第一話:第1の怪談(世界の狭間)
探す幽霊に遭遇して3日目
図書館で借りた本を片手に校舎内を歩き回る
特にめぼしい何かが見つかることなく、時間だけが過ぎていっていた
「はぁ。そろそろ誤魔化すネタが尽きそうだな」
カテリナ達には迷惑をかけたくない。だからなんとか誤魔化そうとアレコレ用事があると言い切ってきた
ユージーン先生にも皆に言わないようお願いした
どんな災いが来るかなんて予想できないしな
俺一人でも解決してみせるさ
「しかし、やっぱ広いな」
古くなった王城を改築したこの学園には沢山の部屋が存在する
それだけじゃなく王族が使用していたらしい隠し通路もあるとか
本当めちゃくちゃ広い
「ラディーグじゃないけど迷いそうだ」
地図があればもっと楽なんだろうけど、流石に全体をカバー出来るほどの物は無いようでメモに書き込んでいく
どうせならこれからも使えるよう、細かく丁寧に
ダンジョンだけじゃなく学園も全部見て回りたい
元王城だから何かしらのお宝が残ってるかもしれない
これが解決した後皆で学園を探索しよう
「収穫なし・・・」
3日間かけてある程度探したが今日も駄目だった
寮に戻る前に図書館で改めて7つ怪談の本を探そうとやって来る
扉を開けた時、微かに“時計の鐘の音”が聞こえた気がした
「えっ」
扉の先は本棚が沢山並ぶ図書館ではなく、何故か中庭だった
扉を何度も開け閉めしたが図書館ではなく中庭だ
試しに、中庭から通じる廊下の先の部屋も開けてみるが俺が知っているはずの場所には繋がっていない
全部、バラバラだった
おかしい、どうしてと考えが纏まらず
暫くグルグル歩き回ったが何にも無い
人の気配も全く感じない
落ち着こうと中庭のベンチに座って空を見る
いつもなら綺麗な青空や沢山の星を眺められる空は、真っ白な何もない言うなら壁みたいなものになっていた
はぁ。なんでこうなった
「貴様は、なんだ」
気づいたら少し眠っていたのか声をかけられて驚く目が覚める
長い銀髪を三つ編みにし、黒い仕立ての良いコートを羽織り眉をひそめた男性が物凄い近さで覗いていた
「あの・・・どちら様でしょうか」
質問に質問で返してしまったが殴らなかった自分を褒めたいとちょっと思った
「やっぱり、ここはいつもの学園とは違う。そういうことですか?」
中庭から離れ廊下を歩きながら話す
「そうだ。あらゆる世界と世界の狭間だ」
時折辺りを見渡し何かを確かめながら男性は教えてくれた
何でも、俺が住んでいる世界の周りには幾つかの異なる世界が存在するらしい
その世界と世界の間に存在する小さな世界。
それが狭間らしい
いまいちピンとこないけど
理解が追いつかないまま説明を続ける男性に着いてきたら
見覚えの無い真っ白な扉の前に辿り着く
「元の世界に戻れ」
ソッと扉に触れるだけで勝手に開く
帰れるんだ、とふと考えながら潜ろうとするとバチッと音を立て拒絶された
「・・・ほんと、なんなんだ貴様は」
帰れるんじゃないの?と男性の方を見たけど俺以上に頭を抱え酷く困惑してる様に見えた
「はぁ、だんだんお腹空いてきたな」
狭間の世界に来てどれくらい時間が過ぎただろうか
校内にある時計はどれもグルグルと回り続け正確な時を知らせてくれない
男性はあれからブツブツ呟いたかと思えば、やることが出来たと言って何処かに行ってしまった
「とりあえず、中庭に戻ってきたけど・・・」
扉の前に居てもなんの変化もないから、元来た道を戻り中庭へ
ベンチに座り真っ白な壁の空を見る
世界の狭間なんてそんなものがあるなんて知らなかったな
・・・はっ、俺が知らないだけで王都に住む人達や学園の先輩、先生は知ってるんだろうか?
もしかして、学園内で知らないのは俺だけとか?
・・・あるわけないか、そんなこと。
と言うかもし知っていたなら迷い込んだりしないよう対策とかしそうだしな
「ん?あれ、そもそも、俺どうやってここに来たんだ?」
何故か入り込んでしまった世界と世界の狭間
俺はいつものように図書館の扉を開けただけ
特別な事はしてない・・・
はず
思い出せ、何かしらのきっかけがあるはず
「鐘の音?」
そうだ、あの時鐘の音が聞こえた
でも、おかしい
学園内に鐘の音がなるような時計台は存在しない
確かめようとメモした地図を取り出そうとポケットを探るが・・・
無い。何時の間にか書き留めていた地図が無くなっていた
図書館で借りた本はあった
「どこかに落としたのか。はぁ、書き直ししないと駄目か」
せっかく、大まかな部分は書けたのに
やり直しはちょっと辛い
「ここに居たのか」
地図を無くしたのを落ち込んでいたら、何処に行っていた男性が一冊の古ぼけた本を持って帰ってきた
「扉が使えぬため、強制的に戻すしか方法がない。安心しろ上手くゆけば帰れる」
うん、他に方法が無かったとしても
縄で縛られ、身動きがまったくとれない状態ははっきり言って嫌だし、物凄く不安だ
・・・反論しようとしたら口まで塞がれた
ちなみに魔法も使えなかった、何故だろう
あー、もう帰れればどうでも良いかも・・・
何事も、諦め時があるのかもしれない
男性が本を音読しながらおそらく、手順をふんでいるのだろう
凄く集中している
してるんだけど・・・
『・・・』
いつの間にか男性の真後ろに探す幽霊が立ってる
あ、目が合った・・・
前は暗闇で見たけど、今は結構明るいからかはっきりと見える
長い髪に所々破れ血みたいなのが染みついてる服
時折見え隠れする血走った瞳は、怖い。物凄く怖い
いまだ気づいていないような男性
どういうわけか、立ったまま特に何もしてこない探す幽霊
どうしてこうなった
・・・エド達なにやってるかな
今頃夕食かもしれない
あ、今日の夕食メニューにハンバーグがあったはず
考えたらもっとお腹空いてきたな
・・・俺、帰れるのかな