ある日の夜
何故だろう。こうなる事は予想出来たはずなのに。いや、考えないようにしていたというのが正しいか。ウチで学院に入る前に魔法制御を教えたのは良かったのだろうか、学院で騒がられるより良かったかもしれないが。それでもこれからどう動くかがあの子たちの将来を大きく左右することになる。
私は先生の所に向かって馬を走らせている。馬車を使わずに移動するのは久しぶりだ。気持ちはいいが、今はそれどころではない。今日からアメリアは先生のところで泊まっている。しかし、着く頃には寝ているだろう。会えないのは仕方ない。
娘のアメリアはよく出来た子だ。ただうちの家系の精霊の加護のみ無かった。妻の態度は明らかにおかしい。娘に対しての接し方ではない。完全に見捨てている。そのせいであの子は曲がってしまった。いつからか笑わなくなった。誰に対しても厳しく子供なのに甘えることもせず、わがままも言わない。うちの影では逆にわがままし放題だと聞いていた。さらに、あるお茶会でのあの子が笑っているのを見た。あの笑顔には感情が無く見ていて只々悲しかった。何故周りは気づかないのか。怖かった。その日を境にクルト君の所にいかせられなかった。
しかし、このままではあの子は政治のために妻に利用される。なら、先生の所なら角が立たず受け入れてくれると思いクルト君との婚約をすすめた。
あの子が自発的にレイチェルに会いに行くと申し出た時、婚約を了承した以上許すしかなかった。ただ心配だった。外見だけの子。中身のない子になってしまった。そう思っていたから。
あの子がまた感情豊かに表情を変えて赤面したり、笑ったり楽しげだったと知らされた時はこの目で見るまで信じられなかった。
「おかえり。急に出て行ったから心配したぞ。許可は出したがすぐ行くとは思わなかった。
クルト君とはどうだった?」
「ただ今、戻りました。お父様。ク、クルト様から…せ、正式に婚約を申し込まれました………。」
目の前の子はだれだ?顔を赤らみながら下を向き、恥ずかしそうに話している。昨日までの子と本当に同じ子か?
「あ、ああ。その様だな。クルト君から、アメリアに本気に惚れたから正式な婚約者として、私に会いに来たいと申し出があった。良かったな。望まれて婚約者になれるんだ。」
「はい!」
パーと笑顔になり嬉しそうに私に笑顔を向けてくれた時、不覚にも涙が流れてしまった。
「お、お父様?!」
「だ、大丈夫だ。気にするな。」
すぐさまアメリアから顔を背けて、涙を拭う。まさか、この私が自分の感情に流される事がまだあるとは思わなかった。
「でも。」
「嬉しかっただけだ。私もクルト君に会えるのが楽しみだ。」
すぐ涙を止め、私は笑顔で娘を見た。
「はい。」
あの日のことを、あの笑顔を思い出しながら先生の部屋の前に来た。
明日にはアメリアは家に帰ってしまう。そう思ったら眠れずにまたバルコニーに来ていた。今日はアメリアは来そうにない。ため息を吐き、ふとバルコニー下を見入る。そこにはすごい気迫を纏ったゼハルが素振りをしていた。
「やっぱすごいね。ゼハルもいつも素振りをしてるの?」
「これはクルト様。まだ寝ていられなかったのですか?」
ゼハルは素振りを中断して例をして俺を鋭い目つきで見る。怒ってる?嫌な気迫を感じる…。
「あ!ああ。明日帰ると思ったら、起きちゃったんだ。」
「そうでしたか。また来週末には来ます。しかし恋とは厄介なものですよね。」
「そうだね。アメリアとも話したけど、急に熱が上がりすぎてる気がして、どんどん好きになってくことになんか落ち着かないんだ。」
「ハッハッハッハッ。そこまでお嬢様を好いていただけて何よりでございます。私としても尽くし甲斐がありそうで喜ばしいことです。」
「ゼハルは何故僕を認めたの?」
ゼハルは息を整えてから
「そうですね。まずはお2人が互いを見るときの表情でしょうか。こちらが気恥ずかしくなるほど惹かれあっているのがわかります。それに、今し方もアメリア様の事を話されてるクルト様の表情はまた、なんとも頬へましいものでした。」
ゼハルが和かに嬉しそうに話してくれた。
「え!?そんな顔してる?」
俺は自分の顔を確認する。
「ただ懸念している事がございます。お2人がどちらも特別な存在になり得る可能性のある才をお持ちだという事。今し方素振りをしていたのは、クルト様の戦闘における才を見まして興奮が収まらずに自身を落ち着かせるために行っていました。」
「そんなにですかね?自分ではわかりません。比較するのがアメリアしかいないし。」
「そうですな。確かにそうでございました。私はいろんな兵隊を見て育ててきました。誰よりもクルト様は強くなれると思っております。私はクルト様の将来が楽しみで仕方ないのです。しかし、不安要素がございます。ですから、私はその強さに呑まれずに今のクルト様の優しさや正義感を守らせていただきたく念願しております。」
「知り合ってそんなに日が立ってないのにですか?」
「はい。何故か確信がございます。それに日が浅い状態で私めも守りたい存在と言ってくださったクルト様と同じかと。」
「確かに。」
2人は笑い合った。俺はこの時、ゼハルを師として教えてもらえる喜びを感じた。そしてこんなカッコいいお爺ちゃんに俺もなりたいと憧れた。




