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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

東方シリーズ

鹿鳴館の華人小娘~そして彼女は今を選んだ~

全ての美鈴を愛する者に。

私の名は大益(おおます) 宗太(そうた)

大日本帝国陸軍に所属する軍人だ。

突然だが私は、彼女のことを語らなくてはならない。

これから語る彼女の存在はおそらく幻想として消えて行ってしまうだろう。

この大日本帝国の歴史の陰に息を潜めてしまうのだろう。

彼女の存在を少しでも感じ取っていただけたのなら幸いである。

では書き始めるとしよう。

鹿鳴館の彼女の存在を…

私が彼女とであったのはお察しの通り鹿鳴館という社交場だ。

鹿鳴館では異国の者も多く訪れる。

そもそもの目的が外交なのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。

ダンスホールで、それぞれの国の外交官が話を交わしている。

「Do you know that many things were imprisoned here?」

「裝飾性外觀毫無意義。」

なんといっているのかは分からないが我が国を嘲笑したような話がぼそぼそとあちこちで呟かれているのは分かる。

私はいたたまれなくなり、近くのテーブルにあったグラスの中身を1杯グイっと飲みほす。

酒の快感が少しだけ気持ちを落ち着けてくれた。

酒の感覚に浸っていると音楽が流れ始めた。

クラシック、だっただろうか。

常日頃から人の命を奪うようなものにしか触っていない私は当然社交ダンスなど知っているはずもない。

踊るのは外交官の仕事だ。

私はそう結論付け部屋の隅でおとなしくしていることに決めた。

部屋に隅から会場を見てみると軍服を着た異国人が踊りながらもこちらを見ては鼻で嗤っているような気がした。

色とりどりのドレスが会場内をゆったりを賑やかす。

日本はやはり遅れている。

ダンスの良し悪しは分からないが日本人のワルツは素人の私が見ていても余裕がないのが感じ取れた。

その点異国の外交官のダンスは非の打ちどころがなく、音楽に合わせて見事な技を披露している。

それはまるで日本と列強の差を表している様だった。

「……。」

今はまだ泥を被っていなくてはいけない。

列強の国々はこの国を簡単に征服できるだけの力をため込んでいる。

であれば例え「虎の威を借る狐」といわれようと列強たちを取り込み、彼らの力を借りて並んでいくしかあるまい。

清国はまさにそのいい例といえるだろう。

列強に並んだその巧みな手腕は見事の一言に尽きる。

そのための第一歩がこの「鹿鳴館舞踏会」なのだが…

「ここまで無様な姿を晒してしまうともはや日本の価値は地に落ちたも同然だな。」

私は思わず額に手をやってため息を吐いた。

「大益中佐。」

ぐったりとしていると若い軍人がこちらに歩み寄ってくる。

階級は…少佐か。

「どうした?」

精神的に疲れた体を鞭打って私は背筋を伸ばす。

少佐は敬礼をすると報告を始めた。

「定時報告です。鹿鳴館周辺は異常なしであります。」

「分かった。ご苦労。下がっていいぞ。」

「お疲れのところ失礼しました。」

少佐はそういうとその場から離れて行った。

こちらの疲れを窺ってか少佐はメイドに何かを言うと会場を出て行った。

メイドは心配そうな表情でこちらに話しかけてきた。

「お疲れのご様子ですが…」

「いや、大丈夫だ。大事な会合だ。ここで休憩に出ていくのは失礼だろう。」

「分かりました。」

そういうとメイドは別の軍人の方に向かっていった。

上の疲弊を感じ取ってそれをいたわれる。

なるほど少佐といわれながらも若い訳だ。

私なぞすぐにおいて行ってしまうだろう。

少佐の判断をしながら私は再び会場を見つめる。

音楽が変わったのかそれぞれが別の人物と踊っていた。

それでも異国人たちがこちらを見ては嘲笑っているのは変わりがなかったが。

「すこし厠にでも行ってくるか。」

私は会場の扉を開けて厠を目指す。

会場とは打って変わって静かで冷たい空気が体を包み込む。

だが私はこの感覚が嫌いじゃない。

ああいった人々が腹を探り合う様な場所は息が詰まってしまう。

田舎育ちの私にはこういった空気の方が似合っていた。

厠で用を足し、気鬱になりながら会場へ戻る通路を歩いていると向かいから足音が聞こえてきた。

コツ、コツと近づいてくるが一歩踏み出すごとに2重に音が聞こえているのは恐らく異国の靴の所為だろう。

(女か…)

