命のロウソク。
「出てこい!」
「天才外科医!」
「あんた絵里を交渉相手に選んだだろう」
「黙っていても無駄だ」
「俺は気配でわかる」
「死んだ親父もしばらく家にいたからな」
「君は、厄介な人だねえ」
「返せ」
「絵里に寿命を」
「落ち着きなさい」
「あの娘から買い取ったのは七日分だけだよ」
「あの娘が一年ではいやだ、一週間ならいいと言うから」
「7日でも寿命は寿命だ」
「いくらで買った、金は俺が返す」
「どうやって返せばいい」
「…せっかく…手に入れた寿命なのに」
「…」
「君は、怖いねえ」
「目が」
「君が感じているこの世への恐怖が君の目を見た人に移り、君が怖い人だと誤解される」
「その目に映る心の穴に私も吸い込まれてしまいそうだ」
「ふう…」
「それでは五十万ほどどこかのボランティア団体に寄付しなさい」
「それであの娘の寿命は戻る」
「わかった」
「これで俺もあんたの孫に危害を加えなくてすむ」
「桑原医師」
「!」
「通信会社の社長の自伝にあんたの名前があった」
「用は済んだ、去れ」
私は三上さんとスーパーに通ったこの道を一人で歩いてアパートに向かっている
合鍵を返しに
ほんの数時間前あんな楽しい気分でこの鈴を買ったのに
「三上さん」
ドアをノックしたら顔色の悪い三上さんが出てきた
玄関先で渡しても良かったんだけど、言いたいこともあったので部屋に上げてもらった
「三上さん、合鍵返しに来た」
「私もう三上さんとは会わない」
「三上さん、絵里さんのこと誤解してるよ」
「絵里さんが男の人にお金もらってると思ったんでしょ?」
「それで怒ったんでしょ」
「安心して、宝くじに当たっただけなんだって」
「三上さん絵里さんが大事なんだねえ」
「三上さん、私のこと利用したでしょ」
「絵里さん人のものを欲しがる人だって言ってたよね」
「私と付き合ってるところを見せてヤキモチ焼かせたかったんじゃないの?」
「気を引きたかった?」
「そんなことしなくても絵里さんは三上さんが好きだよ」
「私、子豚でもないし生まれたてでもないんだよ」
「バカにしないで!」
「絵里さんの気を引くために私を利用しないで」
「でもいい」
「私も三上さんのこと好きじゃなかったから」
「三上さん、子会社の人だし」
「私、三上さんの作ってくれたご飯じゃなくても」
「コンビニのおにぎりでも充分おいしいし」
「もお人を巻き込まず素直になって絵里さんと付き合いなよ」
「二人同じ風の音がする」
「ねえ、謝って」
「謝ったら許してあげる」
「私を利用したことを謝ってよっ!」
ベットに座ってうつむいて話を聞いていた三上さんがぱっと立ち上がった
殴られる
と、一瞬思ったけど
三上さんは目の前を通り過ぎて玄関に向かいドアを開けた
そしてあごをクイッと動かし出ていけと無言で指図した
部屋を出た私の後ろで静かにドアの閉まる音がした