいますもの!!あなたもよね?)
(ええ。私も一緒になるならクルトがいい。)
「アメリア、アメリア!聞いているかい?」
「あっ!申し訳ありません。意外な言葉に困惑してしまいました。」
「それは失礼だろ!?……一先ずそのつもりでいてくれ。」
やってしまった。アルベルトは不機嫌そうに顔を再び外へと向けてしまった。
「後だな。学園についたら腕を組んでいくからな。中に入ってからは教室まで手を繋ぐからな。母上のいいつけだからな。」
完全に不機嫌なアルベルトは目を向けないまま言ってきた。
「はい。わかりましたわ。」
手を…ですか。私はあの日握った繋ぎ方を思い出していた。別の世界で恋人がするという繋ぎ方。あんなに恥ずかしく嬉しい気持ちになったあの繋ぎ方を。
学園につくと言われた通りアルベルトが肘を曲げてまっていた。私はつかさず腕を組み学園の中へと入っていく。そして手を繋ぐ。普通の繋ぎ方で。周りのざわつきは凄かった。あまり気にしないようにした。途中、キリカを見かけた。声をかけたい衝動に駆られたが、皆の注目の的になっている状況で無理だった。彼女は涙目になりながら私を見つめていた。キリカが見えなくなると気落ちしてしまった。
「アメリア。顔を上げてくれ。そんなに恥ずかしがる事はない。」
急に手を離されたと思ったらあごをクイッと上げられアルベルトが目の前で見つめてくる。周りの女子からキャーと甲高い声が響き渡る。体温が上昇するのを感じた。最後の笑顔は卑怯だ。
「はっ。はい。わかりましたわ。も、もう大丈夫ですわ。」
「そうかい?ならいいが。さっ行こう。」
輝く笑顔で手を差し出された。私は気持ちを落ち着かせながらその手を握る。アルベルトがなぜか少し楽しそうだ。再び周りの女子が騒ぎ出していた。
そして教室に入るとすぐに3人組の男児が近づいてきた。
「アル!朝から熱々だね。羨ましいよ。こんな美人さんを婚約者にできるなんて!!」
「こら!アッシュ!!学園といえどアルベルト様に対して失礼ですよ!!何度注意すればわかるんですか?」
「いいよ…もう。何回このやり取り繰り返すのさ?ニクス。幼馴染なんだからさ。お前だってちょっと前までアルだったろ?」
「そうだぞ。ニクス。公の場以外はアルでいいからな。そうかしこまるな。父君に何か言われたんだろうが関係ない所では頼むよ。」
「そういいますが、アルベルト様。メリハリは大事でございます。学園と…「だからその学園ではいいと私が言っているんだぞ。聞き入れろ。命令だ。」
「…はい。わかりました。アルがそう言うなら。」
「助かるよ。」
アルベルトがホッとした表情でニクスを見る。
「相変わらずニクスは固いですね。」
3人のやりとりを微笑ましく見ていたクラークが呆れた顔で言ってきた。
「お前のその喋り方も大概だぞ。」
尽かさずアッシュがジト目でクラークを見やる。
「何を言っているんですか?これはこれでいろいろ将来を考えて自分の都合が良くなるためにやってるんです。お三方に対してかしこまってるわけではありません。」
「私もそれがわかってるから気にしてないよ。クラーク。アッシュも慣れてやれ。」
「良くわかんねーけど、わかったよ。」
「それどっちなんですか?」
アルベルトとカイトがやれやれといった感じでニクスを見ていた。
「その前にお前達、先に言うことがあるだろう?」
「あっ!!失礼しました。ご婚約おめでとうございます。アメリア嬢。私はニクス・マーケンと申します。アルとは幼馴染みです。よろしくお願い致します。」
「次俺か?…アル、アメリア嬢。ご婚約おめでとうございます。俺はアッシュ・ベルダールと言います。よろしく…お願いします。敬語あんまわかんなくて、なんかすんません。」
「ありがとう。」「ありがとうございます。」
2人でお礼を言った。ニクスがアッシュを睨んでいる。アルとクラークはその2人を見て笑っていた。
この3人。アルベルトの幼馴染みであり攻略対象者でもある。
騎士団長の息子アッシュ・ベルダール。緑髪の短髪でツンツン頭の肉体系。12歳とは思えない身長で160以上はあるんじゃないかと思う。そして服でわかりづらいが筋肉もすでにそれなりについているのがわかる。
財務省長官の息子ニクス・マーケン。身長は未だ120ちょ位しかないかな。とても可愛らしい顔立ちの青髪のボブヘア。女の子の服着させたら女の子にしか見えないだろう。
宰相の息子でありアルベルトの再従兄弟にあたるクラーク・フォン・ダラス。アルベルトの父の妹君のお孫さんだ。そう言う私も同じだ。ただお婆様が一緒なだけで父様の姉上がクラークの母君にあたる。紺色の髪に肩の下までぐらいまで伸ばた長髪で顔立ちは整っていてやはりイケメンだ。
3人ともタイプは違うが間違いなくモテ顔だ。
「アル、アメリア、ご婚約おめでとうございます。お久しぶりですね、アメリア。」
最後に従兄弟のクラークが挨拶をしてくれた。
「はい。お久しぶりでございます、クラーク。お婆様の葬儀以来でしたでしょうか?」
「はい。そうですね。お婆様がお元気な時までは良く一緒に遊んでいたのにずいぶんと会っていませんでしたね?」