私は少し警戒しながらその足音を聞いていた。

「Where is the toilet?」

暗闇の中から声が聞こえる。

なまりからして清国の者らしい。

私は長いこと考えた末短くこういった。

「If you looking for toilet, it's there.」

「ア…アリガトウ。」

暗闇の中から姿を現したのは紅い髪に緑の目をした少女だった。

白を基調としたドレスを着ているがあまり彼女には合いそうにない。

拙い片言の日本語でそういうと彼女は私の横を通り過ぎて行った。

彼女が通り過ぎた瞬間左足の甲に痛みが走る。

「…ッ!」

なんとか痛みをこらえていたが恐らくハイヒールとかいう靴のかかとで踏みつけられたのだろう。

痛みをこらえて後ろを振り向くが彼女はそこにはいなかった。

コツコツと足音の速度が上がっている。

…恐らくワザとではないのだろう。

そう実感すると私は足を軽く引き釣りながら会場に戻った。

何も事件が起きていないのに負傷兵だ。

せめて会場内では気を張っていようと私は平静を装った。

曲はまだ続いていた。

クラシックというのは長い曲なのだろう。

私はぼんやりとそんなことを思いながら時間を潰す。

3分ほどしたところで曲は終わった。

この間は休憩時間らしく各々近くのテーブルからグラスを手に取って口に含んだり踊っていた相手に差し出したりしている。

「やあ大益くん。楽しんでいるかな?」

いつの間にか1人の人物がこちらに近づいていた。

くん、といわれている以上上官であることは間違いないだろう。

敬礼と共に答えを返す。

「ハッ、僭越ながら楽しませていただいています。」

「そうか。それはよかった。」

そういうと上官はこちらの顔を覗き込んだ。

「大丈夫かい?」

「はい、鹿鳴館付近の警備に異常はありません。」

「そうじゃない。君のことだよ。左足を踏まれたね。」

私は目の前にいるのが誰なのか思い出した。

八意陸軍軍医大佐。

彼女の腕は一流で顔を見ただけで症状が分かったり、手を見ただけで血液型が分かったりと探偵さながらの観察力で患者の容態を見抜くといわれている。

女が軍隊入りを嫌悪されている中彼女は己の腕1つで大佐にまで登り上げた。

さらに近々少将に昇格されるとか…

「ふむ。悪意を持って踏まれたわけじゃなさそうだ。それか踏んだのは女性かな?」

いつの間にか左手をこちらに見せられ大佐は診察を開始している。

「女性に踏まれました。」

「だろうね。これは医者の目から見なくても分かる。ふくれっ面をしていないからね。」

艶やかな笑みを浮かべながら大佐は笑う。

「恐らく、身長は160センチ程度。体重は…これは彼女の為には言わない方が良いね。」

そこまで言うと満足したのか大佐は私の手を放した。

「あぁ、それから左目には気を付けて。少し乱視が入っているよ。」

そんな言葉と共に彼女は片手をあげて去っていった。

そして今更ながら彼女がいつものように白衣を着ていることに気が付いたのは彼女が他の客と流暢な英語で話している時である。

つくづくここにはエリートしかいないことを実感しながら私はさらに時間を潰した。

次の曲が始まったのは10分ほど経ったころである。

よくもまあ飽きないものだ。

長い曲を何曲も続けて踊り通すその根性は軍人顔負けだ。

半ば呆れながら鑑賞していると先ほどの少佐が定時報告にきた。

「異常はないか?」

「異常ありません。ただ、中佐を探している方をお連れしました。」

少佐はそういうと後ろに目配せする。

後ろにはいつの間にいたのか足を踏んだ少女が立っていた。

