第二話 『ウロボロス・エクスプローラー・オンライン』へようこそ!!
さーてさて! 千里の技を受け終えて、じゃなかった。今日の業をなし終えて、ようやく放課と相成った。
正式サービス開始は明日の正午。ゲームを始めた時につまずかないように、今できる事は今やっておく必要がある。
今できる事といえば、そう……予習だ。授業の予習なんて一度もやった事はないが、『UEO』の予習なら何度だってやれるぞ、俺は。
ダッシュで帰宅した俺はPCをつけて公式サイトを覗いてみる。
もう幾度となく繰り返してきた行動だが、こういうのって不思議と飽きないものなんだよな。
「ゲームを始めると、まずはキャラクタークリエイト画面になる……と」
とはいえ、基本はプレイヤー自身を反映した姿になり、大きく変更できる部分はない。
そこはやはり、フルダイブ型のVRゲームというのが関わってくるのだろうか。
作成できるキャラは一人分。別のアカウントを取得して複数のキャラを作る事はできない。
選んだ種族によって翼が生えたり、獣耳や尻尾が生えたりするらしいが、俺は最も人間に近い外見を持つ種族“ギムノス”を選ぶつもりだ。
ステータス面では種族ごとに若干の差が出るものの、特に気にする必要はありません──というのは開発者の弁。
強さや性能を左右するのは、種族よりもクラスだ。
クラスは大別して三つ。
近接武器による白兵戦を得意とする『ウォリアー』。
特殊武器を用いて変則的な立ち回りを可能とする『ハンター』。
ハイジアと呼ばれる神秘の力を操る事ができる『メイジ』。
この三つのクラスをさらに細かく分類したものを“コーリング”と呼び、プレイヤーの能力はこのコーリングによって決定されるのだ。
「コーリングも色々あるなぁ。『UEO』には原作となる小説が存在するらしいけど、それを読めばどのコーリングが強いとか分かるのかねぇ」
ネトゲの知識を当てはめれば、当然職業による強さにはバラつきがある。
バランス崩壊を引き起こすような強い職もあれば、選んだが最後というような弱い職もあるだろう。
サービス前のゲーム、しかもベータテストの機会すら与えられなかった俺らには、それを知る術はない。
だが、基本として押さえておくべき要素は存在する。
それは、特化型を目指す事。
ネトゲにおいて重要なのは、役割だ。一人で何でもできる事は決して強みではない。
パーティーの中で、「これは俺に任せろ」という何かを持つべきなのだ。そうでなければ即座に居場所を失い、そいつは脱落する事になる。
しかし……俺は今回、その定石から外れようと思う。
俺が選ぼうと思っているクラスはウォリアー、コーリングは『ブレス』。
右手に剣、左手に紋章を装備して戦う、要するに魔法剣士だ。脳筋を象徴するクラスであるウォリアーの中では異色の存在といえる。
万能と器用貧乏は表裏一体。だが俺は、あえてその困難な道を選びたい。
だってさ、『UEO』はVRMMORPGだぜ? 仮想現実で、実際に冒険を体験できるんだ。
だったら何でもやってみたいじゃないか。剣も使いたいし、魔法も使いたい。俺はゲーマーとして染み付いた常識を捨ててでも、純粋にこのゲームを楽しみたいんだ。
そう……楽しければ、強さなんてどうでもいいのさ。
† † †
──そしてついに。
『はじめまして、五味渕勇太さん。ようこそ【ウロボロス】へ』
……来た……ついに来た。
『あなたの冒険に多くの実りがありますように』
「来たぁぁぁぁーーーーっ! よっしゃああぁぁぁーーーーっ!」
俺と同じ感動を、俺の周りにいる全ての人が感じているようだ。
みんな思い思いにガッツポーズをとりながら、言葉にならない絶叫を発している。
い、今頭の中に響いた声はアレか? ラミュロス城にいるっていうエクレア姫の声だっけ?
やっべぇ、いつか会えたりすんのかな? うっわぁ、超感じる。この空気、音、匂い、装備品の重み。何だこれ、ホント最高。
俺は辺りを見回す。
規則正しく敷き詰められた石畳、それに調和する組積造の建物、天を貫くようにそびえる大聖堂に、遠く霞む王城。そして……鎧やローブを身に纏う大勢の冒険者達。
くぅぅ~! 俺もその中の一人なんだな!
って、落ち着け俺。まずは昇と千里に合流だ。あいつらの事だ、きっと興奮のあまり失神してるかもしれない。特に昇は心配だ。テンション上がりすぎて心臓止まっちゃうかも。
だってあいつ、脚を手に入れているはずだからな。久し振りに自分の脚で立って歩くんだ。仮想現実と分かっていても、抑えきれない思いってのがあるだろう。
「こほん……もしもし? こちら『ゆうた』。昇は今どこにいる?」
俺はメッセージ機能を使い、昇と通信を試みた。努めて、冷静にだ。
『ぁ……勇、君……? た、大変だよ……今、大変な事になってるよ』
「あぁ、気持ちは分かるぞ友よ。だがまずは深呼吸だ。落ち着いて、リラ~ックス……」
『お、落ち着いてなんかいられないよ! 僕は今、広場にいるんだけど……広場の上空にローブを着た変な奴が現れてこう言ってるんだ。このゲームからはもう出られない、ゲーム内で死ねば現実でも死ぬって』
「ちょ、マジかよ!? それヤバいヤツだぞ! どどど、どこにいる……あぁ広場か。よよよよし、ちょ、ちょっと待ってろ」
『な~んちゃって、嘘だよ嘘! ずっと昔の小説で、こんな話があったんだよね?』
「は……はぁぁ~……何だよ脅かすなっての。一瞬本気にしちまっただろーが」
ごめんごめんと笑う声を聞き、俺も笑顔になる。
その後俺と昇は合流し、千里とも無事合流。さぁ、ここからいよいよゲーム開始だ。俺達の冒険に多くの実りがありますように……なんてな。