表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第四話 バーチャルリアル脱出ゲーム

 拠点作成を実行した瞬間、俺の視界は真っ暗闇に支配された。

 これは多分、システム上のちょっとした待機時間だろう。慌てる必要はない。

 こういう入り方をするって事は、拠点はMMOではなくMO──つまりインスタンスエリアに生成されるみたいだな。


「おお……これが拠点か」


 ログイン待機中と同じ真っ黒な静寂がしばらく続き、次に目にしたものは……、


「ガランとしてるね」


 テーブルもイスも何もない、石の壁に囲まれただけの簡素な空間だった。もちろん窓はあるけど。


「あぁー! でもでも、アレがあるじゃない!」


 部屋の隅っこには石の炉が組まれ、その上は煙突になっている。炉の横には作業台のようなものと、洗い場のようなものが。

 これはもしかして、キッチンか? ふむ……ずいぶん原始的な造りだな。

 しかし当の千里は非常に上機嫌だ。何せ料理ができるのだから。


「包丁もあるぅー、まな板もあるぅー、お鍋もあるぅー」


 包丁片手に舞い踊る千里。こいつ料理下手なくせに、料理好きだよなぁ。これが下手の横好きってヤツなのか。


「どうする? せっかくだから何か作るか? 必要なら何か食材買ってくるけど」


 俺の提案に目を輝かせ、千里は包丁を持つ手を振り上げて叫ぶ。


「じゃあアレ! 目玉焼き作る! 私の包丁捌きを見せてあげるわ!」

「目玉焼きだと包丁の出番はないんじゃないかな」

「えっそうなの? じゃあ仕舞っちゃおうか」


 ──ツルッ。


「あっ、おっととと!」


 キッチンに戻そうとした包丁が、それを拒むかのように千里の手からぴょんと逃げ出す。

 何とかそれを捕まえようと手を伸ばすが、二度三度と手の上を跳ねてお手玉状態だ。


 ──トン。


 落ちた包丁は奇跡的にも刃を上にして床に立ち、


 ──グサッ!


 その上に、バランスを崩した千里が倒れかかった。


「ええええぇぇぇーーーっ!?」


 俺と昇が驚きのデュエットを奏でている間に、千里はしめやかにログアウトしていった。

 ゲームだからいいものの、これがもし現実世界だったら人生からアウトするところだぞ。


「し、死んじゃったの?」

「あぁ、死んだな」

「そんな……すぐ戻ってこれるよね?」


 俺は残り時間を確認する。残り約二時間半……あぁ、こりゃダメだ。


「残念だが、今日の千里は終了だ。ご愁傷様」

「えっ、何で!?」

「知らないのか? 『UEO』はゲーム内で死ぬと大量の経験値と共に、持ち時間の半分である三時間を失う。千里の持ち時間は今、ゼロになったはずだ」

「そ、そうなんだ……あれ? 何で僕らの残り時間が二時間半になってるの? まだゲームを始めて一時間半しか経ってないのに」


 むむ? 何だ昇、公式サイトをちゃんと見てないな。仕方ない、説明してやるか。


「いいか昇、『UEO』はVRゲームだ。心身に負担がかかるから連続プレイ時間は六時間と決まっている」

「それは知ってるよ。でも、僕らはまだ一時間半しか遊んでない。あと四時間半残ってなきゃおかしいじゃないか」

「その通り。だが……“戦闘状態”は違う。非戦闘状態であれば六時間遊べるが、戦闘状態では二時間しか遊べない。言ってる意味は分かるな?」

「えっと……つまり戦闘状態では、残り時間が通常の三倍の速さで減少していく、って事?」

「ご名答。俺達はレベル3になるために戦闘を一時間行っている。つまりその時点で三時間を失った。そこにデスペナルティの三時間が加われば……」


 俺がそこまで言うと、昇は全てを理解して泣いた。


「泣くな昇。千里はお前の泣き顔なんて望んじゃいない。だから……笑ってやろうぜブフッ、ぶわっはははは! バッカじゃねーのアイツ! 超腹いてぇー!」

「わ、笑っちゃ悪いよ……フフッ、あっははは!」


 よしよし、何事も笑顔が一番だ。これでいいんだろ? 千里。


「こら、笑ってんじゃないわよ」

「へ?」


 振り向くと、そこには鬼の形相をした千里の姿が。


「はひぃ! 何で千里がここに!? 一日のログイン時間を使い果たしたら、十二時間待たないと入れないはず……まさか……お化け!?」

「んな訳ないでしょ! 十二時間待たないと入れない、というのはあなたの勘違いよ。正確には、ログアウト中に十二時間かけてゲーム内の時間を六時間回復するシステムなの。いつもご大層に講釈垂れてるくせに大した知ったかぶりね」


 んん? そ、それはつまり……二分ログアウトしていれば、一分ログインできる時間が回復するって事……か?


「今からあなたの家に行くから」


 それだけ言い残すと、千里はすぐにログアウトしていった。


「……昇、俺も今日はログアウトするわ」

「えっ、でも」

「じゃあな!」


 死神が、すぐそこまで迫っている。俺は全速力で家から逃げ出したのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