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第五話 もどかしい世界地図の上で

 玉手箱を駆使して、昇は次々と伝説の食材を集めていった。

 伝説の肉『セーフリームニル』。

 伝説の乳『アウドムラ』。

 伝説の葡萄酒『ネクタル』。

 その間俺が集めたものは、一個もなし。


「やるじゃねーか昇のヤツ。探索のプロには敵わないって事かぁ」


 昇はクライミングできる地形を探して、あちこち歩き回っている探索者だ。

 俺も採取ポイントやモンスターを探して歩き回った方だと思っていたが、戦闘する事も多かった。

 単純に、探索にかけた時間の差がデカイって事だろう。


「はぁ……伝説の魚介はないのかよぉ」


 俺は今、ラミュロス王国とレムレース王国の国境付近にいる。

 高い山に囲まれた、何かありそうな気配がする一本道の突き当たり。

 そこで見つけた湖に糸を垂らし、釣りをしている最中だ。


「釣れますか?」

「いやー全然ですよー……って、昇じゃねーか。こんなところで会うなんて奇遇だな」


 一年以上『UEO』をプレイしているが、ゲーム内でばったり出くわしたのはこれが初めてだ。

 この広大な【ウロボロス】で、連絡も取り合わずに出会うなんて奇跡じゃなかろうか。


「さすが勇君。僕より先にこの場所に目を付けるなんて」

「たまたまだよ。マッピングしてない場所を適当にぶらついてたら辿り着いただけだ」


 このゲームには、未完成の世界地図がアイテムとして存在する。

 プレイヤーが自分の足で世界を歩き、マッピングしていく事で完成に近付いていく地図なのだ。


「そっか、同じ作業をしてたから出会えたんだね。マッピングは順調?」

「自分ではそう思ってたけど、昇から見ればまだまだなんじゃないかな」

「そんな事ないでしょ。ちょっと地図見せてくれない?」


 昇に言われるまま、俺は地図を広げて見せる。

 すると昇も自分の地図を広げ、二人分の地図が目の前に展開された。


「うおっ!? 昇の地図、メッチャ埋まってんじゃん! 開放されてるフィールドはほぼ完璧にマッピングされてるな」

「う、うん。でも、それしかしてなかったから」


 昇は照れ臭そうに笑い、真っ赤になった頬を掻く。


「それと、コレのお陰かな」


 そう言って昇が指差したのは、自分の首。そこには、赤い首輪がはめられていた。


「お、おまっ、どうしたその首輪! だ、誰にハメられたんだ!?」

「自分の意思でつけてるんだよ。『探検家の首輪』っていう装飾品で、散歩が大好きなプレイヤーに与えられる特別なアイテムなんだって」

「ふ、ふーん……強欲なる者の指輪とか命知らずの証と似たような物か。それはそうと、今から種族をフェルに変える事はできないだろうか……」


 俺の呟きは昇の耳には届かなかったのか。それとも意図が伝わらなかったのか。

 昇は無垢な笑顔をそのままにして、首を傾げていた。


「この首輪をつけてるとね、マッピングの効率がすごく上がるんだよ」

「へぇ。どんな風に?」

「マッピングは、自分の足で歩いた場所が地図に自動的に書き込まれる仕組みでしょ? この首輪をつけてると、書き込まれる範囲がかなり広がるんだ」


 ふむ……通常より遠くまでマッピングされるから、隅々まで歩く必要がなくなるのか。そりゃ効率的だ。

 そう思って、昇の地図と俺の地図を見比べてみる。


 たとえば現在地。

 俺の地図を見ると、湖の途中までしかマッピングされていない。

 これ以上先をマッピングしようと思ったら、水泳スキルを使って湖を泳いでいくしかない訳だ。


 対して昇の地図。

 今立っている陸地からでも湖の全体像がマッピングされ、湖の先にある山、さらには山の向こうにある湖の途中くらいまでマッピングされいるではないか。

 探検家の首輪、恐るべし……。


「……ん? 待てよ、この地図……」

「勇君、また何か閃いたの?」

「あぁ、閃いたっていうか……ちょっと気になる事があって」


 俺は昇に地図を見るように促す。


「今俺達が立っている場所。右も左も山に囲まれて、正面には湖。湖は山で塞がれ、行き止まりだ」


 無言で頷く昇。


「でも昇の地図を見ると、この山の向こうにまた湖がある。どうだ? 何か気付かないか?」


 そこまで言っても、昇はまだ首を捻っている。


「俺の推測では、この湖は……いや、推測で話をするのはやめよう」


 言うが早いか、俺はコートを脱ぎ捨てる。

 昇が「えっ?」と声を発すると同時に、


 ──ドボンッ!


