忠義
『レイチェル視点』
私には1人の息子がいる。生まれてすぐに離れ離れになってしまったが、愛した人との大事な子供だ。離れて数年。あの人が子供のメイドにと誘いを受けた。最初は戸惑ったが受けてしまった。正妻との間に子供ができ追いやられてると聞いたら、いてもたってもいられなかった。しかし、年を追うごとに思うようにいかず嫌われていき、ついには追い出されてしまった。あの時は目の前が真っ暗になり世界が終わったとさえ思った。
あの子が涙ながらに帰ってきてほしいと言われ、何があろうと離れないと誓った。例え母親だと言えなくても。
なのにあの子が母さんと呼ぶ様になって…。
嬉しくて、どうせなら打ち明けたいと何度思ったことか。たまに見せる疑いの目。薄々感づいてる様な眼差し。それでも、側で成長を見守られれば幸せだったのに。
今、私は自分の子供に恐怖を覚えている。まだ10歳にも関わらず国の数個隊を相手に無惨に殺し圧倒している姿に。笑いながら…楽しそうに…。
「ク…ルト?やめな…さい。」
私は背中の傷の痛みに耐えながらなんとか声を出した。
「え!?大丈夫だよ。母さん。後もう少しだから。後もう少し。何人か逃げられたけど、後少しだから。安心して。」
私は唖然として見ていた。目が…目が赤く染まってきていた。未だ薄いが赤がっているだけだが…。そして目に生気がない。…闇落ち。私の頭の中で何度も否定する。
嫌!ダメ。それだけは、それだけは…。
「クールートー!!」
ドームの真上から声がした。聞き慣れた大好きな人の声が…
「だん…な…様。クル…トを」
ドームを突き破り、木の枝で覆われた塊が空から降りてきた。
「おい!クルト!!やり過ぎだ。もう兵隊共は戦意喪失してる。やめなさい。」
「父様!良かった。無事だったんですね。」
クルトは死んだ魚のような目で笑っていた。
「おい!今聞こえなかったのか?やめなさい。もう、私達は大丈夫だ。」
「ダメです。父様。僕にはやらないといけないことがあるのです。」
クルトはそう言うと更にドームに魔力を注ぎ込む。その瞬間クルトの体全体の血管が浮き浮かんでくる。
「や、やめなさい。それ以上はお前の体が持たんぞ!」
「邪魔するなら寝ててください。」
そう言うと旦那様の周りに樹が数本でてくる。やはり魔力が力尽きてきているのか、さっきまでと違い細い樹だった。
「ぬるい。」
旦那様はクルトよりも太い樹を地面から出して防ぐ。そして、クルト目掛けて一本の木がクルトを押し除けた。まとっている黒い雷とぶつかり合い木はどんどん焦げ燃えてすみになっていく。だけど、私からは離されて旦那様が側まで来てくれた。
「よく頑張ったな。レイチェル。」
旦那さまに触られ回復魔法で傷の痛みから違和感までなくなっていく。
「申し訳ありません。クルトが…クルトがー!!」
私は泣きながら詫びた。
「大丈夫だ。まだなって時間が過ぎてないようだし、それよりもあのままじゃ、魔力不足で死んじまう。動けるか?」
「はっ!はい。動きます。しかし、クルトは助けられるのですか?」
「ああ。大丈夫だ。まずは気絶させんとな。」
「わかりました。」
私は両手に魔法陣を展開して愛剣二つを出して構える。
「ではいくぞ!」
旦那様が新たに数本の入木をだして、それが網状に絡み合い更に太い木となっていく。
「何で?2人が邪魔するんですか?いけないのはこの国なのに!!こんな国があるから父様は好きな人と一緒になれず、俺まで好きな人を奪われた挙句、命まで取ろうとするなんて。グッ!!アーー!!!」
更にクルトは魔力をそそいでしまった。細かった樹がまた先程の太さになり黒い雷がまとっていく。双方がぶつかり激しく叩き合う。
「くっ!!我が息子ながらなかなかやるな。これではたかだか王城の部隊では立ち撃ちできないわけだ。軍隊員レベルだぞ。」
「では、私も参ります。」
私は旦那さまに細い木を出してもらい、それに乗って周りの木を削りながらクルトの元まで近づいていく。
