駐車場。
帰りの車内で絵里さんは唐突に若い頃もっと勉強しておけばよかったなーと言った
ほんとほんと、と私と江尻さんは相槌をうった
「桜ちゃんは後悔ないでしょう」
「ちゃんといい会社に就職したんだから」
「よく本社に入れたね」
って江尻さんが言った
この人ちょいちょい失礼
「就活がんばった」
「エントリーシート100社書いた」
「?!」
「お兄ちゃんの同期にここ受かったけど蹴って日○郵船に入ったひとがいた」
「お兄ちゃんと一緒にその人にあって、面接の質問、グループディスカッションでどういう役目をしたかなんてことを聞いたの」
「私は一流企業なんて勤めたくなかったんだけど」
「入ってから苦労すると思って」
「お母さんが、私の部屋に半月泊まり込んで航空会社や証券会社なんか、いろんな企業の朝の通勤風景チェックして、その中でここなら出入りしている人たちの雰囲気いいし、桜ちゃんでもやっていけそうって判断した」
「もちろん就活塾とかも行かされたよ」
「3つ行った」
「私、三十分だけなら別人になれる」
「三上さん…早川家すごいっすね」
「大丈夫ですか」
って江尻さんが言った
今どき家族総出で就活なんて当たり前だよ
お母さんも保護者向けの就活塾行ってたしー
「桜ちゃん…実力者だね」
絵里さんが三上さんに向かって言った
はあ?なにが?
ずっと黙って話を聞いていた三上さんが一言だけ
「そうだな」
と言った
途中、江尻さんをお家の近くで降ろして、絵里さんの家に向かっているとき
「買い物して帰るから、○○堂で降ろして」
と絵里さんは私達もよく行くスーパーの名前を口にした
スーパーの駐車場で車を降りた絵里さんは運転席の窓をたたき、三上さんは窓を下げた
「私、来月から部屋を借りるんで、荷物運ぶの江尻くんと手伝ってくれない?」
って絵里さんは言った
「部屋を借りる…」
三上さんは運転席で怪訝そうにしばらく考えていたんだけど、はっと顔を上げて
「お前まさか…」
と言って車を降り、いきなり絵里さんの胸ぐらを掴んだ
きゃあ!何してるの!
私もあわてて車を降りた
止めて!
絵里さんは釣り上げられながら三上さんとにらみ合っていたけど、フィッと目をそらした
その途端、三上さんが手を放した
バランスを崩して転んだ絵里さんに
「二度と俺の前に現れるな」
「…を粗末にするやつは大嫌いだ」
そう言い捨てて三上さんは車に乗り込み、私と絵里さんをスーパーの駐車場に残して走り去って行った
何が…起きたの…
「絵里さん、いったいなにがあったんですか」
「三上さんどうしちゃったの」
「さあね」
「最近私の金回りがいいもんだから、援交でもしてるんじゃないかって疑ったんじゃないの」
「宝くじに当たっただけなのに」
血の気が引いた
それであんなに逆上したんだとすれば、やっぱり三上さんは絵里さんのことが…
何かがストンと腑に落ちた
…そうだとしたら
私も
私もけじめをつけなければならない