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なにせHPが1なのだ。





 厚い雲の切れ目から西日が降り注ぎ、アリアファン草原を紅紫色に染めていた。夜の到来を告げる静かな暗がりが忍び寄ってくる中、影をビロードの絨毯のように引き伸ばしながら旅をする四人の男女があった。


 ――女戦士。勇者。女僧侶。女魔法使いの四人組。


 だが、


 その歩みは緩慢そのもの……まるでなめくじが這うような速度で彼らは歩んでいた。


「……あのさぁ、戦士……」


 勇者が唇を尖らせながら言う。


「もうちょっと早く歩いてくれないかなあ?」


 勇者――リュカ・アスタロト12歳。


 勇者らしいとんがった髪型に、シンプルな旅人の服。マントが地面に擦れるほど小柄だが、幼いながらも凛々しい顔立ちをしていた。さしずめその姿は、オモチャの国を守る小さなナイトのようだった。


 だがその勇者の意見は、一言で切り捨てられる。



「却下だ勇者……! もしモンスターがいきなり襲いかかってきたらどうするんだ! もし先制攻撃されたらどうするんだよっ!」



 隆々とした筋肉に球のような汗を浮き上がらせながら、辺りを警戒しているのは戦士――マリーダ・ケントロピー16歳である。


 トレードマークのビキニアーマーに、ふんわりとした金髪。女性離れした大柄だが完成された美しさがあった。形のいい鼻梁に、濃い桜色の唇。夕焼けを浴びて煌めく瞳は、まるで戦女神ワルキューレのようであった。


 だが、


 今はせっかくのその美貌を歪めながら、周りをギロギロと睨みつけている。肩を不安げに震わせながら、はね兜の羽根をヒクヒクと威嚇させていた。


「いいか勇者……! おれから決して離れるんじゃないぞ! 絶対におれがお前を守ってやるからなっ!」


「……えっ、う、うん……?」


 ちなみにこのアリアファン平原には、最弱モンスターと言われているスライムしか生息していない。でもそれでも戦士は警戒を解こうとはしなかった。


 しかしこれは決して、彼女の頭がおかしいというわけではない。


 戦士がここまで石橋を叩いて、勇者を庇っているのは理由がある。


 勇者のHPは余りにも低く、攻撃を受けるとすぐに死んでしまうのだ。


 そう、


 なにせ勇者のHPはわずか……、




『1』




 そうHPが1しかないのだ。


 モンスターの攻撃がかすめるだけでも死んでしまう。それが例えスライムの攻撃だろうとも当たれば死んでしまうのである。


 だから戦士は迷わない。自らの身体を盾として、必死に勇者を敵から守っているのだ。


 むにゅ。むにゅにゅにゅう。


「ちょっ、戦士……そんなに身体を押しつけないでよ……!」


「却下する! ……ああぁ、あそこの茂みとか超あやしいっ!? さあもっとおれの後ろに隠れてるんだ勇者っ!」


 そう言って引き締まった臀部をさらに押しつける戦士。


(……ああああぁ……、当たってる……!? 当たってるんだってばあ……!)


 ちなみに、戦士のビキニアーマーの後ろ半分は全て紐で出来ていた。


 だが、


 これは決して彼女が、変態だからというわけではない。


 なにせHPが1なのだ。


 ビキニアーマーの鋭利な先端が突き刺されば、勇者は死んでしまうのである。さらに鎧に触れることで金属アレルギーを発症し、死に至るという可能性も排除することは出来ない。


「――さあ、そこに居るのは分かっているぞスライムめっ! この戦士マリーダ・ケントロピーが相手になってやるぞ――ッッ!」


 むにゅむにゅむにゅにゅぅ~。


 半裸を押しつけるながら茂みに向かって剣を振り回す戦士。――全ては勇者を守るため。その為ならばたとえお尻を押しつけようが、存在しない敵を幻視しようが、彼女にとっては些細な問題なのである。


 そして、


 ――ぽよん♪ ぽよよんっ♪


(……ううぅ……当たってるのって……前だけじゃないんだよなあ……)


