I話 クルトになりクルトに会う
いつも通りに勤務先に出勤して、顔なじみの老人の人たちと、談笑しながら、仕事をしていた。
何も変わらない普段の生活が続くと思っていた。急に建物全体が揺れはじめ、いつものちょっとした地震だと思っていた。揺れは止まず、物が落ち、その場から動けなくる者、揺れで転倒し動けなくる者。あらゆる所から悲鳴や泣き声がゴーと地面から鳴る音と共に耳に入ってくる。
揺れが止みはじめ、俺はすぐに、近くの動ける人達と共にできる限り人命救助しながら建物をでるように下へ向かった。すでに建物は斜めっており、いつ崩壊するかわからない。自分と、同僚は最後尾から、指示を出しながら避難経路にみなを誘導して行った。出来る限りの人は助けた。最後に玄関ホールにさしかかる。が、玄関ホールの天井が崩れ始める。自分は咄嗟に同僚を押した。安全な所まで押せたことに安堵した束の間、痛みと共に暗闇に呑まれ意識が、消えた。
ここはどこだ⁉︎俺はどうなったんだ⁉︎早く起きないと‥‥。
目を開き、勢いよく起き上がった。
見知らぬ部屋だ。見るからに豪華な作りの家具に囲まれ、ボンボンの家をイメージしたらきっとこんなもんだと思う。そんな部屋になんでいるんだ?異様な光景に一瞬息をするのを忘れてしまった。
熱があるのか膝下には濡れたタオルが落ちていた。確かに体は怠いし頭が痛い。
咄嗟に、自身の身に起きたことを思い出した。慌てて自分の体の無事を確かめる。しかし、体には欠損部分等の傷は見当たらない。それどころか怪我ひとつない。そんな中、血の気がひいた。
「か、体が小さい‥‥」
「クルト様、気づかれましたか?」
黒髪の眼鏡をかけたメイド服を着た女性が心配してそうに上辺だけの言葉を並べながら、部屋に入ってきた。
「クルト様、そんな呆けた顔をされて、どうかしましたか?体調の方は大丈夫でしょうか?」
急に嫌味な言い方をされて怪訝な気持ちになったが、唖然と見知らねメイド服の女性を見つめるしか出来なかった。メイドは気にもせずに俺の額に手をあててきた。
「まだ、熱があるようですね。お食事の御用意ができるまでお休みください。」
そう言って濡れたタオルを冷やし直し渡してくれてから部屋を出て行った。布団に入り直して、目を閉じた。意識がはっきりするにつれ、体の怠さと頭の痛み加え気疲れで辛かった。
(クルトって誰だ?そもそも日本人の名前ですらない。さっきの女性も、黒髪にはだ色の肌だったが、瞳の色が茶色だったことに加え顔立ちから日本人とは思えない。身体の大きさも、自分の声も声変わりしてない子供の声のような気がして違和感がある。ってか俺の肌、白くねぇーか?‥‥)
訳もわからずに頭の中がグチャグチャになるのを感じながら意識を離した。
気づけば浮遊感に流されながら何もない世界を漂っていた。
夢の中かな?
ふと泣き声が聞こえ、声のする方に目を向けると銀髪の男の子がうずくまって泣いている。
(大丈夫?)
