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なにせHPが1なのだ。アリアファンの奇跡と呼ばれる凄いことだってしちゃうのだ。






 この日。アリアファン歴2月25日夕刻。



 穏やかな丘陵が続くこのアリアファン大陸は、魔法使いが放った禁呪――極大隕石召喚(グランドメテオ)によって壊滅した。


 巨大隕石群は地表に落下した後、目も眩む閃光を放って炸裂し、小型の太陽ともいえる灼熱の火球を作り出した。火球は一秒後には最大直径280メートルの大きさになり、その中心温度は摂氏10万度にも達した。


 そして、その熱線と放射線は、強烈な衝撃波を巻き起こし、大陸全土を掃灑(そうさい)する。


 被害は甚大であった。アリアファン平原の地殻は直径約数キロにも及ぶクレーターが幾重にも形成され、付近の山河の全てがその形状を大きく変えた。大地を駆け抜けた熱の嵐は近海にまで到達すると、水蒸気爆発を起こして吹き飛んだ。


 人的被害もまた甚大だった。


 2000年の歴史を持つ風光明媚なアリアファン城は、その爆風に巻き込まれ一瞬にして瓦礫の山と化し、爆心地から遠かったレィーベ村でも強烈な熱線により、屋外にいた人の全身が一瞬で炭素化した。内臓組織に至るまで水分が蒸発し、苦悶の表情のままの黒焦げの遺体が辺り一面に残された。


 こうして、地殻、地表、人体に莫大な被害を与えながら、この日アリアファン大陸は、魔法使いが放ったグランドメテオにより完全に崩壊したのだった――。














 ――そのはずだった。









「……まったく、みんなしょうがないなあ」








 少年の声がする。


「……――巨大隕石群の構成物質を解析」「主成分であるNiとFeを分解し地中へと保存――」


 なにやら術式を唱える声もする。


「――大気中から酸素、窒素、水素を摘出……」「……多量元素からキチン質34mm。タンパク質18mmを合成しクラチラ層を生成――」


 パアァァァン――ッ!


 そして両手を合わせて柏手を打ったかと思うと、少年の身体から光の粒子が弾かれるように放たれる。


 やがてその粒子が、少年の前方一点へと収束していくと、その中から緑色の金属光沢が現れた。そしてそれは、頭部、胸部、腹部へと形作られ、その各体節からは一対の関節肢が伸びていく。やがて光が立ち消えるとそこには一匹の生物が誕生した。


『ギギィ……?』


 それは消滅したはずのカナブンであった。


『ピギギィィ~~ッ!?』


 さしものカナブンも、一体自分の身に何が起こったのか理解出来ずに飛び去っていく。


 さらに、


「――カルシウム、ナトリウム、アルミニウムを土壌から抽出」「――NPK3元素を配分したのち再構築」「アルミナ200g、珪酸300gを合成後、摂氏800℃にて熱加工――」


 パアァァァン――ッ!


 再び少年の身体から光の粒子が拡散すると、大陸全土に奇跡が巻き起こる。


 それはまるで映像を巻き戻しているかのような光景だった。削れた土が次々と大地へと還っては草木を生やしていく。粉砕されたレンガが次々に積み上がっては建物へと変化していく。雄大な佇まいのアリアファン城も、穏やかな農村であるレーベェ村も、全てが破壊される前の姿へと再現されていった。


 パアァァァン――ッ!


