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閑話2 新学期 Part Ⅱ

「何を騒いでいるのですか、モールノート様」


 アローリエが駆け足ぎみに止めに入る。ユクティーシャも一緒だ。


 ガルディウスはわたし達と同学年で、成績上位者だ。素行もまあ悪くないし、わたし達みたいな平民に高慢な物言いをすることも滅多にない。

 でも貴族出身な上に竜族なので妙に誇りが高くて、自分が貶められていると勘違いするとあんな風に手が付けられなくなるのだ。

 ちなみに、前回キレたのはガルディウスの横髪がちょっとぴょこんと跳ねているのを笑われたのが原因だ。


「シャルデイラ、グローリア。この者が校門に突っ立っていたせいで私にぶつかったのに、自分のせいではないというのだ!」


 あ、あの子、あの時お菓子買いに来てた貴族の子だ

 たしか、ええっと、そう!シルヴィアって名前だよ


 12歳くらいの少女で深い青の長い髪。頭から生えた鱗のついた二対の羽に可愛らしい顔つき。ヒラヒラの貴族服。


 アローリエ達を追って私達も来てみると、なんとガルディウスに怒鳴られていたのは、ちょっと前にうちのお菓子を買っていったシルヴィアだった。


 制服を着ているから、やっぱり編入生だったのだろう。今日は以前のゆったりと肩に流れるロングヘアではなく、ポニーテールの上にお団子がのっているような髪型だ。わたしの言い方だと変な髪型に聞こえるかもしれないけど、本当はもっと貴族っぽい髪型をしている。


 貴族特有の従者は連れていなかったのが気になったけれど、問題はそこじゃない。


 ガルディウスは顔を真っ赤にしてまた怒鳴りそうなほどおこっている怒っている。貴族な上にただでさえ竜族で大柄だから、威圧感がすごい。なんとなく近づいてきてしまったが、やっぱり離れたくなってきて、わたしは一歩後ずさった。


 だが、当のシルヴィアは怯えるどころか、その可愛らしい顔を怪訝に歪め、ガルディウスを見上げていた。


「そもそも前を見ずに歩いていた君が悪いだろう。だいたい、こんな校門の目の前でアホみたいにギャーギャーと(わめ)いて。君は校門の前で騒ぐためにここに通いに来たのか?」


 うわあああ、ちょっとぉぉ!!

 何言ってんのぉぉっ!!

 その火に油を注ぐような発言はやめてぇぇっ!!


 激怒しているガルディウスにとんでもないことを言い出した。

 たぶん、みんなもわたしと同じような事を思ってたんだろう。カイルとネリーシャは愕然とした顔をし、アローリエは顔をひきつらせ、いつも無表情なユクティーシャは目を丸めていた。様子を伺っていた周りの学生達にも静寂が降り立った。


 ガルディウスは……言わなくてもわかるだろう。一刻も早くここを離れたい。

 顔は怒りで真っ赤になって、体はわなわなと震えている。


 そしてとどめとばかりに


(わめ)くなら他所で(わめ)け。迷惑だ」


シッシッと手で追い払う仕草をした。


 ここまでしてなお、シルヴィアは一貫して面倒そうな表情を崩さない。ここまでくると逆に清々しい思いさえしてきた。


 でも、せめて別の機会にやってほしかったよ……


「こっ……んのっ……!」


 ああ、ガルディウスは怒りのあまり言葉がのどに詰まってる

 爆発するのは時間の問題だ


 ガルディウスの従者が止めに入ろうとするがもう遅い。

 わたしは、なんかもう、一種の諦めに似た感情がわいてきていた。


 どうせわたしは第三者だし、貴族でもないし。いまさらわたし達が止めに入ったところで意味はない。


 わたしは左右にいるカイルとネリーシャに目を向け、静かに耳を塞いだ。




「モールノート君も悪気があったわけじゃないのよね。この子もそうなの。ちょっと言い方に癖があったかもしれないけれど、最初から一方的に悪いと言っていたわけじゃないでしょ?」


 さんざん轟音というか、怒号というか、そんなのを喚き散らしていたガルディウスと依然けろりとした顔のシルヴィアの喧嘩を止めたのは、生徒の扱いに定評があるルシア先生だった。

 流石にこれだけ騒ぎを起こせば先生方も当然気づくだろう。何事かと様子を見に来て止めてくれたのだ。

 しかし、そのすぐ後に最も不安な気持ちになった。シルヴィアを見て、何人か納得したような顔を浮かべたことだ。


 それからなんとなく、学院の生徒についてはおかしな点に気がついた。その時はなんの気にも止めなかったのだけれど。それは悲しくも、正しかったと後で気付く。


 あれ?