「では小官は失礼します。」

そういって少佐は去っていった。

「えっと…先ほどはすいませんでした。」

いくらか流暢な日本語で少女は頭を下げる。

「いえいえ、お構いなく。あれはただの事故ですから。」

「ありがとうございます。紅 美鈴と申します。」

「美鈴さん、素敵なお名前ですね。私は大益 宗太と申します。」

「宗太さん。」

「どうとでもお呼びください。ところで美鈴さんはあの輪に加わらなくてよろしいのですか? 」

「いえ、本当は入らないといけないのですが…あなたには直々にお詫びしたくて。」

「それはもったいないお言葉です。」

私は彼女の素直な様子に感心した。

「お父上はあちらの方ですか?」

「はい。清国で参事官をしています。」

「それは随分と…お父様のお顔が随分と赤くなってきたので戻ってきた方がよろしいのでは?」

「…はい。」

そういうと彼女は舞踏会場に歩いていった。

しかし何を思ったのかドレスの裾を持ち上げてこちらに戻ってくる。

「えっと…相手がいないので次の曲までは待っていることにします。」

そういって照れたように顔を赤らめながら髪を弄る姿は社交界という世界での素朴なありのままを実感させた。

「ではなにか飲み物でも片手に時間でも潰しましょうか。」

私は近くのテーブルからグラスを手に取ると彼女に訊く。

「お酒は?」

「……。」

彼女の答えは沈黙だったがその目は雄弁に「呑みたい」と語っていた。

思わず苦笑して酒の入ったグラスを彼女に手渡す。

「本当はいけないのでしょうが…」

「あ、ありがとうございます。」

そういうと彼女はグラスをこちらに向けてきた。

そのグラスに持っていたグラスを軽くぶつけ、一息に飲み干す。

相当アルコールに飢えていたのか飲み干した後の彼女の目は労働終わりの社会人のそれだった。

「満足されたようで何よりです。ですが、それ以上は呑んではいけませんよ。」

私の言葉に彼女は不服そうな顔をしながらも頷いた。

いいところのお嬢様がどうしてこんなにもアルコールを庶民よろしく呑むのだろうか…

少し気になった私は彼女に訊いてみることにした。

「随分とお酒が好きなようですね。」

彼女ははっとした様子でこちらを見ていたが悪意をもって訊いている訳では無いと分かってくれたのだろう。

グラスを手にぽつぽつと語ってくれた。

「私は養子なのです。もともと清の山奥で私は生活していました。しかし…」

そこまで聞いたところで私は半分納得してしまっていた。

「奴隷商ですか。」

彼女は寂しそうに微笑む。

「私の顔を役人が気に入ってくれたのが不幸中の幸いでした。」

「失礼なことを訊いてしまいましたね。」

「いえ、お気になさらないでください。」

「ちなみにお酒を呑んだのは何年ぶりですか?」

「3年くらいです。懐かしいなぁ…」

本当に懐かしそうに彼女は微笑む。

「そうですね…もう1杯いかがですか?」

そういって私はグラスを渡した。

「…頂きます。」

グラスの中身を口に含んだ彼女は驚いたように目線を向ける。

「間違ってしまったのなら、小官が叱責されるだけで済みますな。」

そういうと果汁飲料を私は一口で煽った。

「…ご配慮感謝します。」

そういうと美鈴は小さく微笑んだ。

「さて、曲も終わったことですし小官はこれで。」

そういうと私は食事の並んだテーブルに向かって歩いていった。

皿に料理を装いながら美鈴の方を見ると彼女の傍に1人の男が立っていた。

恐らくあれが養父だろう。

美鈴に何か厳しい口調で話しかけている。

十中八九説教であろう。

彼女は俯いたまま黙って説教を聞いていた。