 その献身さは戦士だけでは留まらない。



「――そうですわ勇者様。神のご加護があるとはいえ、警戒するに越したことはありません」



 そういって勇者にふくよかなその胸を押しつけているのは――女僧侶アリア・フランチェスコ18歳である。


 一枚の布から作られたシンプルな法衣を纏い、足元まで銀髪を靡かせる少女。柔らかな天使のような輪郭に、少し目尻の下がったグリーンの瞳。常に頬笑みを絶やさないその唇からは、もはや聖母マリアを連想せずにはいられない。


 だが、


 そんな美貌よりも視線を釘付けにしてしまうのは、108cmというその規格外のおっぱいだ。


 極大スイカを二つ実らせたようなその胸は、法衣の十字模様が卑猥に歪むほどのボリュームであった。着込んでいるボディスーツをぱつんぱつんに引っ張り、今にもはち切れそうなほどである。


 そのような爆乳を彼女は、一心不乱に勇者の背中へと押しこんでいたのだ。


「……あ、あのう僧侶さん? ……さっきからなにかぼくにあたってるんですけどぉ……?」


「ええ、おっぱいで勇者様が歩くお手伝いをしているのです」


「ええっ!? な、なんでそんなことを……!?」


 ――おっぱいで歩くお手伝いをする。


 これは決して、彼女の頭がおかしくなったというわけではない。


 なにせHPが1なのだ。


 歩くという行為はとうぜん体力を消耗する。たった15分歩くだけでなんと100キロカロリーを消耗すると言われているのだ。勇者のHPはわずか1である。『100』対『1』。比べるまでもない。勇者にとって歩行とは、まさに死の行進以外の何ものでもないのだ。


 そこで僧侶は胸を押しつけることで、勇者の歩くお手伝いをしているのであった。


「いやっ、せめて手でやってよ恥ずかしいからっ!」


「……まあ、そんなのは危険ですわ勇者様……」


 僧侶は十字を切りながら言う。


「手などを使ってもし、爪がめりこんでしまったらどうするのですか? もし背中の痛いツボを押してしまい、1のダメージを与えてしまってはどうするのですか?」


「え? え? 痛いツボ? ……う、うん?」


 慈愛の表情でせつせつと諭す僧侶。これでは勇者も異論を挟めない。


「それにこれは神様から啓示なのです。『僧侶よ、その淫らに育ったその胸は勇者のクッションに使うがよい』――そう神の啓示がありました」


「そんなエッチな啓示があったのっ!?」


「ええ、ですから勇者様は何もお気になさらずに、私のおっぱいに歩くお手伝いをさせてくださいませ」


 もにゅっ♪ もにゅもにゅんっ♪


「ああああぁぁ……!?」


 そう全ては僧侶の信仰心ゆえの行動なのであった。――全ては勇者を守るため。その為ならばたとえ彼女が、おっぱいを押しつけるたびに神を幻視していようが、そんなことは些細な問題なのである。


 そして、



「……そう、ゆーしゃ……まもるの使命……」



 その犠牲的精神は幼い少女にも宿っていた。


 勇者の前方上空に漂うのは、魔法使いレニャ・ドラグーン8歳である。


 濃い群青色をしたマントを羽織り、とんがり帽子を目深にかぶる少女。開かれない薄い唇に、ガラス玉のような瞳。――無感情、無表情、無慈悲。もはや取り憑いた家に居座り、繁栄をもたらす類の妖精にしか見えない。


 だが、


 そんな彼女も勇者の守るために尽力を尽くしていた。頭部と顔面。人体の急所であるこれらの保護である。少女はそれらを外敵から守るために、勇者の上空を浮遊魔法で漂っているのだ。


「……魔法使いも、その……降りて来てもいいんじゃないかなあ……?」


「だめ……常にけーかいおこたれないの……」


「……う、うん、まあそうだね……」


(……えっと、それはいいんだけど……その、見えちゃうんだよなあ……)