 さらに奇跡は止まらない。


 炭素化したはずの死体にも変化が起こる。蒸発したはずの水分が人体へと戻っていき、瑞々しい肌色へと舞い戻っていく。ケロイドで焼けただれた赤ん坊も、瓦礫の下敷きになった王女も、放射線により障害を背負わされた漁師も、全てが光の粒子によって再生されていく。


 そう、


「……ふぅ、これでよし……と」


 これこそが、勇者リュカ・アスタロトだけが使うことの出来る、究極の特殊能力――。




 ――神々の拒絶【アンチゴッド】




 勇者がHP1なのと引き換えに、手に入れた究極の力。


 それが魔法の類ならば、回復魔法も補助魔法も、たとえ大魔王が放つ極大魔法だったとしても、問答無用に打ち消すことの出きる異能の力である。


 さらに、


 その効果は、過去に放たれた魔法であってもその効力を失わない……! たとえ100年前に唱えられた魔法だったとしても、このアンチゴッドならば完全に無効化することが出来るのだ。


 もはや、神の身技としか言いようがない奇跡の力であった。


 そう彼は――、





『どんな極大魔法も即死魔法もこの世の全ての魔法を完全に無効化できちゃう主人公。ただしHP1』





 それが勇者リュカ・アスタロトなのである。


 そして少年は最後の再生へと取りかかる。


「……えっと、水35Lに炭素20kg。アンモニア4Lに石灰1、5kg……」「その他少量の15元素は……いいよ、ぼくから持ってっちゃって」


 パアァァァン――ッ!


 少年の腕の中で再生の光が煌めくと、やがてそれらは人型へと姿を変えていく。


「……待たせちゃってごめんね……」


 蒸発したはずの血と肉が吸い上げられ、毛筋ほどの跡も残さず傷が塞がっていく。ギリシャ彫刻のような完璧な容姿とプロポーションが再現され、最後にその肉体を映えさせる真紅の鎧までもが蘇る。


 少年は横たわる少女の頭を膝に乗せ、感謝の言葉を唇に乗せた。




「……よく頑張ったね……戦士……」







           ☆







(……ん、ああぁ……気持ち、いぃ……)



 光の粒子が、戦士の細胞の一つ一つを再生させていく。


 戦士はその切れ長の瞳を情欲に潤ませながら、口から湯気が立つほどの吐息をこぼした。破壊に痛みが伴うように、再生には快感が伴うのだ。


 そして、


 思考が再開され、視界も蘇っていく。少女の瞳が最初に写すのは、いつも同じ顔。


 最愛の顔。


「………やあ、勇者………」


 戦士が第一声を発する。


「やあ………じゃないよまったく……」


 だが、勇者は止血効果のある薬草を、戦士の傷口に何度も貼りつけながら言う。


「いいかい戦士。ぼくが無効化出来るのは、あくまで『魔法』の効果だけなんだからね」


 そう、


 既に戦士の出血は止まっていたが、自傷行為で失った血液は戻ってはいなかった。勇者が無効化できるのはあくまで『魔法』の効果だけなのである。


「だからさ、こういう切り傷は治せないんだから、あんまり無茶しちゃ駄目だよ……!」


「………むう?」


 戦士は少し唇を尖らせながら、


「でも少しぐらい犠牲があったほうが、『努力、友情、勝利』って感じで燃えるだろう?」


「……う、う~ん? いつも、『犠牲、破壊、再生』って感じだけどね~」


 実は戦士が無茶をして重症を負うことはこれが初めてではなかった。そのたびに魔法使いが極大魔法でとどめを刺し、勇者がその魔法の効果を無効化させることで戦士を復活させていたのだ。


 と、そこへ、


『……ギギ……ィ』


 ふと見れば、さっきまで死闘を繰り広げていたカナブンが勇者の元へと舞い降りて来ていた。


「――! ゆ、勇者……っ!」


「………大丈夫………」


 そういって勇者は戦士を静止し、そっと人差し指をカナブンへと差し向ける。


『ギギィ……♪』


 ――ピトッ。


「ん? ……! はははっ、くすぐったいってばもう……っ♪」


 助けて貰った事を理解しているのか、もはやそこに戦意はなかった。勇者への指へと止まり、仲間になりたそうな顔をしながら頬ずりを始めるカナブン。


「――ね、大丈夫でしょ?」


「……ほ、本当か……!?」だが戦士は不安を滲ませながら言う。


「本当は節足がチクチクして痛いんじゃないのか……!?」


「……せ、節足? う、うん大丈夫……?」


「ならいいが……」戦士はなおも心配そうに、


「でも、虫の裏側とかは案外グロテスクだからな。気分が悪くなったらすぐにお兄ちゃんに言うんだぞ」


「言わないから!? たとえ気分が悪くなったとしても死なないからっ!?」


「過保護すぎるよ、もうっ」と、呆れたようにため息をつく勇者。


(……でもまあ……そのおかげかも、ね……)