「そんなに彼女のことが気になるのかい?」

八意大佐が話しかけてくる。

「…いえ。人というのは多くの苦難を受けて生きているということを考えていただけです。」

「そうか? 上官に向かって嘘はいただけないな。」

「…すこし彼女と話を交わしまして。」

「ふむふむ、それで?」

「…失礼、なにを言いたいのか忘れてしまいました。」

「…分かった。思い出したらまた私に聞かせてくれ。」

私の心中を察してくれたのかは知らないが大佐はそういうと去っていった。

その手にはいつの間にか私が装っていた皿を持っている。

「…そっちが目的でしたか。」

私は自嘲気味に呟くと新しい皿を取りに行くべく机の端に向かって歩き出した。

「おっと失礼。」

メイドの1人にぶつかりそうになったので軽く流しながら通り過ぎようとする。

「お皿ならこちらにありますよ。」

ぶつかりそうになったメイドが私に声をかけてきた。

その手には確かに銀の皿が乗っている。

しかし今まで、ほんのついさっきまではそんなものは持っていなかった。

「…あぁ。ありがとう。」

私はそのメイドから皿を受け取った。

「君はいつそのお皿を持っていたんだい?」

気になった私はそのメイドに訊いてみることにした。

「今ですよ?」

それが何か? とでも言いたげな顔でメイドは私の顔を見ている。

「いや、なんでもない。すまないね。」

そういって私はメイドを解放した。

「『時よ止まれ、お前は誰よりも美しい』。」

私の背後でそんな声が聞こえた。

振り返ると先ほどのメイドがこちらを見て笑っている。

「先ほどのお皿のヒントです。」

それだけ言うと彼女は去っていった。

釈然としないまま舞踏会は過ぎていき、そしてお開きになった。

私は鹿鳴館を出ると国が用意した施設に向かった。

近くに基地があるのだが少佐以上の者はそこで一泊することになっているらしい。

上の考えていることは正直分からない。

ホテルの一室でベッドに腰かけてサービスのウイスキーを1杯引っ掛ける。

「美鈴なら喜びそうだな…」

何をとち狂ったのか私はそんなことを思うとそれ以上呑むようなことはせずそのまま床に就いた。

目が覚めたのは真夜中。

人の気配を感じた私は体を起こした。

部屋の中には2人の男がいる。

「美鈴お嬢様を口説いたのはお前か?」

たどたどしい日本語で男が語り掛けてくる。

「口説いてなどいない。」

次の瞬間、右頬に鋭い痛みを感じて私はベッドから床に落とされた。

「美鈴お嬢様に付く悪い虫は排除する。」

私は嫌でも察してしまった。

こいつらは本気で私を殺す気であることを。

近くにかけてあった剣帯から短剣を引き抜くと素早く構える。

しかし、2対1ではこちらの分が悪かった。

短剣はいとも簡単に奪い取られその刀身は私の血で赤く染まっていた。

壁に背中を預けて私はその場に崩れ落ちた。

「ぐっ…」

やはり、中佐になると名誉だけが幅を効かせて実戦はどうもお粗末になるらしい。

倒れた所為かテーブルに乗っていたウイスキーのボトルが見えた。

(これを…あなたに差し上げたかった…)

私の意識は黒くなろうとしていた。

もはやこれまでかとどことなく思っていたその時、赤い世界が視界に飛び込んできた。

(美鈴…)

私はくらくらする頭をどうにかしっかりさせると現状と美鈴を見た。

彼女は私を背にして臨戦態勢をとっていた。

「…大丈夫、あなたは私が守ります。」

美鈴は舞踏会の時のようなドレスではなく、その服装はまさに華人小娘の様によく似合っていた。

(美鈴、あなたに社会という枷はやはり似合っていない。)