 当然、勇者の上空に位置するために魔道士のローブの中は丸見えになっていた。――だが、そんなことを彼女は気にはしない。勇者を守るためならパンツぐらいどうってことないのだ。むしろ勇者を楽しませるために2と5のつく日はノーパンにしているぐらいなのだ。


「……む……風がふいてきたの……」


 そういって、魔法使いはフワリと勇者の元へと降りていき、ローブの中に勇者の顔面を覆ってしまう。


「……ちょ、あばば、あばばばっ!?」


「……ゆーしゃ……うごいちゃ、めなの……」


 無表情でとんでもない部分を勇者へ見せつける魔法使い。


 だがこれは決して魔法使いが、ロリビッチというわけではない。


 なにせHPが1なのだ。


 もし風に吹かれて、小石などが顔面にヒットすれば勇者は死んでしまうのである。さらに鳥のフンなどが勇者に降り注ぎ、皮膚炎等を発症する可能性も無いとは言い切れない。――勇者を守る。その為ならばたとえ今日が25日だったとしても、そんなことは瑣末な問題なのである。


 くぱぱあああ~~~っ♪


(ああああ、見えてる――!? なんかもう全部見えちゃってるんですけどぉ……!?)


 そう、


 ――全ては勇者を守るために……!


 その目的のためならば、彼女たちはどんな卑猥な事でも躊躇いはしないのだ。むしろエッチな方が喜ばれると盲信し、競い合うように卑猥な行動をしているのであった。


 だが――、


「…………むっ!」


 そんな彼女たちに最大の試練が訪れる。


「……前方に何かいる……ぞ!」


「な……敵がいますの……!」


「え? ……何なに?」


 戦士が木陰の向こうに、幻覚ではない本物の敵を目視する。


「……あ、あれはまさか……!」


 戦士が驚愕に美貌を歪めながら言い放つ。






「――か、『カナブン』……!?」






「……な、『カナブン』ですって……!?」


「……『カナブン』……なの……!」


 パーティに戦慄が走る……!







 ――カナブン。コウチュウ目コガネムシ科の昆虫。





 大型のハナムグリの一種。高速で飛行し、よく顔面にぶつかる。すごく痛い。








『――臨戦体勢(バトルフォーメイション)!』


「ちょっ……!? みんな~~ッ!?」


 勇者に訪れた絶対絶命の危機。


 だが、


 そんな状況にもかかわらず一人平静を保つ少女が居た。――僧侶アリア。彼女はこんな事態にもかかわらず、冷静に仲間たちに指示を出していく。


「……戦士さんは、目標の撃退を最優先にお願いします……!」


「~~~ッ! 了解した! 新しく覚えた必殺技を見せてやるぜっ!」


「……魔法使いさんはカナブンに斬撃耐性がある可能性を考慮して、極大呪文で追撃を……!」


「……きんじゅ、かいほうするの……」


「さあ勇者様は、私が張ったこの大天使の結界(エンジェルウォール)の中へ……!」


 勇者を光の魔法陣が描かれた結界へと招き入れる僧侶。


「いやいやいや!? ぼく虫ぐらいどうってことないから……! 絶対大丈夫だからっ!」


「「「散開――ッッ!」」」


 勇者の言葉は無視され、戦士が剣を構え、僧侶が防御結界を張り巡らす。魔法使いは上空へと飛翔し極大魔法の詠唱を始めた。


 ブブブブブブブブブゥ――ッ!


 外骨格を煌めかせながら、勇者へ向かって高速飛行をするカナブン。


「させるかあああああああああああああああああっ!」


 咆哮と共に戦士も跳ぶ。鉄靴で削り取った土が後方へと飛び散り、引き締まった臀部が夕日に照らされながら躍動する。


 こうして、




 カナブンVS伝説の勇者達……後にアリアファンの奇跡と語り継がれる聖戦が、今その火蓋を切ったのであった……!





              (つづく)




 




 えっと、下らない話でごめんなさい(笑)


 第二話の方はギャグとかは一切無くて、バトルシーンのみとなっております。どうかそこまでお付きあい下されば幸いです。


 どうかよろしくお願いしますm(__)m





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