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しばらくの間寝ていたのか、目覚めは気持ちよくなかった。まぶたを開くと第一に誰かに背負われていることに気づき、それがイワンだと分かった。理由は髪色。

「うう……」

正直、姿勢がつらい。思わず呻いた。


呻き声を耳元で聞いたイワンは笑う。

「ようやく起きたかい。立てるかな?」

肩が凝ってねーーといい、背中から下ろされ少しよろめく。まだ頭が寝ているのか視界がはっきりしない。室内にいるのは分かるのだが、窓の外から聞こえる雑音がうるさい。目の前が大通りなのかというほど、車の音も聞こえる。


部屋は至ってシンプルだった。広さはあまりなく、一人暮らし向けという感じ。俺のアパートと大差ない。しかし家具が一切ない。なので生活感はない。無機質さを醸し出している。

「どこだ……」

ほどよく痛む頭を抑えながら、俺は呻く。


「一週間だけ借りてる家なんだけど、そんなに長居できないかもしれないね。まあ安心して」

イワンがにこにこと笑顔で言っているが、全く安心できない。ニシマがこちらを睨んでいる。さきほど襲われかけた記憶がふとよみがえり、鳥肌が立つ。


「あ、アンタらは何かしたのか?まるで警察に追われてるかのような雰囲気だったけど…」

恐るおそる訊ねる。結局、ここが家であること以外は分からないが、今はそんなことはどうでもいい。本題は彼らが何者なのかということ。


今は怖気付いてる場合ではない。もしかすると自分の生命の危機かもしれない。そう思うと生存本能だろうか、自己防衛能力が働き不思議なことに怖いという気持ちはなくなっていた。


「ニシマは殺しをやったって感じだろ?でも何でアンタまで逃げてるんだ。共犯なのか」

俺が質問をした途端に、二人の顔が曇る。

これ相当な殺人を犯したとか、そういうやつかーー?

しばらくしてイワンが口を開いた。今から話すことは事実だと言わんばかりの真剣な表情だ。


「彼はアメリカで二十人ほどやったんだ。理由は前に見せたように『目』が好きでね。彼は目を盗った後、必ず証拠隠滅のために殺していたんだけど一人だけ失敗した。そのせいで特定されてしまい、米国本土で逃げ回っていたんだけど……




NBIが捜査を担当することになってから、足取りを追うペースが尋常じゃなく、危うくニシマは捕まりそうになった。偽装工作したパスポートと変装でなんとかイギリスに逃亡することに成功。英国ではその事件はニュースになっておらず、滞在して半年くらい経ったある日、イワンと出会った。


当時イワンはコミュニストの国際的集まりで英国に来ており、ニシマと出会った日も集会の帰りだった。路地裏で元気がなさそうにしてるのを拾った。最初は家がないのかと思い滞在先のホテルに連れて行き、飯を食わせたのだが話を聞いたところ『普通ではない』と気づき、匿うことに。


それと同時期に集会が地元の警察に通報され、集まりは急遽解散になり、参加者たちは皆身を隠すため世界各地に散らばった。中には英国にとどまった者もいたが、それは時間の問題で次々と参加者は捕らえられていった。まだ英国にいたイワンは焦りを感じ、急いでニシマと共に母国ロシアへ帰国した。


帰国しても安心は出来ない。なぜなら自宅に宛名も送り主の名前も書いていない空の手紙が届いたり、オウムが突然現れて変な伝言を残していったり等という、いわゆる予告がきたからだ。空の手紙の意味は、誰かがそちらに向かっているということ。


そしてオウムが発した言葉は、こうだった。

『トケイ が うごき、メガミ が くる』

誰がこのオウムを寄越したのかは不明だが、イワンにはこのメッセージの意味がわかっていた。



「いやいや全然、理解できないし。嘘くさ!」

あまりのスケールのでかさに、本気とは思えなかった。冗談で言ってるような雰囲気ではないのだが。

「仮にその話が本当だとして。アンタらは俺を脅したわけだけど、それに関しては説明ないの」

あわよくば気絶した分の慰謝料をもらいたい。


ニシマはポケットから飴を取り出し、口に放り込んだ。タバコ代わりなのだろう。少し眉間のシワが緩んだ気がした。

「確認がしたかったんだ」

イワンは言う。俺がNBIなどの組織の手下なのではないかと疑ったらしい。自分で言うのもなんだが、こんな弱いスパイがいてたまるか。


「あんなことしなくても気付けたんだけどねえ。かなり焦って判断が鈍ってしまったようだよ。すまないね」

しかし本当に謝っている様な感じではない。むしろ迷惑そうな……。


「しっかし一般人を巻き込んでしまうと、かなり厄介なんだよね。我々の罪状が増えてしまう。というわけで、君も今から仲間さ!」

ようこそ!と言わんばかりに両手を広げ歓迎しているのだが、全く嬉しくないどころか意味不明で頭の中にハテナマークがたくさん浮かぶ。


ニシマもこちらを見てパチパチと小さく拍手している。

「え、俺はそんなのご免だ」

「何を言っているんだい?君は今僕らと一緒にいる時点で共犯者なんだよ。だからもし僕らが捕まったら君のことは"匿ってくれた人"と紹介させてもらうね」

しれっと恐ろしいことを言う彼に、俺はやはり恐怖感をおぼえた。彼らと行動することにメリットは絶対に有り得ないのが、逃げてもメリットはない。それよりかデメリットさえある。

「それに僕らが何者なのか、君は知ってしまっただろう?」

目は笑っていない。


俺は現状の確認をする。

まずニシマはアメリカでたくさん人を殺し、NBIに追われている。イワンはコミュニストで何かから追われている。俺はそれに巻き込まれただけ。だが、逃げることは許されない。つまり俺のミッションは、国際的組織から逃げる事もしくは捕まって真実を伝えること。


断然、後者の方がいいのだが、わざと捕まろうとすれば何をされるか分かったものではない。生存率が高いルートを選ぶべきだ。

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