 そういえば、生徒は全身制服で通学するはずなのに、なんでシルヴィアは上しか制服を着ていないんだろう

 ブレザー型の制服で下は自由に貴族服なんて

 まるで、貴族出身の先生みたいな格好……


「あれ、絶対学院上位に上がる問題児(クセのある)編入生だよ」


 ネリーシャが朝礼を行う大講堂についた直後、すぐにさっきのシルヴィアについて口を開いた。


「なんだったのですの、あの方……。よりにもよってあの貴族でもあるモールノートに真っ向から喧嘩を売るなんて」


「顔だけは見たことあるよ。たしか、先日ポロンのとこにお菓子買いに来てた子だよね」


 困惑気味のアローリエにカイルも記憶を探り、わたしに話をふってきた。


「う、うん。そう。シルヴィアって名前だった。従者を連れててヒラヒラした上等な服を着てたから、貴族の子だと思うんだけど」

「そいつがあのガルディウスに喧嘩を売ったのか?」


 大講堂で落ち合ったばかりのダイライルがファイトスと共に会話に加わる。


「たしかにガルディウスは、短気で一度血が昇ると手が付けられなくなる。だが、わざわざ喧嘩を売るような性格でも、高慢で嫌われるような奴でもない。そのシルヴィアという編入生がガルディウスに火をつけたのではないのか?」


 ファイトスは同じ僚なせいか、ガルディウスの人柄をよく知ってる。シルヴィアに非はないのかと聞いてきたけど、たぶん違うと思う。


「ガルディウスは突っ立っていたシルヴィアが悪いって言ってたよ。たぶん、体格の大きいガルディウスはそのシルヴィアが目に入らなくてぶつかっちゃっただけじゃないかな。だから、どちらが悪いとかじゃなくて、どっちも気づいていなかっただけなんじゃあ」


 カイルの推測に、みんな一応納得の顔を見せた。ただぶつかってしまっただけなのだと。


「ではなぜ、あんな事態に?」


「それは…」


「シルヴィアが燻って消えかけていた火にわざわざ燃料を投下した」


 言いよどんだわたし達にユクティーシャはさらっと答える。たとえみたいな物言いだけど、二人には伝わったようだ。


「ねえ、話は変わるけど良い?」


「何?ユクティーシャ」


「え、ちょ、待ってユクティーシャ」


 嫌な予感がする。いつもは口数少ないユクティーシャは、慎重な性格だから適当なことは言わない。言い換えれば、彼女の言うことはだいたいの場合、合っている。


「ポロン、シルヴィアって人、下は制服じゃなかったよね」


「うん、そうだね」


「それ、多分、あれが原因」


 ユクティーシャの細い指がふと端に並ぶ一列を差す。みんなの視線がその一列に向き、やがてすぐに一人の少女へ集結された。


「あそこ、先生達の並ぶ場所に混じっている。ポロンが言ってた、新任教師」


 ユクティーシャの言うことはだいたい当たる。


 彼女には胸には、わたしやカイル、ネリーシャと同じ

"風の音色(エメラルド・ハミング)"寮を示す、緑の紋章が飾られていた。


 お父さん、お母さん、今年の担任の先生はわたしと同じくらいの女の子です。見た目とちがい、初日早々で学年一の問題児と揉め事を起こしていました。気持ちよく送り出してくれたお母さんには悪いけど、新年早々、わたし、さっそくお家に帰りたくなってきました。今年は不安で一杯の一年になりそうです。




 ポロンちゃんとそのお友だちがひたすら駄弁ってる回でした。

 一応シルヴィアちゃんの新任スピーチも載せようかと思いましたがやめました。ご覧の通り、火に油を注ぐ言動が標準装備されてる子です。悪気は全くないので余計に性質が悪いですね。

 ポロンちゃんはホームシックになりかけてます。

 頑張れポロン。


※追記:次投稿は11/24の12:00予約投稿になります。

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