第五話 王都の森の採取ツアー
──でもって次の日。
『UEO』内で料理道を極めたいという千里に全面協力する事を条件に、俺は生きる事を許された。
俺達三人が再び拠点に集まったのは他でもない。昇から重大発表があるという告知を受けていたからだ。
「二人とも集まってくれてありがとう。時間が勿体ないから、早速本題に入るね」
俺と千里は無言で頷き、先を促す。
「僕……壁を登りたいんだ」
強い決意と共に紡ぎ出された言葉。だが、俺は首を横に振って答える。
「それは無理だよ昇。昨日も試しただろ? 痴漢行為は厳禁だ」
「えっ!? し、しないよ痴漢なんて」
「今壁を登りたいって言ったじゃないか。それは千里の胸を触りたいって意味だよな?」
「誰の胸が壁なのよ! システムに守られてると思って舐めてると、五味渕君を回りくどい方法で殺す装置を作っちゃうんだからね!」
何ですと? そういえばこのゲーム、間接的にならPK可能なのか?
さすがに検証する気もさせる気もないから分からんけど、これ以上からかうのはやめておこう。
「冗談はさておき、壁のぼりって? ロッククライミングでもするのか?」
「うん! あのね、昨日二人がログアウトした後、一人でスキルを眺めてたんだ」
「ふむふむ」
「で、共通スキルの中に……えーと……ほら、これ」
昇はメニューを開いて、俺達に話題のスキルを見せてきた。
スキル名は『クライミング』。特定の樹木や壁を登れるようになるスキルらしい。
「なるほど……こりゃ面白そうだな」
こんなスキルが存在するって事は、裏を返せばコイツを取得しないと登れない場所があるって事か。
「あ、危なくないの? 春日部君、足不自由なのに……」
「千里が心配する気持ちは分かる。だがここは『UEO』だぜ? ここでなら昇は何のハンデも負っていない」
「勇君の言う通りだよ。それにもし落っこちても現実の僕が死ぬわけじゃないし」
それはそうだけど……という台詞と共に、千里のネコ耳が垂れる。
「千里ちゃん、心配してくれてありがとう。だけど僕はどうしても壁を登りたい。現実の僕には、絶対にできない事だから」
そんな昇の訴えを、千里はしぶしぶ聞き入れるのであった。
「めでたしめでたし! これでみんなやりたい事が決まったな!」
「何言ってるの、あなたのやりたい事がまだじゃない」
「俺のやりたい事は一つじゃねーんだよ。アレもコレもやりたいし、やりたい事を探すのもやりたい事の一つだ」
「……ふぅん。じゃあ当面は暇って事なのよね?」
「まぁ、そうとも言う」
俺がそう答えると、ニヤリと笑って千里が言う。
「それじゃあちょっとアレを頼まれてくれる? 包丁の練習をしたいから魚とか果物を調達してきて」
「了解。ちょっと時間がかかるかもだけど」
「何で? その辺で買ってくれば一瞬でしょ?」
「その金がない事に今気が付いたんだよ。俺らはまだゲームを始めたばっかだからな。もうちょいモンスターを倒して稼ぐのもいいんだが……俺としては採取スキルを試してみたいんだよね」
採取スキルとは、フィールド上にある木の実や薬草、水中の魚などをアイテムとして取得するためのスキルだ。
「お金がないとは盲点だったわ。それじゃあ私も一緒に採取しようかしら」
「あ、なら僕も」
そんなこんなで、結局俺らは三人で採取ツアーに出掛けるのであった。
場所は王都のすぐ近くにある森。果物やキノコはもちろんの事、流れる川では魚も釣れる。
覚えたての採取スキルを試すには絶好のポイントと言えるだろう。
果物の採取は昇が、キノコの採取は千里がそれぞれ受け持ち、俺は魚釣りに勤しむ。
川の前に立って採取スキルを発動すると、買った覚えのない釣り竿が手元に出現したのにはちょっと驚いたが、まぁこれもゲームだと思えば納得だ。
「……あーくそ、釣れねーなぁ」
お手軽な釣りシステムかと思ったが、中々リアルじゃないか。いくら待っても一向に魚がかかる気配はない。
あまりにも暇なので、俺はギルドの追加機能についてもう一度詳しく見てみる事にした。
「おっ、『店舗作成』か。これいいな。おーい! 千里ーっ!」
「はいはいはーい、どうかした?」
「今ギルドの追加機能を確認してたら面白いの見つけた。店舗作成だってさ。お前の料理の腕が上がったら店出してみない?」
すると千里は目を輝かせて食いついた。
「お店!? お店出せるの!? わぁー、出す出す!」
「お前ならそう言うと思ったぜ。店舗作成にはギルドポイントが結構必要みたいだけど……まぁそこは俺に任せとけ」
「うん! よろしくね、五味渕君!」
さーてと、これで俺もやりたい事が一つ決まった。
まずは店舗作成。そのためにはギルドポイントが必要だ。という事は──。
やっぱ戦闘するしかないって事、だな。