 勇者は真っすぐに戦士を見つめ、率直にあるがままの気持ちを吐き出した。






「いつもぼくを守ってくれてありがとうっ!」






(は、はうぅううううう……っ♪)


 100%邪気のない笑顔。


 赤ん坊の頃から変わらない……いや、さらに眩しさを増した天使の頬笑み。


 好きになるのに一秒も要らなかった。


「……りょ、了解した勇者……っ!」


 ビキニアーマーを脱ぎ始める戦士。


「……ま、まったく……おれたちは男同士だってのにこんなところで……っ!」


「……ちょっ!? なにを脱いでるの! 一体君は何を了解したのっ!?」


 むぎゅうううううううっ♪


 感極まった戦士が勇者へと抱きつく。長い手足を勇者の胴体へと絡みつかせ、甘えるようにじゃれつかせる。もちろんHPが1の勇者を傷つけないためにビキニアーマーを脱ぎ捨てるという配慮は忘れない。


「ああああっ!? もう! せめて紐ぐらいは纏ってよぉ……っ!」


「却下する♪ そんなのよじれて勇者の首に巻きついたらどうするんだっ♪」


 戦士が笑いながらそう言うと、勇者も恥ずかしそうに相好を崩す。……たまらない。戦士はこの眩しすぎる笑顔を見るたびに思う。


 たとえこの身を犠牲にしても、


 何度でも、


 何度でも、




 この天使の笑顔を守ってみせると……!




 そこに、


「あぁン、戦士さんばかりずるいですわ……!」


「ゆーしゃ……レニャも……ぬぐ……」


 駆け寄ってくる僧侶と魔法使い。間髪入れずに抱きつかれ、その柔らかいおっぱいを戦士に負けじと押しつける。


「ちょっ、みんなまで……ああっ!? な、なんで二人とも脱いで……あわ、あわわわっっ!?」


 もにゅ♪ もにゅもにゅもにゅううぅ♪


 この日勇者は、後にアリアファンの奇跡Ⅱと語り継がれるパフパフで、0,999のダメージを受けた。


『…………ギギィ?』


 こうして、




 全ての魔法を無効化できちゃう勇者と、だだ甘な仲間たちとの(エッチな)大冒険はまだまだ続くのであった。





              (つづく♪)










 えっと、勇者リュカのプロフィールです。お暇な方はどうか読んであげてください。



 勇者リュカ・アスタロト。

 12歳

 身長140㎝ 体重45キロ


 Lv1

 HP1

 MP40

 攻撃力1

 防御力1

 素早さ20

 かしこさ255


★経歴

 世界に一人しか存在しない伝説の勇者である。さらにHPが1しかないこともあって、ひたすらだだ甘に育てられてきた。


★悩み

 仲間たちが過保護すぎて困っている。戦闘など1回もさせては貰えず、未だにレベルが1なのが悩み。


★趣味

 少年マンガが好き、特に王道のバトルマンガを見てはすぐに泣いてしまう。


★好きなマンガ

 ワ●ピース ナ●ト ドラゴン●ール ダ●の大冒険 ●の錬金術師


★特技。魔法

 アンチゴッド以外は全く使えない。そのアンチゴッドは一見、先天性的な特技に見えるが、実は幼いころからの努力の結晶であり、魔術の分解&再生においては彼の右に出るものはいない。


★夢

 冒険を始めて一年が経つが、今だに隣のレェーベ村までたどり着いたことがない。勇者が少しでも疲れると引き返してしまう仲間のせいなのだが、絶対にたどり着いてみせると躍起になっている。






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