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第八話 ねんがんの 最上超業物・大円鏡智【極識】をてにいれたぞ!

 死亡による強制ログアウトから復帰した直後。

 俺のもとに、ある人物からメッセージが届いた。


『勇君っ! 今時間大丈夫!?』

「どうした昇、何かあったのか?」


 声の調子から、非常に切迫した様子が伝わってくる。いつも穏やかな昇がこんな風になるとは、穏やかじゃない。


『君に見せたいものがあるんだ。今すぐ会いたいんだけど、ダメかな?』

「いや、ダメじゃないぞ。俺は今ローズウッドの影見の氷輪にいるんだけど、そっちは?」

『僕はアッシュから北西に行った平原だよ。できれば人気のないところで会いたいんだけど』


 人気のないところで? もうすぐ日も暮れようかというこの時間に?


「わ、分かった、それじゃあ拠点に移動しよう。あそこはギルメン以外入れないMO空間だから、安心して二人きりになれる」


 メッセージを終了すると俺はすぐにメニューを開き、「拠点へ移動」を選択する。

 俺が到着して数秒後、興奮気味に頬を赤らめた昇が姿を現した。


「よ、よう昇。一体何を見せたいんだ? ストリップか?」

「うん、って違うよ! ……でも、勇君が見たいっていうなら」

「それは禁則事項ですぜダンナ」


 ノリツッコミからのボケとは、腕を上げたな昇よ。


「じゃあログアウトしてから勇君の部屋に行って」

「ボケじゃないんかーい! いいから早く見せたいモノを見せちゃいなさいよ」

「あ、うん。これなんだけど」


 そう言ってアイテムバッグから取り出したるは、一振りの日本刀。

 黒鮫白糸の柄に白銀の鍔、黒石目の鞘という拵えは美麗の一言に尽きる。で、なぜこんなお宝を昇が持っているのか。


「すごいでしょ? 実はこれ、スライムがドロップしたんだ」

「はぁっ!? スライムって、あの最弱の!? つ、つつ、強さは? ど、どんな性能なの?」


 あまりの驚きに思わず声が上擦る俺に、昇は笑いながら刀を預ける。

 よ、よっしゃ、落ち着け俺。まずは冷静に状況を受け止め、この刀の性能を見極めるんだ。


「名前は……ん、難しいな。最上超業物さいじょうちょうわざもの大円鏡智だいえんきょうち極識きょくしき】? こ、この攻撃力……半端じゃねーぞ。今俺が使ってる剣より数段上だ。それだけでもスゲーけど、一番ヤバイのは属性強化スロットが三つもある事だ」

「属性強化スロットって?」

「武器に属性を追加付与できる穴の事だ」

「穴なんて開いてないように見えるけど」

「見た目じゃなくてシステム上のものだよ。現段階では一つでもスロットがついていれば超高級品だぞ」

「そうなんだ。勇君は何属性を付けるの?」

「ん~俺なら……って、せっかく良い物を手に入れたんだからそこは自分で考えてだな」


 俺がそう言うと、昇は首を横に振って答える。


「それ、勇君にあげるよ。僕には必要ないものだから」

「くれんの!? あー……いや、こんな貴重なもの、やっぱ受け取れないよ」


 俺のその台詞を受けて、昇は酷く落胆した様子で下を向く。


「そっか……あのね勇君。僕はその刀を手に入れた時、すごく嬉しかったんだ」

「そりゃそうだろうさ。こんな強い武器をゲットしたら誰だって嬉しいに決まってる」

「違うよ。この刀を勇君にあげたらきっと喜ぶだろうなって……それを想像して嬉しくなったんだ」


 えっ……?


「リアルでもゲーム内でも、勇君にはずっとお世話になりっぱなしだった。これでやっと恩返しができる、勇君の役に立てるって思ったんだけど……あはは、そんな簡単に感謝される訳ないよね」


 ……馬鹿だな、俺は。昇の気持ちも考えずに、なに大人ぶって遠慮なんかしてんだよ。


「ありがとう、昇」

「勇君……?」

「この刀を譲ってくれて、サンキュな」

「……うんっ! どういたしまして!」


 はは、本当に嬉しそうな顔しやがるぜ。でも、どうしても気になってる事がある。


「なぁ昇。この【極識】をスライムが落としたっていうのは確かなのか?」

「うん。きっと運が良かったんだと思う」


 運が良いだけなら他のプレイヤーだって手に入れてるはずだ。情報サイトでもこんな武器は扱われていない。きっと誰も知らない情報なのだろう。


「僕は半年間、ずーっとスライムだけを倒してたから。キャタピラーは見た目が苦手だし、プチラビットは殴ると可哀相だし」

「それだっ!」


 思わず大声を出してしまったが、今の昇の発言が答えだ。

 宝くじは買わなきゃ当たらない。それと同じように、【極識】もスライムを倒さなければ絶対に入手できないのだ。

 俺自身、スライムはゲーム開始五十分で卒業した。数もそんなに倒していない。

 他のプレイヤーだって……いや、他のプレイヤーならもっと少ない。低レベル帯の練習相手はキャタピラーやプチラビットもいるんだ、スライムなんて一匹も倒さないっていうケースさえあり得る。


 それに引き換え昇はどうだ? クライミングのデスペナで下がったレベルをスライムのみで上げ直す……そんな行動を半年も続けてる。

 実際、それは異常行動だ。このゲームの楽しみ方は人それぞれだが、“スライムのみを乱獲する”なんて普通はしない。


 運営的には「スライムがこんな強い武器を落とすなんて誰も気づかないだろうなぁ」程度の遊び心で設定したレア武器なんだろうけど、まさかスライム狩りをルーチンワークにする変人が現れるとは思ってもみなかったんだろう。


「よくやった昇。お前の趣味が俺を救ってくれたんだ。俺はこの【極識】で先頭集団に追い付く……いや、追い抜いて見せる!」


 そう言って奮い立つ俺を、なぜか昇が引き止めてきた。


「あ、待って勇君。実はもう一個プレゼントがあるんだ……はいコレ」

「おおサンキュ……『命知らずの証』? これは首飾りか。また知らないアイテムが出てきたな」

「うん。ちょっと前の事なんだけど、すごく面白い課題を見つけてね。僕は何とかその壁を登り切ったんだけど、その時にシステムからこのアイテムが届いたんだ」

「へぇ、俺が持ってる強欲なる者の指輪に似てるな。え~と……命綱無しで高難度の壁を制覇した者の証。このアイテムを装備していれば……なっ!?」


 俺はアイテムの説明文を読んで目を疑った。はっきり言って、チート級のアイテムだ。


「おい昇、これは相当な代物だぞ。お前にとって必要なものなんじゃないのか?」

「そうだけど……でも勇君にあげるよ」

「そうはいかねーよ。【極識】はお前にとって有用性が低いと判断したからもらったけど、これはお前にとって必要なものだ。悪いけど受け取れない」


 俺が強い口調でたしなめると、昇は「勇君がそう言うなら」といつものように従ってくれた。


「でもこの説明文から察するに、また別の壁を乗り越えれば複数入手できそうじゃないか?」

「あ、そうかも。じゃあ僕が頑張って壁登って、もし余った時はもらってくれる?」

「その時はありがたく。でも無理だけはしないでくれよな」


 約束だぞ、と突き出した俺の拳に、昇は微苦笑を浮かべながら拳をくっつけた。

 あぁ……こいつ絶対無理するわ。今の顔はそんな顔だ。全く、いい仲間を持って俺は幸せだぜコンチクショウ。

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