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蝋燭  作者: 川本千根
2/21

買い取り

「なんでお前が俺の部屋にいる」

「来るなと言ってあったはずだ」



「いいじゃん、元カノの訪問を歓迎してよ」



「何年前の話をしている」

「お前のやっていることは不法侵入だ」

「犯罪だ、絵里」



「ママがまた男新しくして、今ラブラブ期間で家に居にくいんだよね」

「どうせすぐまたケンカし始めて別れると思うけど」



「それが嫌なら部屋を借りて家を出ればいい」



「そんなお金ないもん」



「…なんで勝手にお湯を沸かしている」



「鈴が冷たいからカップラーメン食べたら帰る」



「ここにそんなもんはない」



「買ってきたよ」

「はい、ガス代代わりにビール」

「冷蔵庫に入れておく」



「いらない、持って帰れ」



「うん、なつかしいな、その冷たさ」

「いいね」


絵里はそう言ってアハハと笑った


そして本当にカップラーメン一つ食べて帰って行った





それにしても、いつもどうやってこの部屋に入るんだ…

念のため玄関の鍵は替えたのに…



「掃き出しのサッシから入っていましたよ」


「小刻みに扉を揺らして器用に鍵を緩めてました」


「そして中に入ってから鍵をかけ直し、靴を玄関に持っていって、玄関の鍵を中から開けていました」


「玄関から入っていると思わせたかったんでしょうね」


「この古いアパートと君とは不似合いだね」


「あの娘に来てほしくないんだったら引っ越せばいいのに」


「あの娘も君には不似合いな感じだねぇ」


!!


「あんたもまだいたのか、天才外科医」

「消えろと言ったはずだ」



「君は…珍しい人だね」


「ほとんどの人は私の声は聞こえないし、姿も見えない」

「見える人は大騒ぎして怖がる」


「こうやって落ち着いて話を聞いてもらえることはめったにない」



「帰れ」



「話を聞いてもらえれば帰ります」



「死神の話なんか聞きたくない」

「今日は疲れている」

「シャワーを浴びて寝たい」

 


「お金は払います」



「は?」

「命を取られて金をもらって何になる」



「命を取るなんて人聞きの悪い」


「私はほんの一年分の寿命を…ロウソクを買い取らせていただくんです」


「私は大手通信会社の社長の寿命も伸ばしたのです」


「彼は社会に多大な貢献をしました」


「本来なら倒れたあの時、死んでいたのです」


「やはり私の神の手で寿命を変えてしまった一人なのです」


「彼は二百億ほとの遺産を私に自由にしていいと託してくれたのです」


「それはお互いこの世のものでなくなって再会したときの話しですが」


「彼には家族がいませんでした」


「彼は私が伸ばした寿命で初恋の人に再会することができたのです」


「その相手とはどうこうなることはありませんでしたが、長い間の自分の想いを伝えられたことを本当に喜んでいました」


「それで私の孫のために二百億を使っていいと言ってくれたのです」


「一年の寿命を譲ってくれた方にはナンバーを当てるタイプの宝くじを買ってもらいます」


「代金はその当選金で支払います」


「金額は一定ではありませんが、だいたい二千万円くらいお渡しすることができます」


「それと同じ金額の損失を生む事態が彼の会社で起きます」



「…」


「天才外科医、話は聞いた」


「帰れ」


「俺は命を粗末にする奴が大嫌いだ」


「金でやり取りするなんてとんでもない」


「俺はあんたがみえるが、成仏させてやる力も、退治する力もない」


「だから命令する」


「帰れ」

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