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終章 セーフリームニルのビトーク アムブロシアとネクタルの特製ソースを添えて

 砂塵に霞む灼熱の国、スピンクス王国。

 その東に広がる海の上に『化石島メタセコイア』は存在する。そこが伝説の鍛冶屋シャム・ダフネの工房がある場所だ。

 千年竜の牙を無事に入手した俺は、シャムに千変包丁の作製を依頼した。


「うむ、見事な牙じゃ。あとはワシに任せてしばし待てい!」


 こんな口調だが、シャムは白髪のおかっぱ頭をした小学生くらいに見える女の子だった。

 背中に亀の甲羅を持つ『ケロネ』という種族で、年齢は推定千歳以上。それでも人間の年齢で言えば八歳か九歳くらいだという。

 使い込まれた茶褐色の革製プロテクターだけ見れば立派な職人なんだけど、見た目が子供だと少し頼りなく感じるな。


 しかし、出来上がった千変包丁は素晴らしい出来栄えだった。

 一見しただけでは普通の包丁と変わらないが、切ろうとする食材に応じて大きさや形状を自在に変える特性を持つ。

 それによってなぜ料理がおいしくなるのかは不明だが、まぁそこは気にしないでおこう。


 さて、それじゃあ俺達の城へと帰ろうか。





「ただいまー。見ろ、これが伝説の調理器具『千変包丁』だ。これで鬼に金棒だな!」

「だーれが鬼ですってぇ!?」

「えぇっ!? いや、普通のことわざだろーが」

「あ、そうよね。五味渕君が言うと何か他の意味があるような気がしちゃって」


 うぐ、日頃の行いの悪さが実を結んでしまったか。


「ねぇ、どうやったらエクレア姫はお店に来てくれるの?」


 昇の質問に、千里は一つの封筒を取り出す。

 王家の紋章で封印された特別な手紙で、それを使うとエクレア姫が来てくれるらしい。


「いよいよだな。はやくエクレア姫に会わせてくれよ」

「オッケー、さっそく調理に取りかかるわ。あなたと春日部君は一階のホールで待ってなさい」


 そう言われて、俺と昇は厨房を後にする。

 テーブル席で行儀よく待っていると、店の扉を開けて一人の来訪者が現れた。


「ごめんくださ~い」


 扉の隙間から顔を出したのは、腰まで届くブロンドと翡翠色の瞳を持つ絶世の美少女だった。

 初めて会ったはずなのに、すごく親しみが湧いてくる。それはその声が、耳に馴染んだシステムボイスの声だからだ。


「おおっ! 本物!」

「初めまして、エクレア・ヘリアンサス・ラミュロスと申します」


 ドレスのスカートを指でつまんで会釈をするエクレア姫。

 彼女が呼ばれたという事は、千里の料理がもうじき完成するという事だな。


 そう思っていると、ちょうど千里がサービスワゴンに乗せて料理を運んできた。

 料理には銀色のドームカバーが被さっていて、何だか高級フレンチっぽい。


「お待ちどおさま! 『セーフリームニルのビトーク、アムブロシアとネクタルの特製ソースを添えて』です。さぁ、どうぞ!」


 料理はエクレア姫の分だけではなく、俺と昇の分まで用意されていた。

 俺達が頑張って集めた食材と包丁で作った、千里渾身のハンバーグ。果たしてエクレア姫は満足してくれるだろうか。

 そんな俺の不安を感じ取ってか、昇が優しげな声でこう言った。


「おいしいから大丈夫だよ」


 あぁ……そうだよな。絶対おいしいに決まってる。


「いただきまーす!」


 俺達は三人同時に料理を口に運んだ。


「なっ……何だこの旨さは!」

「お、おいしいよ千里ちゃん!」


 俺と昇は、一口で胃袋を掴まれた。

 しかし肝心のエクレア姫は、フォークを口にくわえたまま硬直している。

 ど、どうした? まさかマズいなんて言わないよな……?


「溢れ出すセーフリームニルの旨みを千年竜の卵とアウドムラの乳がまろやかに包み込み、白金玉葱の甘みがそれを何倍にも増幅しています。プラスしてアムブロシアの酸味、ネクタルの芳醇な香りが見事に融合し味覚と嗅覚を官能的に刺激してくる。これぞまさしく完全調和、パーフェクトハーモニー!」


 な、なんか語り出したー! しかも顔がエロい!

 でも、これはおいしいって事に違いない。だってその証拠に、お姫様はハンバーグを一気に食べ終えてしまったんだから。


「とてもおいしかったです。さぁチリさん、約束通り『王家の紋章』を授けましょう!」


 エクレア姫の言葉に、俺達三人は顔を見合わせる。

 俺達はシークレットイベントをクリアしたんだ。三人で、力を合わせて……。


「ちょっと待ったぁ!」


 その時、店の扉を乱暴に開け放つ男が一人。その後に、ぞくぞくとネコミミ男達が入店してくる。

 もはや言うまでもないとは思うが、葛木と愉快な仲間達だ。


「あら、準備中の札が目に入らなかったかしら?」

「そう邪険にしないでくれよ。千年竜退治にオレ達『マンチカンズ』も協力してやったじゃねぇか」


 そうだそうだと喚くネコミミ集団。こいつら、何が目的だ? まさか王家の紋章をよこせなんて言い出さないだろうな?


「なぁに、オレ達の要求はただ一つ。伝説の食材を使った料理ってのを食わせて欲しいだけだ」

「なーんだ、そんな事ならお安いご用よ。すぐに用意してくるわ」


 千里がそう言って奥に引っ込むと、エクレア姫は目を輝かせて喜んだ。アンタまだ食べる気かよ。

 そんなこんなで、いつかと同じようにパーティーが始まった。

 とりあえず付けられた名目は、『千年竜討伐おめでとう記念パーティー』。まぁ、騒げれば何でもいいって事だろう。


 和気藹々と純白のテーブルを囲む面々。

 みんなの手にグラスが行き渡ったのを確認すると、俺は乾杯の音頭を取る。


「えっと……本日はご多忙中にもかかわらず多くの皆様にお集まりいただきまして、心から感謝申し上げます。思い起こせば一年前、初めて『UEO』に」

「ちょっと五味渕君、ご飯冷めちゃうし飲み物もぬるくなっちゃうじゃない! 早くしなさい!」


 な、何だよ人がせっかく真面目に仕切ろうと思ってるのに……。

 まぁいいや。堅苦しいのは無しにして、俺はゴホンと咳払いを、一つ。


「かんぱーいっ!」


 千年竜討伐おめでとう記念パーティーは、強制ログアウト時間ギリギリまで盛り上がった。

 今日は最高の日だ。きっと明日も最高で、どうせ明後日はもっと最高の日なんだろう。

 なぜならここは『UEO』、夢とロマンの世界だから。


 常しなえの幻想世界【ウロボロス】は、いつでもここにある。

 俺達が望み続ける限り、ずっとずっと、永遠に──。

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