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追想の時間が終り…

3.


 彼は愛知県内陸の出身で彼との出会いもまた、変な出会いだった。しかしそれ以降、大学の四年間はずっと彼と仲が良かった。最も大学時代から社会人になって少しの間、付合いが深く、お互い信頼をしていた関係にある。また、ホモじゃないかとも思える位、大学時代からずっと、お互いに会話をすると止まらない。内容は至ってクダラナイ内容が殆どだが、文学談義やら、語学教育について、哲学、評論、スポーツ、音楽などお互い趣味が合う故か、話が尽きないのだ。時には大学の食堂で口論になったりもしていた。



 因みにどんな出会いかと言えば私は自分のクラスのオリエンテーションに参加した時、何だか徒党を組んでいる女の子の集団、五人位に声を掛けられてどうもこういう徒党組む奴らは苦手だな、と素っ気無く避けようとした時に声を掛けたのがこの男で、彼もそういう徒党を組む連中は大嫌い、という私と似た匂いのする性格だとすぐに見抜いたのですぐに仲良くなった。彼も身の丈一八〇位あり、スラーとしてお洒落にも気を遣う、いい男だった。ただ、どちらかと言えばやや、ナルシストっぽい所もあり、色々と話も合うようで中々面白い奴じゃないか、と男二人で盛り上がっていた。しかも趣味も合う。彼はロックバンド、“ラウドネス”に傾倒しているようで、“ラウドネス”と言えば日本のロックシーンの一時代を築いたグループだ。それに対して私は“有頂天”に傾倒しており、どちらもマニアックだが、本物志向の人間だけが聞くようなヘンチクリンな音楽で脚光を集めたグループなのでそういう何とも言えないような変な本物志向を持つ二人だから気も合う。そして何より二人共にアウトローな生活を送る輩なのでそこも気が合う。また更にはお互いに格闘技も実際にやっている。彼は極真カラテ、私は柔道だ。そこも気が合う。彼も徒党を組む女の子の集団に近寄られて困っていた、との事でそこも気が合う。そして更には先にお昼を一緒にした女の子二人ともどうやら知り合っていてフムフム、偶然だらけだけどお互いにいい縁じゃないか、コイツとなら仲良くなれそうだ、そう思っていた。


 翌日からは四人で一緒に色々とオリエンテーションを廻るようになり、そこで色々と話をした。しかし残念ながらその中身の何一つとして正直私は覚えていない。お互い煙草を吸う事(私は吸い始めたばかりで、正直余り美味しいとは感じていなかった)や吉田さんが横浜の出身、彩夏さんは北陸、矢口は愛知県、私は千葉、と両方共に東西にハッキリと別れている。しかも彩夏の北陸と矢口は愛知の内陸、吉田と私は共に浜(東京湾)沿い、とこれも面白くハッキリと別れていた。何だかそんな事を民俗学のオリエンテーションで話をした事程度しかもう覚えていない。私以外の彼らは覚えているのだろうか?多分忘れているだろうな、私同様、なぜならもう十年もあれから経ったのだから。しかしクラスが別れていたのでやっぱり段々に女の子二人とは交流は無くなる。私と矢口は同じクラスだったので、逆に交流は深まる。よく彼の下宿先に赴き、彼はギターを弾くのでそれに合わせて私がボーカルをして色々な曲の練習をした。と、言うのも一度四人で交流が薄まる前にカラオケに行った事があり、その時彼が私の声量の大きさと音程のバランスに驚いていて、



「お前、一緒にバンドやらへんか?」



と誘われた。私は唐突に話をし出した彼に驚きが隠せなかったのだが、



「面白そうじゃん」



誘いに乗ったのがキッカケでちょくちょくと練習をする事に。彼のアパートで夜にも関わらず、尾崎豊とか、ミスターチルドレンとか、彼の伴奏するギターに合わせてテンポがどーだ、とかここのキーは上げた方がいい、とか彼のアドバイスを受けながら私はボーカルの練習をしていた。けれども私自身は単に興味本位だったのと、あと、大学に行ったら硬式野球をもう一度ちゃんとやる、と決めていたので本腰を入れる程では無かった。彼も大学には極真カラテが無いので渋々と少林寺拳法を習う事になった。



 結局何やカンやで路上でやろう、とか企画しても企画倒れだった。後に彼はバンドマンが集まる高円寺に住むようになり、本当にファンキーな人生、所謂“修羅場”を多々潜り抜けるような人生を歩み始めていたのである意味パンクな人、お互いにパンクな人である事はどうやら間違いが無いみたいだ。多分、磁石がくっつくようにお互いが惹きつけ合った、そんな感じなのかも知れない。因みにこの時は私は自分を追い込む為に柔道もやりたい、と思っていたので野球の練習と柔道の練習時間がバッティングしない事をいい事に掛け持ちをし、昼間は野球、夜は柔道、と日々スポーツに明け暮れるようになっていた。柔道部と少林寺拳法部との練習時間は一緒なので、そこでも矢口とは顔を合わせる事になり、女の子二人よりもこの矢口との交流が深くなる結果となった。けれどもクラスではそんなスポーツに明け暮れる私達に対して、冷ややかな眼でしか見てはくれずに、何時の間にか私達二人は浮いた存在になっていた。例の五人組の女の子達が同じクラスだったので、私達は彼女らをそれとなしに拒絶していたのが原因と言えば原因で、また、彼女らは女の子が多い大学キャンパスだったので、数にこういう社会では勝るモノなど無いのだろうか。何時の間にかクラスでも、学科でも中心的な存在になっていたのでどうにもこうにも、私達パンクな二人はクラスの人達とは打ち解けられずに、男二人、いつも食堂で顔を付き合わせては熱い文学の話とか、スポーツの話とかばかりをするようになっていた。彩夏さんと吉田さんも時々は一緒になっていたのだが、周囲からは余りいい眼では見られずに何時の間にかお互いに変な気を遣うようになり、そのまま疎遠となってしまったのだった。



 寧ろ、避けるようになった、という事もある。



 理由は色々あるし自分に思い当たる事もある。惚れた腫れたは私の埒外ではあったらしいが、詳しくは知らない。ただ、情報は全て入って来る狭い村社会なので、避けざる得ない事情もあった。そうして男友達が私はドンドン増えて、その代りに女の子の友達は減った。また、他学科の先輩や部活動の先輩、同輩や何かの交流も増え、そっちで私は色恋などは多少はあった。ただ、それは同級生の妬み、反感を買うだけであり、妬み、反感の目線がいつも私に向けられているような気がして、けれども私ももう負けてはいられない、寧ろそういう妬み、反感を力で抑えたりカワシタリして、ずっと平行線上の線路をお互い走るような、そのスタートをこの大学一年の数日の間に作ってしまった。 結果、私には同級生との楽しい思い出など、極々限られた交流関係だけで終わってしまった。


 実に今考えると勿体無い事をした、とそこは後悔しているが言い訳は出来ない。結局、私自身は私に優しくしてくれた人々を裏切るような真似を何度と無くしては誰も信じられないような虚しい自我だけがいつも私の後ろに、影のように付いてくる、そんな人間に成り下ってしまっていた。


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