頭を撫でながら聞いてみると、驚いた顔で涙目を見開きながら見つめてきた。俺は安心させるために微笑んだ。
少年の顔が歪み、さらに大泣きしはじめた。慌てて子供をやさしく包みこみながら、背中をさする。
(ぼ、ぼくみんなに嫌われてて、それでもやさしくしたいけど恥ずかしくていつも酷いことを言っちゃて、レイチェルまで居なくなってどうしたらいいのかわからなくなっ◯%♯&%〜)
そまま泣き続けてしまった。そんな子供をあやしながら、
(ああ‥だから、メイドの言葉に心がこもってないと思ったのか。そりゃあワガママを言ったり嫌味ばかり言ってたら嫌われもするよな。ましてや継承権を無くした子だもんな。)
と、なぜか見知らぬ子の言いたい事を理解できている。というより思い出すかの様に情報が頭に入って来た。
「‥‥‥‥‥様‥‥ルト様‼︎クルト様‼︎起きてください。夜ご飯をお持ちしました。動けるようなら手を洗ってきて下さいませ。」
無理矢理、現実世界に意識を引き戻され気持ち悪い感覚に目を見開きながら、目を覚ました。
「う、うん、ありがとう。メリッサ。大丈夫そうだよ。後は勝手に食べるから、もいいよ。食べ終わったら呼ぶから。」
困惑しながらもなんとか返事を返した。
「か、畏まりました。」
メリッサと呼ばれた女性は一瞬、目を見開いては凝視したが、すぐに一礼して部屋を出て行った。
早足に洗面台の前まで来て、自分の姿を見る。洗面台に手をかけながら蹲る。
鏡には先程、夢に出てきた少年の姿をした自分がいた。
日本人の時にラノベやアニメは好きだったことから、異世界転生本にハマりはじめていたので、まさかとは思ったが‥。
まじか〜。ってことは俺はもう死んだのか。瓦礫の下敷きになったから、そりゃあ、そうか。あいつにはつらい思いさせちゃったなー。妹も大学受験あんのに、迷惑かけたろうな。親孝行なんもできんかった。いろんな思いが、後悔が、俺にのしかかってくる。
(お兄ちゃん大丈夫?)
周りを見渡すが誰もいないよな?あれ?頭からか?ああ俺か。
(大丈夫だょ。さっきのメイド?)
なんか違和感半端ないんだけど〜。
(うん、そうだよ。いつもあんな感じだから気にしないで)
なんか今世、訳ありっぽいな?落ち込んでてもしょうもない。とりあえず飯だ!!
(今日もまた、このメニューか〜)
自分とは異なるところから思いがでてくる。ハァー↓。
(体調が、悪いんだから仕方ないさ。)
(でも、いつもこんなもんだよ。レイチェルがいなくなってから酷いもん。)
(レイチェルって誰?)
(僕のメイドだよ。追い出しちゃったんだ。)
おー専属メイドがいんのかい。相当なボンボンだな。
(追い出したってことは家にはもういないの?)
(うん。)
おー少年の感情が俺を侵食していくー。俺まで泣きたくなってる!!
(レイチェルさんは何をしたの?)
(い、言いたくない!!)
(そうか。無理とは言わないが。そうなると、レイチェルさんが基本世話をしてくれてたんだな〜。状況はいまいち飲み込めてないが、あまりいい環境じゃなさそうだね。)
(うん。)
(なら、謝ってレイチェルに戻って来てもらうしかないのかな。)
(む、無理だよ。やめてもらうにも、散々だだこねたんだから。それに会いづらいし。)
(そうは言っても始まらないからな〜。まあ、俺が話すから、僕はなるべく表にでてこないようにしてよ。)
(う、うん。それくらいなら…出来ると思う。)
早速、飯を急いでたいらげて、メリッサを呼んだ。
「失礼します。今日は…ちゃんと全部めしあがったのですね。」
意外だったのか、嫌味気味に言ってきた。さっきからなんなんだこいつ?見るからに使用人だろうに。
「う、うん。大分調子が良くなってきたからね。
ところで、父様をよんでくれないかな?」
「ご主人様はお忙しい身です。そう簡単に呼んでは、ご迷惑になるかと。何か不都合なことがありましたでしょうか?」
「い、いいから直ぐにつれてきて‼︎」
急に感情が高まり、メリッサを睨み、ヒステリック気味に叫んでしまった。