しかし、クルトも細い樹をいくつも出し私の進行を妨げようとしてくる。使い慣れた剣は久しぶりながらも、日々の鍛錬は常にやっていたからか思う様に動いてくれる。
「僕は父様もら母さんも助けたいだけなのに、何で?何でわかってくれないんだー!!!」
クルトは更に魔力を注ぎ始める。ヤバイ。本当にあの子が死んでしまう。私は咄嗟に、樹を蹴り飛ばし、身体強化に風魔法を使い、猛スピードでクルトの近くまで行く。
「クルト!!」
「あっ、ああ。あっああ。あい。」
目から瞳がなくなり、自我がなくなっているように見える。私は剣で襲ってくる木々達を薙ぎ払いながらクルトの所まで行く。しかし、後少しの所で近づけない。近づけば後退させられあと少しが遠い。
「クルト様ーー!!!レイチェル!私が隙を作る。その間に!!」
空から聞き覚えのある声が聞こえた。横にゼハルが空から舞い降りる。
「ゼッ、ゼハル殿何故?」
「よいから一気に行くぞ!」
私は頷き、2人で木々を切っていく。2人がかりで襲ってくる木々をなぎ払う。こんなに頼もしい増援はいない。あと少し、あと少し。徐々に距離を縮めていき、もう目の前に来た瞬間、ゼハル殿に横から押された。
「え!?」
その直後地面から鋭い枝が幾つも吹き出しゼハル殿に刺さる。
「た、隊長!!!ク、クルト!!よく見なさい!!」
「え?!あっ…あっ………あっゼッ……ハ…ル?」
ゼハルに刺さった枝が全て地面に戻り、クルトの動きが鈍り出した。私はその隙にクルトに向かい、抱きしめる。雷が私の体中を蝕んでいく。
ゼハルが大量の血を吐き落ちる。
「か、母さん?!あっ…あ…」
クルトの黒い雷が一瞬で消えて、奥で旦那様に向かわせていた大樹も崩壊し始めた。旦那様がゼハルの元まで向かってくれている。私はそれを見届けて、
「クルト!!よく聞きなさい。私はあなたの本当の母親です。私があなたを生んだ本当の…!私の子がこんなことで負けるのは許しません。」
「か、母さん?ほん、本当の母さん!?」
「そうです。あなたは私と旦那様とで授かった私の息子です。負けてはいけません。あなたは大事な人を守るために強くなろうとしたのでしょう!?」
私は抱きしめながら魔力をクルトに補給していく。
「ぼ、僕は…ゼハルを」
「わ…たし…は大丈夫で……す。これ…しきの…き…ず。あなた…様を………救えれ…ば……。」
「ゼハル!喋るな!!傷が開く!今治療中だ。クルト!大丈夫だな!レイチェルお前も来い!」
「はい。」
私は息子の頭を撫でてからゼハルの元へ来て回復魔法と傷口に手を置き、自身の血を少しずつ送り込ませる。
クルトが這いずりながら私たちの元へくる。
「僕の血を、僕の血もつかって!!」
「でもあなたも魔力不足で重体なのよ!」
「頼む!母さん。頼む。」
私はクルトから少量の血をゼハルに送り込む。
「レイチェル。」
旦那様が首を横に振る。
「え!?」
「あり…が……とう…ござい……ます。クル…ト…様………は?」
「大丈夫だ。お前のおかげで正気を取り戻した。魔力も大分使ったようだが命に別状はないだろう。ゼハル、感謝する。」
「それ…は……良…かった。ちゅ……ぎ…は、はた…せた。ク…ルト様…はど…こ…に?」
すでにクルトは近くまで来ている。もう目が見えないのだろう。クルトが慌ててゼハルの手を取る。
「ごめんなさい。ごめんなさい。僕は…僕は……。」
「気…にし…な……いで。わた…し……があな…た…様の……役に……たちたかっ……た…だけ。アメリア様を……頼みます。あなたしか………いない。あなたしか…ア…アメリア…様を………やくそ……………。」
「ゼハル殿!?」
「ゼハルさん!!約束します。アメリアは必ず僕が幸せにします!!」
クルトの声が周りに響き渡り、しばらくして泣き声に変わっていった。
彼は同盟軍の時の指揮官であり隊長だった。私をここまで強くし、私が私であり得たのもゼハル殿のおかげ。私も息子までも助けてもらい……ただただ涙が流れた。私は涙を拭い、
