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第七話 ぼっちじゃないソロプレイヤーの俺はゲーム内で魚を焼いて瞬殺された

 翌日、俺は千里が営む注文の少ない料理店に足を運んだ。

 アイテムバッグには、強欲なる者となって集めた大量の食材。ふっふっふ……あいつの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。


「……ん?」


 店の前に到着した俺は、いつものようにドアを開ける……はずだった。

 しかしその日。何の気なしに見上げた店から、俺は得体の知れない違和感を覚える。


「あれ、これって……前からこうだっけ?」


 そう、そこにはアレが無かった。

 お店として、最も大切な“顔”とも呼ぶべきものが。

 今日になって忽然と姿を消した訳じゃない。この店には、大切なその顔が、開店初日から今日に至るまで、ずっと存在していなかったのだ。


「おい千里! ヤバイ事に気付いたぞ!」


 バン! とドアを開け放ち、すぐさま厨房に駆け込んで叫ぶ。


「そんなに慌ててどうしたのよ五味渕君」

「すまん、ちょっと動転しちまって……聞いてくれ千里、大変な事実に気付いたんだ」

「どうぞ続けて」

「あぁ言うぞ。この店には……看板が無い!」

「な、なんですってぇぇぇーーーっ!?」


 看板が無いという事は、この店が何の店なのか外から見ただけじゃ分からないって事だ。

 集客力に直接響く部分だけに、一刻も早く改善しなくては。


「でも……お客さんいっぱい入ってるな」


 店内を見回すと、ほぼ満席。小さい店だから席は少ないが、それでも立派だと思う。


「看板が無いのに、何でみんな来店してくれるんだ?」

「それは看板娘がいるからじゃない? うっふん」

「えーどこどこー?」

「さて、五味渕君を回りくどい方法で殺す装置を起動しようかしら」

「あなたが看板娘ですね。一目見てそうだと分かりました」


 おぉ怖い。俺を殺す装置、まさか本当に作ってないよな?


「冗談は置いといて。ホント何でみんな迷いなく入ってくるんだろう」

「普通に匂いじゃない? おいしそうな匂いがすれば外からでも分かるでしょ?」


 匂い……匂いか。そうだよな、このゲームはVRゲームだ。通常のゲームと違って匂いという概念がある。そんな簡単な事にも気付かないとは、俺も焼きが回ったか。

 いや、普通のゲームに慣れてる奴ほど、VRゲームが持つ特異な性質に気付き難いのかもな。


「ん、待てよ?」


 プレイヤー達は匂いにつられてこの店に入って来ている……だとすると……だと、すると……。


「思い……ついた!」


 言うが早いか、俺は店を飛び出した。今すぐに試したい事があるからだ。

 準備するもの──それはおいしい匂いを発生させる装置。あとはおいしい匂いが発生する食材。そしてヤツらが好きそうなものといえば……。


「魚! ちょうど持ってるな」


 俺はNPCからアイテム『七輪』を購入し、最寄りの『影見の氷輪』へと走る。影見の氷輪はただの遺跡ではなく、遺跡同士を繋ぐ転移装置になっているからだ。

 影見の氷輪、起動。目的地は昨日の狩り場、レムレースの森。今に見てろよ、リンクスども!





 影見の氷輪の瞬間転移を使い、レムレース王国の首都・ローズウッドへ。

 街道を逸れ目的の森へと辿り着いた俺は、さっそく七輪に火をつける。


「俺の予想通りなら、ヤツらは確実に現れる。さぁ、どうだ?」


 待つ事数分……魚のおいしそうな匂いが漂ってくる。そしてそこに──、


「……来た!」


 このゲームには匂いという概念がある。だが、それはプレイヤーだけが持つ感覚なのだろうか? と、俺はそう疑った。

 バーチャルでありながらリアルを謳うこの『UEO』では、モンスターにも高度な動作が設定されている。腹が減れば獲物を狩り、喉が渇けば水を飲む、そういう動作だ。

 ゆえに俺は考えた。モンスターにも嗅覚があり、好物があるのではないかと。


 結果はこの通り。俺の周囲には、六頭のリンクスがいる。

 これはすごい事だ! 普通に歩いて探し回るより遥かに効率がいい。

 他のプレイヤー達はまだこの方法に気付いてないのか? もしそうなら、これで先頭集団に追いつける……いや、追い抜く事も可能!


「いっくぜぇッ!」


 俺は素早く剣を抜き、戦闘態勢へ移行する。スキル《オーラブレード》を発動、剣に炎を纏わせながら最初のリンクスに斬りかかり──。


 俺はなぶり殺しにされた。



 †   †   †



「あー……そりゃそうだよな。リンクスはリンク性のモンスターだ。一頭を攻撃すれば、他の五頭にリンチされるのは当然だ」


 これで三時間ロスト。経験値も大量没収。二日連続デスペナ……とほほ~。

 俺はベッドから起き上がり、VRダイビングギアを頭から外す。


「ちょうどいいや。他のプレイヤーが匂いで敵を誘引する方法に気付いてないか、情報サイトで確認しとこう」


 俺はPCの電源を入れ、情報サイトへアクセス。

 ざっと目を通してみたところ、それっぽい書き込みは見つけられなかった。


「トップ連中のレベルは35、それは確かな情報だ。で、俺が25。この差はソロプレイとパーティープレイの差であって、それ以上の要因はなさそうだな」


 って事は、やはり俺以外にあの方法を思いついた奴はいないという事か。

 そうは言っても今のままじゃ、お手軽な自殺方法を編み出したに過ぎない。何とか工夫して活用できないかなぁ。

 ……ま、それはあとで考えるとして、最後に公式サイトも一応覗いてみるか。


「ん? 新着の告知だ。えっと……現在のレベルキャップに最も速く到達したプレイヤーを擁するギルドに、ギルドポイント……いちじゅうひゃくせん……ひゃっ、1000000ptを進呈!? そりゃまたぶっ飛んだイベントですこと」


 現在のレベルキャップは、確か99だったはず。うへぇ、一年プレイしても無理だっての。

 でも百万ポイントは欲しいな。そんだけあれば千里の店を最大までパワーアップできる。


「まぁ、どっちにしても最速で到達するのは俺じゃねーし、関係ないか」


 ちなみに誰が最速でレベル99になるかは分からない。

 普通のネトゲなら時間が有り余ってるニートで決まりだろうけど、この『UEO』にはそれが当てはまらないからだ。


 プレイヤーの持ち時間は最大六時間、それが尽きれば強制ログアウト。

 持ち時間はログアウト中に回復し、回復速度は一時間で三十分、つまり十二時間で再び最大の六時間まで回復する仕組みになっている。

 学校や会社などにいる間に最大の六時間まで回復してしまっても、その人はログインできない。いつでもログインできるニートに有利ではないか、と思う人もいるだろう。


 だが、そうじゃない。

 六時間まで回復してもログインしなかった(できなかった)場合、その時間に応じて次回のログイン時に経験値倍率に補正が掛かるようになっているのだ。

 要するに、プレイ時間が多ければ多いほど強い、という図式は成り立たないって事。大事なのは効率なのだよ。


「まだ時間も残ってるし、もう一度ログインするか」


 俺は再びダイビングギアを装着し、仮想の世界へと旅立つのであった。

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