「はあ、畏まりました。一応、かけあってみますね。」
冷めた目で見つめながらメリッサは部屋を後にした。
(急には勘弁してよ。驚くでしょ、なるべく俺に任せて。)
(ご、ごめんなさい。)
それにしても、さっきの起こし方といい、あのメイドおかしいぞ。
しばらくして、ノック音と共に狐顔の30台前後の男性が入ってきた。今の俺と同じ銀髪で、清楚な服装、立ち振る舞いから、この人が今の自分の父親だと認識できた。
「入るぞ。今度はどうした?何かあったのか?父さんも忙しいから毎回は来てあげられないぞ。」
男性は迷惑そうな顔をしながらも、目にはどこか優しげな目をしていたので、警戒心は直ぐに無くなった。
すぐさま、ベッドからでて、頭をさげた。
「父様、ごめんなさい。すぐにでもお願いしたいこどがあるんです。」
「あ?…ああ別にいい。あまり会いに来れない父さんも悪いしな。頭を下げてまでどうしたんだ?」
頭を下げたままだからわからないが、声から動揺させちゃったみたいだ。
「レイチェルを探して下さい。もう一度会って、話がしたいです。」
「急にどうした?何故突然そんなことを?お前が望んで、専属を外すだけでなく辞めさせたのだろう?」
「ごめんなさい。間違っていました。お願いします。」
「んー、そうか。しかし、追い出した者を戻すのは難しいぞ。それに探すといっても王都は広い。そう簡単には見つけられないぞ。」
「む、無理を言っているのはわかっています。お願いします。」
「ひとまず頭を上げろ。それに今更会ってどうする?謝ったところで、何も変わらないかもしれんぞ。」
「わかっています。それでも会いたいのです。」
「そこまで言うならいいだろう。明日連れてくるから、心の準備はしておきなさい。」
「え⁉︎でも、居場所は‥‥?」
「ああ、大丈夫だ。居場所は把握している。後、お前も貴族の子だ。メイド相手に頭など下げぬよう頼むぞ。私も敵が多いのでな。どこで漏れるかわからん。くれぐれも無いように。時間帯によっては、私も同席する。よいな?」
「は、はい。わかりました。ありがとうございます。」
「明日は、この部屋で話をする。お前もまだ、完治してないようだから早く休むように。では、またな。」
「おやすみなさい。」
かまかけれた〜。明日か、まぢか⁉︎こんなに早く出会えるとは思ってもみなかった。なんでやめたメイドの居場所を把握してたんだ?でも早く会えるならいいか。考えてもわからん。諦めよう!
ベッドに入り直して、ふと気が緩んだ。眼からは涙が溢れてくる。転生して、早々に厄介ごとだらけで疲れた。死んだことにヒステリーを起こさなかったことに自分を褒めてやりたい。ちくしょう涙が止まんねー。
目が覚めると、体の怠さは消えていた。まだ、頭は痛いが、昨日に比べれば良くなってる。まだ早いのか誰も部屋を訪ねて来ない。顔を洗い、寝癖を直して、身支度を整える。どの服も貴族様って感じで引き笑いになりながら、派手でないものを選んだ。そのつもりだ。
鏡で確認しながら、自分の姿をまじまじと見る。目がすわっているせいか冷めた印象をもつが、結構イケメンだな。成長したらいい線いくかも。まだ幼いせいか可愛さがあるが‥。
「おはようございます。クルト様。朝の身支度にまいりました。朝しょ‥くも、まもなく‥‥⁉︎」
ノックの後、メリッサが部屋に入ってきた。すでに身支度がととのっているのをみて、唖然としている。
「既に終えているようですね。レイチェルがきたのですか?」
少しイラつきながら聞いてきた。あーマヂでムカつく態度だな。
「ううん。僕が1人でやったんだよ。レイチェル、もう来てるの⁉︎」
「はい。昨日のうちに向かいに行ったようです。それにしても、一度も1人でされたことがないのに、どうやってなさったのですか?」
疑いの目で見つめてくる。ってか早くね。近くにいたのかな?
「本当に1人でやったんだよ。やってもらっていたのを覚えてたから。どう?大丈夫そう?」
「ええ、問題は無いようです。」
隅々まで見られながらOKでて、一安心だ。さー早くでてけー!!