「クルト!!立ちなさい!」
「え!?」
「無理でも立ちなさい。隊長の最後を見届けたのだから最後は同盟軍形式で向かわせてあげたいの。」
旦那様が察して、クルトを支えてくれた。三人は竿に入れた剣を持ち額に剣を当てる。
「私、元第六隊同盟軍レイチェル・ガシス少尉が務めさせて頂きます。英雄!!元第六隊同盟軍ゼハル・グリフォン隊長。あなた様の歴戦は正義のため忠義のため平和のため元同盟軍として見事全うされ大儀でありました。私にとっては師であり、友であり同士でありました。」
私は言葉を言いながら、私は自身の着てる服の端を切り取り、ゼハル殿の血で染めた。剣を持っていない手を出させ、旦那様、クルト様、私の順で自身の血を布に染み込ませていく。
「‥我らは共に生き、共に喜び、共に悲しみ共に戦い抜いたこと忘れませぬ。ゼハル殿の思い、願いこの同士の証を持って必ずや受け継いでいきます。皆のもの隊長に敬礼!!…抜刀!!掲げ誓え!!」
しばらくそのまま泣き続けた。旦那様はゼハル殿を木の枠を魔法で作ってくれて入れてくれた。
「では、ことの説明もしないといけないから彼は私がカーティス家まで送ろう。2人は先に領地まで送るからそこで身を隠してくれ。今後のことは私が戻って来てから説明する。」
「大丈夫なんですか?領地で?」
「ああ。大丈夫だ。そもそもこの暗殺自体、王は知らない。まあ、今頃は知られているだろうがな。我らは正当防衛が適用されるだろう。考えなしに助けには来ないぞ。私は。」
「流石、旦那様でございます。」
「ま、まあな!それよりレイチェル。もう打ち明けたんだから2人きりの時はちゃんと母親しろよ!!」
「え!?え!?」
私はまだ泣いているクルトを見る。
頭を撫でて、抱き寄せる。クルトはさらに泣き出した。私はその泣き姿を見ながら元軍人としてと思うとしたが、隊長との思い出が走馬灯のように流れ込んできた。旦那様の木に乗っかり領地に向かう間、2人で泣き続けた。
『クルト視点』
未だに夢の中にいるような感覚にいる。すでにゼハルさんが亡くなった事に、殺してしまった事に現実味がわかない。正直殺した時はほぼ記憶がない。未だに変な声は聞こえてくるし。
今は父様に連れられて、領地にある新しく作った工場の1室に母さんと身を潜めている。たまにルースが食べ物なんかを持って来てくれている。
ご飯は多少しか食べれない。食欲がない。
「クルト!ちゃんと食べない。動きたい時に動けないし、腹が膨れれば悲観的なことは吹っ飛ばせるから!!」
この人はいったい誰だろう?母さんだよな?
「ほら、まだ目が赤めいてるじゃない。ゼハル殿がみたら嘆くわよ。しっかりなさい。」
背中をバシンッと叩かれた。母さんって本当は体育会系だったんだね‥。
「わかったよ。母さん。」
しぶしぶパンやフルーツを食べ切る。ゼハルさんの事がなかったら今、本当に幸せを感じれるのに‥。全部あいつらのせいだ…。
「ほら!ゼハル殿はあんたの為に命はったの!あなたをクヨクヨさせる為じゃないのよ。」
「そ、そうだね。」
恨む気持ちも、目の前の母さんの元気に圧倒されている。
「そう言えば同士の誓いの布はどうしたの?」
「あれはね。ゼハル殿にくくりつけて、一緒に弔って初めて意味を成すの。私たちが誓いをしましたってゼハル殿に知らせる為にね。」
「そうなんだ。それいいね。うん。改めて誓うよ。」
「うん。それこそ、私の子だ!!」
母さんは抱きついて頭を撫でてくる。いや、嬉しいが俺もう10歳なんだけど…。
「なんか、母さんってメイドの時と180度違うね。」
「え!?嫌?」
「嫌じゃないよ。なんか初めて母さんの本心に触れて嬉しい。」
「まあ、私は本来メイドなんか柄じゃないのよね。クルトの隣にいたくて頑張ったんだから。」
「そうか。そうなんだ。」