美鈴は三節棍を構えて男たちと対峙している。

「普通は…男が女に言う物なんですけどね…」

私はこんな状況に陥っておきながらも彼女らしい言葉に思わず苦笑していた。

「ハッ!」

そんな鋭い声と共に美鈴は三節棍を繰り出す。

それは見事に男に当たり男は為す術もなくその場に崩れ落ちた。

もう1人の男が美鈴に話しかける。

美鈴はそれを黙って見据えた。

2人はしばらくの間にらみ合っていたが男はやがて走って部屋を出て行った。

「宗太さん!」

男が出て行ったのを確認すると美鈴は扉に鍵を掛けてから私の元へ駆け寄った。

「ご心配なく…軍医に見せればすぐに治りますよ…」

私は涙を流す彼女に笑って見せた。

「そんな…短剣が…」

彼女の言葉に私は自分の体を見下ろした。

その心臓部には短剣が刺さっている。

「…これは…事態は…急を要しそうですね…」

まるで他人事の様に私は言った。

痛みは全身に回りすぎてもう心臓が貫かれていようと何も感じない。

「早くお医者さんに見せないと!」

「いえ…間に合うとは思いません…」

私は徐々に失われていく視界で必死に美鈴を捉え続けた。

「宗太さん! しっかりしてください!」

「美鈴さん…あなたを…」

せめて最後に言いたかった。

あなたを愛しています。


……………

…………

………

……


男の遺骸を抱え美鈴が泣いていると何処からともなく拍手が鳴り響いた。

「面白い運命だったわ。」

声は窓から聞こえている。

美鈴が窓を見るとそこには少女が宙に腰かけていた。

髪は紫に目は深紅。

そして何よりの特徴は彼女の後ろに生えている翼だった。

「あなた、妖怪よね。人間の格好をして何をしているのかしら?」

少女は美鈴に問いかける。

美鈴は黙って見つめ返した。

「ふぅん…」

そういうと少女は指を鳴らす。

その瞬間、美鈴は頭を抱えて悶絶し始めた。

「うぅ…うあぁ!」

少女は退屈そうに頬杖をつくともう1度指を鳴らす。

美鈴はあまりの頭痛にその場でぐったりとしていた。

精気のない目がそれでも少女を睨みつける。

「ふふふ、気に入ったわ。私は吸血鬼レミリア・スカーレット。あなたは?」

「…美鈴。紅 美鈴。」

「素敵な名前ね。美鈴、私と取引をしないかしら?」

レミリア、と名乗る吸血鬼は美鈴に語り掛けた。

「…取引?」

「そう、取引よ。この事件をなかったことにしてあげるわ。」

「…どういうことですか?」

「運命とは複雑に絡んだ糸のようなもの。その糸をいじくることが出来るのが私の能力。それを使ってこの事件、あなたの存在、そして彼の存在をなかったことにしてあげるわ。」

美鈴は首を横に振った。

「もちろん、そのくらいは分かっているわよ。ここからが本命の条件なんだから。」

そういってレミリアは月明かりを背にニヤリと笑った。

「この事件をあなたと私だけの秘密にしましょう。そして彼の存在をあなたと私だけの秘密にしましょう。あなたは私に仕えるだけでいいの。」

いつの間にか吐息がかかる距離まで接近したレミリアは美鈴の鷲鼻を人差し指で触った。

「…宗太さんのことを…私は覚えていていいのですか?」

「えぇ、いいのよ。好きなだけ覚えていて頂戴。好きなだけ彼に恋して、彼を愛しても構わないのよ?」

「…全て、仰せのままに…レミリア・スカーレットお嬢様。」

「契約成立ね。さて、こんなにも今夜は月がきれいだから洒落込みましょうか。美鈴、そのお酒を取って頂戴。あなたも呑んでいいわよ。」

美鈴はレミリアの言う通りに棚から新しくコップを取り出すとウイスキーを注いでレミリアに渡す。

レミリアはそれを何も言わずに受け取った。

宗太さんの遺体はもうどこにも見当たりません。

血の跡ですらもうここにはありません。

ですが不思議と喪失感はありませんでした。

レミリアお嬢様が「呑んでいい」とおっしゃられたのでそれに従うとしましょう。

元から机に置いてあったコップにウイスキーを注いでそっと一口付けるとアルコールの香りが口の中ではじけました。

「…さようなら、宗太さん。あなたのことをお慕いしていました。」

「美鈴、なにを独りで呟いているのかしら? どうせならメイドも欲しいところね。それもとびっきり頭のおかしなメイドが。」

お嬢様がこちらに顔を向けて語り掛けてきました。

「そうですね。どうせなら時を止める程度には頭のおかしなメイドが欲しいですね。」

私は笑顔でお嬢様に返しました。

「ふふふ…まったく、長い夜になりそうね。」

「はいっ!」

割と捏造マシマシで書かせていただいたのでここで弁明をば…

・明治時代中期~後期を想定して書いています。(原作ではもう仕えていたのかな?)

・陸軍の階級はほんの少し調べた程度です。(その筋の方が読んだら簡単にボロが出るかと)

・八意大佐は地上の偵察に来ていました&変装しているため彼女の髪は黒髪ショートになっています。(茨歌仙の兎もここで拾ったのかな?)

・時を止めていたと思しきメイドさんは咲夜さんの先祖です。(本当は十六夜 明香なんて名前を付けてもっと書きたかったのは別の話。)

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