「良かった。朝食はいつも通り、部屋で食べるから持ってきて。」
「はい。かしこまりました。では、でき次第お持ちいたします。朝食が終える頃にはこの後の予定も決まっていると思いますので、後程お知らせいたします。」
疑いの目のまま、苛立ちを隠しきれない様子で部屋を出て行った。
朝食を終えてメリッサが片付けに部屋を訪れた。
「この後、すぐに旦那様とレイチェルがいらっしゃいます。」
「う、うん。わかった。ありがとう。」
(いよいよだぞ。ひとまず、僕は冷静にね。頼むよ。」
(う、うん。)
しばらくして、父様とレイチェルが部屋に入ってきた。一瞬レイチェルに抱きつきたい感情になったが、なんとか下を向いて耐えた。僕を抑えんのがきちーな。
レイチェルさんは見た目が二十代前半くらいの金髪で長い髪を後ろでしばってポニーテールにしている。服装は、上質とは言わなくても、それなりの物を着こんでいる。ただ気力を感じれない。肌も少し青白く見える。
「レイチェル。息子がどうしても話がしたいそうだから聞いてやってくれ。私は立会人なので、一切口を挟まん。」
「かっかしこまりました。」
ああー、そうだ。レイチェルさんの見た目を気にしてる場合じゃなかった。どうしよう。ここまできたんだから、早く話さないと。僕の方の感情が高ぶり泣いちゃってる。上手く言葉が出てこない。目に涙を浮かべながら頭の中真っ白だけど、必死でレイチェルを見た。
「元気でしたか?」
自分の第一声に父様は身を震わせながら笑っている。声に出さずとも明らかに笑っている。レイチェルは泣いている僕を見て戸惑っている。俺も第一声があれはどうかと思う。思うけど‥‥。
「はい。クルト様は体調を崩されたとお聞きしました。もう大丈夫なのでしょうか?」
「うん。今日で、大分楽になりました。それよりも少し痩せましたか?」
自分の言葉に驚いた顔をして顔を俯いてしまう。
「見苦し‥」
「見苦しくなんかありません。僕はレイチェルが大丈夫か知りたいだけです。」
「食事があまり、ちゃんととれていませんでした。クルト様には食事をちゃんと取るよう言っていたのに…ダメですね。」
痩せこけた顔でうっすらと笑いかけてくれる。
「レイチェル‥‥。ごめんなさい。ぼ、僕はレイチェルに甘えてばかりで文句しか言って来なかった。あの時も八つ当たりで、本心じゃないです。」
震える声をなんとか言葉にして、涙を堪えながら頭を下げたい気持ちを抑えながら謝った。んー俺が考えてたよりも、少年に任せたほうがいいかな。言葉選びだけ手伝おう。
「いえ、クルト様は何も悪くありません。私が駄目なせいでクルト様のおつらい気持ちを察してあげられず悪いのは私です。」
「僕はそう思ってない。も‥もう一度、ぼ‥僕のメイドに戻ってくれませんか?」
レイチェルは口に手を当てて、しぼるような声で、
「わ、私にはそんな資格‥‥」
あ!体が勝手にー!!
僕は我慢しきれずにレイチェルのもとに駆け込んで、抱きついた。レイチェルも、僕がきたことに困惑しながらも抱きしめ返してくれた。
「僕はレイチェルがいい‼︎」
「で、でも‥私なんかが‥」
「僕が嫌?」
「いえ、そんな、私にはもったいないくらいで‥」
「じゃあ、僕の側にいて。僕はレイチェルがいいんだ◯%✖️ー。」
堪えきれず、最後は言葉に出来なかった。レイチェルに顔をすり寄せた。しばらくレイチェルがただ泣いていた。
「よ、よろしいのでしょうか?」
レイチェルはなんとか言葉を絞り出した。
ただ強く抱きしめた。そして一度離れ、レイチェルを見つめた。
「これからも、そばで支えて下さい。」
「はい。こちらこそ。側にいさせてください。」
俺もレイチェルも震える声でなんとか言葉を交わした。そして涙いっぱいになった目で、この家の家主を見る。
「ハハハハハ。まったく世話がかかるなー。クルト、もうこれ以上のワガママは許さんぞ。レイチェル、先ほども言ったがお前が良ければ戻ってきてもかまわない。むしろ、我が息子をここまで育てて成長させてくれたことに感謝してるくらいだ。これからも息子を頼んだぞ。」
「父様、ありがとうございます」
少し躊躇したが、父様も両手を広げてくれたので父様にも抱きついた。軽々と、抱きかかえられた。勝手に身体動くんだからどうにもできない。三十前の男が、父親に向かって抱きつくなんて‥‥その前の行動も恥ずかしくて死ねる。
「旦那様、ありがとうございます。一生この身、クルト様に捧げます。何があろうと、側をはなれません。」
深々と頭を下げながら、涙をながしつつも、力強い声で誓いをたててくれた。
「う、うむ。よろしく頼む。まあ、独り立ちする頃は見誤るなよ。メイド好きになられても困るのでな。」
賛成です。父様!今は不健康そうで、わかりづらいけど、多分レイチェルさんは美人だ。少年が俺の好みに引っ張られないか怖い。
「はい。かしこまりました。これからも末永くお使いさせていただきます。どうか、どうかよろしくお願い致します。」
うん。結果オーライ!!俺、ほとんど、何もしてないけど‥。