嬉しくて笑ってしまう。母さんが本当の母さんで良かったと思う。未だに頭が重いし、気を緩めればすぐに、負の感情がなだれ込んでくる。別れ際アメリアが言っていた。闇落ちしたら俺は皆んなの敵になってしまう。それだけは避けなくては。ゼハルの為にも、母さんやアメリアの為にも。
「私から言うことではないけど、アメリア様とちゃんと向き合うのよ。」
「え!?あっ、ああそうだね。アメリア、今頃泣いてるんだろうな。恨んでるよな。」
「だから、ちゃんとゼハル殿の最後を、思いを伝えてあげて。アメリア様なら必ずわかってくださるから。それにザハル殿の最後の顔、笑ってたじゃないの。大丈夫。」
「ああ。そうだね。ちゃんと話すよ。逃げずに。」
数日後父様が帰って来た。
「どうだ?レイチェル。親子してるか?」
「か、からかわないでください!!!」
「まあ、いいじゃないか。どうだ?クルト。レイチェルはずいぶんと猫かぶってるのがわかったろう!」
「はい。今までの母さんとの距離を感じてた理由がわかりました。」
「そうか。そんなふうに思ってたんだな。ところで普通に母さんって呼んでるが…そういえば暴走してた時も言ってたな。気付いてたのか?」
「いえ。勝手に母さんならいいなと思って呼んでただけです。」
「そういうことか。早速だが、レイチェル。お前は今後クルトと2人の時は今のままで頼むぞ。まだ目から赤みが引けてないからまた、いつ暴走するかわからない。お前が拠り所になってるんだと思う。それでだ。しばらくお前を私の叔母のところに預けるつもりだ。」
「え!?エルフの国に行かせるのですか?」
俺も驚いて父様を見た。まさか国を出るなんて。アメリアのこともあるのに。
「ああ。あそこなら治療ができるはずだからな。長年闇落ちを研究してる叔母なら適任だろう。治療開始まではいてもらうが、レイチェルは先に帰って来てもらうつもりだ。今後いろいろ動いてもらわなければいけないからな。無論、クルトのためだぞ。」
「し…しかし、やっと言えたのに。」
「気持ちはわかるが、ミリルまで敵側にいるんだ。動ける味方は多い方がいいのでな。クルトのことは叔母がいるから大丈夫だ。クルトならもともとは手間のかかる子でもないしな。」
「わかりました。」
あからさまに落ち込む母さん。それを見ている父様になんかワクワクした。
「まだ2人は惹かれあってるんですね。なんか嬉しいです。」
「なっ!!何を?クルト!!私はそんな恐れ多いことなど…。」
慌てふためく母さんにため息が出た。
「父様も大変ですね。」
「ま、まあな。だがレイチェルはあれだからいいんだ。」
「だ!旦那様!!」
母さんが顔を赤くしてる。なんか新鮮だ。
「クルトも親をからかうんじゃない。それにレイチェル。旅立つのも、これから叔母に手紙を出すんだ。すぐではないよ。それと名目はエルフの国の学校との交流会としていく事になる。学校にはそれぞれ私から話は通しておく。治療が終わったとしても1年はあっちで学校に行くからな。」
「わかりました。」
「後は、落ち込ませるかもしれんが、お前はたくさんの命を奪った。確かにあちらが仕掛けたことだが忘れるな。簡単に人を殺めては動物と変わらない。お前は罪を背負ってかなくちゃならない。今回の失態を糧にして自分に出来ることを考えろ。」
「わかりました。」
「私も共に考えるから。心配しないで。」
「ありがとう。母さん。」
「それとお前が生きている以上恨んでる奴、英雄気取りに襲ってくる者もいるかもしれん。今回のことはもともと隠密にされてることもあって、あらかた世間には出ていないが100%ではない。簡単に死んだらダメだぞ。生きて償え。」
「はい。父様。」
「仕方ないことだが、ゼハルの葬儀には参加できん。3人ともな。」
「わかってはいました。」
「私も覚悟してましたし、別れの挨拶はしましたから。クルトもね。」
「ありがとう。母さん。」
あの儀は葬儀にはでれないことがわかっていたからでもあった様だ。
「アメリアは大丈夫ですか?」
「残念ながら平気とは言えない状態だ。」