「そうですね。私の方もいろいろありましたから。」
私は気まづそうに言うと察してか話を変えてくれた。
「…それにしてもまさか再従兄弟と従姉妹が婚約するとは思いませんでした。」
「確かにそうでしたわね。アルベルトとは再従兄弟なんですよね。」
私はアルベルトに笑いかけた。
「ああ。私も昔に聞いた記憶があったが忘れていた。つい先日に言われて思い出したばかりだ。そもそも交流はなかったからな。」
「そうですわね。確か、先代の王様とお婆様があまり仲が良くなかったと聞いております。そのせいでしょうね。」
「ああ。そう聞いている。クラークだけだな。交流があったのは。」
「そうですね。私の場合は父上が宰相ですからね。それに殿下と父上は仲が良いと聞いています。それもあったのでしょう。」
「確かにそうだな。」
すると、先生が入ってきて席に座るように促された。そして今日のスケジュールを伝えた後、自己紹介の時間となった。席順で1番右端のアルベルトからとなった。
「アルベルト・フォン・クライスだ。学園では王子ではなく一生徒として接してくれ。もちろん無理にとは言わないが、父上から学生時代からの友の話を聞くたびに私も学園に入ったら身分が関係のない友人を作りたいと思っていた。だからできたら普通に接して欲しい。後、私には婚約者がいる。今、その婚約者にあらぬ噂がたっている。確かにタイミングや元婚約者が国外の学園に留学しているのが事実だから勘違いされても仕方ないが、噂はデタラメだ。それはこれからアメリアと普通に接してもらえればわかるはずだ。よろしく頼む。それと、このクラスの人達全員には是非、私たちの婚約パーティーに出て欲しい。着るものがないものは私が手配するから言ってくれ。もしくは聞きにいくからな。よろしく頼む。」
アルベルトが一礼をすると拍手が鳴り響いた。私の為だろうが…なんでわざわざ自己紹介でいっちゃうかな〜。なんか陰湿ないじめが始まったらどうしよう。
(あら心配いらないわよ。王子が言ったのだから私にてをだす愚か者はいないでしょう。)
(いいえ。その愚か者はいるはずよ。そう言った類の人間はどこの世界にもいるものだと思うから。)
(そうかしら?)
私が私と話している間に自己紹介の番がきてしまった。慌てて立ち上がる。
「はじめまして。アメリア・フォン・カーティスですわ。…私はこの学園でたくさんのことを学びたいと思っています。その中で魔力と体の構造、それに対する回復魔法の応用が私が今後、研究する際の課題と決めております。その課題を元に複合魔法や合成魔法、属性付与などの魔法学を学んでいき、後は魔法学を元にして作る魔法陣や魔道具製作も一緒にできたらと思っております。そして私はこの度アルベルト王子と婚約を成していただきました。アルベルト様に…相応しい女性になれる様努めて参ります。今後よろしくお願い致します。私からも是非皆様には婚約パーティーのご参加心よりお待ちしております。」
「じゃあ、そんな研究者まがいのことしなくてもいいんじゃないですか?アルベルト様に相応しい婚約者でしたっけ?それに専念した方がいいのでは?」
「確かに。」「何様なのかしら?」「次期王妃がこんな謙ってのはどうなの?」「噂を誤魔化してる気がしない?」「アルベルト様、騙されてるのよ!」………。
1人の男子のこの発言を筆頭にみなが色んなことをブツブツ言い出した。
まさか、この場で来るとまでは思って無かった…。
「こら!マルク!自己紹介に文句を言うとは何事ですか!!?皆さんも私語は謹みなさい。それにすでに2人は婚約を済ませているのです。国民の私達が祝福しないでどうするつもりですか?アルベルト様も仰ったばかりだと言うのに。」
先生が庇ってくれ、ほとんどの子が黙ってしまった。
「でもその王子が普通に一生徒として接しろと言ったのですよ?」
「何を言っているのですか?自己紹介に横やりをし悪口を言うのが普通なのですか?」
「しかし!…」
私は机をバンと音を立てて皆が私を見る様にした。
「先生!!庇ってくださりありがとうございます。しかし、これは私と皆さんの問題。このままでは授業が進みません。皆様。なにか勘違いをなさっています。王妃になろうと仕事や役割はございます。私は王妃になった際には医療を今以上に発展させたいと思っておりますの。その為には私自身が知識を持つ為に勉強をいたします。名ばかりの王妃にはなりたく無いからですわ。それと、文句があるのなら私個人に直接お話いただけるかしら。授業の妨げをして恥を知りなさい!!他の皆様も、本心言うのに他人の力を使うのは卑怯であり臆病者がする事ですわ!!我が国を思う気持ちがあるのなら、他人の力を借りずにご自身だけで真っ向から私に仰ってくださいませ。いつでもお相手致します。貴重な時間がもったいなく思いますので、先生。お時間頂いてしまい申し訳ありませんでした。私の事はこれにてお終いにしていただき進行をお願いいたします。」
私は深々と頭を下げた。皆がどよめく中、アルベルトとアッシュ、クラークが笑っているのを頭を上げた際に目に入った。