 俺は湖に飛び込んだ。

 水泳スキルは覚えちゃいるが、育ててはいない。現実でも水泳は苦手だ。


「それでも、確かめるくらいなら……」


 俺は大きく息を吸い込み、湖に潜行する。

 水面から伸びる陽光が行く手を照らし、俺の目に真実を見せつけた。


「ぷはっ!」


 思った通りだ。

 地図を見ると、こっち側と向こう側、山を挟んで二つの湖が存在しているように見える。

 だが、実際は違う。

 一つの巨大な湖が真ん中で山に分断され、地図上で二つに見えているだけなんだ。


 山にはトンネルがあって、湖は水中で繋がっている。そのトンネルを潜れば、向こう側に出る事が可能だ。

 もしかすると、この山の向こう側には何かすごいお宝が眠っているのでは……?


「昇、お前水泳は得意か?」


 湖から上がった俺は、さっそく昇に問う。


「僕はあんまり……でも、水泳が得意な子なら知ってるよ」

「マジか!? すまん昇、その子を紹介してくれないか?」

「何言ってるの、勇君も知ってる子だよ」


 俺の知り合いに、水泳が得意な奴なんて……、


「あっ」


 ……いた。

 そいつの名は、芥川千里。俺の幼馴染にして、我がギルド『円環のオフィウクス』のメンバーだ。





『ふっふーん。ようやく私の出番ってワケね』


 メッセージ機能を使って事情を説明したところ、千里からは非常に前向きな発言をいただけた。

 きっと今、絵に書いたようなドヤ顔をしている事だろう。


『すぐに飛んでいくから待ってなさい!』


 その言葉を最後に、メッセージは終了。

 三十分くらい釣りをして時間を潰していると、その人物は姿を現した。


「お待ちどおさま!」


 振り返ると、そこには水着姿の千里が立っていた。

 とんがり帽子に紺のスクール水着……こ、これはまたエキセントリックな格好だな。

 しかもご丁寧に名札までついていて、ひらがなで「ちり」と書いてある。


「そんなスク水、どうやって手に入れたんだ?」

「お客さんの中に生産スキルが得意な人がいてね。その人に頼んで作ってもらったのよ」

「似合ってるよ、千里ちゃん!」

「ありがと、春日部君。さ、五味渕君。あなたの感想はまだかしら?」


 俺の感想も欲しいのかよ。

 よし、じゃあ俺はもう少し具体的に褒めてやるか。


「いいと思うよ。胸元が平べったいから名前が読みやすい」

「面白い感想ね。気に入ったわ、殺すのは最後にしてあげる」


 うわ、やばい。今度余計なことを言うと、口を縫い合わされるかもしれないな。


「この湖の中にトンネルがあるのよね?」

「あぁ。向こう側まではかなり距離がある。酸素ボンベもない。行けるか?」

「私を誰だと思ってるの? 麗しのマーメイド、千里様に任せなさい!」

「マーメイド? うみへびじゃなくて?」


 しまった! つい口が滑って余計な事を……。


「ねぇ五味渕君。あなた魚が好きよね? 今度友達にコンクリート製の靴を作ってもらうんだけど、良かったらあなたにプレゼントするわ」


 その言葉を意訳すると、「コンクリの靴を履かせて湖底に沈めてやる」の意味になる。


「わ、わーい……お魚さんと水中散歩、楽しみだなー……」


 よし、決めた! これから俺はトレジャーハンターになろう。

 水中で呼吸ができるようになるアイテム、見つかるといいなぁ……。

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