第四話 ODDS&ENDS??
それからの俺はフィールドを隈なく探索し、伝説の食材を探す日々を送っていた。
経過は良好……と言いたいところだが、実はそうでもない。
成果はたったの一つ。
今まさに、『千年竜の卵』という食材を手に入れたくらいか。
「ん~……おかしいな。絶対ここに落ちてると思うんだけど」
千年竜の卵があった場所。きっとここが千年竜の巣に違いない。
であるなら、千変包丁の素材──千年竜の牙はここにある。
そう思って俺は文字通り草の根を分けて探してみたが、結局千年竜の牙は見つからなかった。
巣の周りには幼年竜というモンスターがいるものの、肝心の牙が生えていない。
親の姿も見当たらないしなぁ……ここじゃないとしたら、一体どこにあるんだ?
『勇君、今大丈夫?』
トントンと腰を叩いていたところで、昇からのメッセージが来た。
「おう、昇か。ふふん、聞いて驚け! 俺は今、千年竜の卵をゲットしたところだぜ!」
『わぁ、すごいじゃない! そっかぁ……それに引き換え、僕の方は全然ダメで……』
マジか。探索なら昇の方が俺より得意だと思ってたんだけどな。
『でも、伝説の食材の代わりに変なモノを手に入れたよ』
「変なモノ?」
『うん、すごく怪しいモノだよ。一応勇君にも見てもらおうと思って』
「分かった。今どこにいる?」
『カリナン諸島連合国のアダマス島だよ。首都エボニーから北に行った山の麓に氷輪があるから、そこで合流しよう』
俺は昇の指示に従い、すぐに合流。
さっそく昇が入手したという怪しいモノを見せてもらう事に。
「これだよ」
昇が手渡してきたのは、真っ黒に塗られた宝箱のようなアイテムだった。
大きさは、小脇に抱えられるくらい。
「へ~、何だろうコレ……って、名前見れば分かるわ!」
アイテムの名前は『玉手箱』。
俺が知ってる玉手箱と同じ物なのだとしたら、間違いなく開けたらヤバイ。
「フィールドを探索してたら、結構難しそうな課題を見つけてね。登った先に何かあるかもって思ったら、つい登ってたんだ」
「で、これがあったと」
「少し違う。登った先に怪我をした大きな鳥がいて、かわいそうだから傷薬を使ってあげたんだ。すると、その鳥が『お礼に天空城へお連れしましょう』って」
な、何か浦島太郎みたいな話だな。
「そのあと天空城で食事をごちそうになって、帰ろうとした時に手渡された物がソレなんだ」
アイテムの説明文にはこう書いてある。
『決して開けないで下さい』。
開発者は絶対ふざけてるな、これ。
「開けよう」
俺は即答した。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。やらなきゃ分からん事は、やって知るしか道はない。
「勇君ならそう言うと思った。だから僕はこう言うよ。開けるのは僕だ、って」
「ごめ……いや、ありがとう昇」
俺の予想が正しければ、開けたら高確率で不吉な事が起こる。最悪死ぬ。そうなった時のデスペナルティを考えれば、これは当然の流れだ。
昇には悪いと思う。だが、悪いと思いつつやらせるしかないんだから、ごめんなどと謝罪する前にありがとうと感謝した方が昇にとっても好ましいだろう。
我が意を得たりという表情で、昇は箱を地面に置く。
ふたを開けると、中から真っ白な煙が噴き上がって昇を包む込んだ。
煙は焚き火のように空へと昇るのではなく、ドライアイスのように箱の周囲に広がっていく。
俺はその様子を、離れたところから見守っていた。
しばらく煙を吐き出し続けていた箱は、どんな仕掛けか自動的にふたが閉まり、煙を封印する。
煙が晴れたその場所から、昇の姿は掻き消えていた。
「うおぉ昇……おじいちゃんを通り越して、土に還っちまったのか」
消えずに残った玉手箱を手にとって確認してみる。
再使用は可能っぽいな……回数制限のあるアイテムじゃないって事か。
すると、さっきまで昇が立っていた場所に魔法陣が浮かび上がり、
「ただいま、勇君」
光の柱の中から、再ログインした昇が姿を現した。
「あぁ、お帰り。聞け昇、これはただの玉手箱じゃないぞ。強化版玉手箱だ。煙を浴びると風化するか何かで消滅しちまうらしい」
「そうみたいだね。だとすると、これはただの自殺用アイテムなのかな?」
「いや……俺が持ってる強欲なる者の指輪にもマイナス効果があったけど、発想を変えてプラスにする事ができた。なら、この玉手箱にも有用な使い道があると考えた方がいい」
たとえば……消滅させたい“何か”に煙を浴びせる、とか。
「ねぇ勇君。この煙でモンスターを消滅させられないかな?」
「俺もちょうど同じ事を考えてた。昇、残り時間は大丈夫か?」
「まだ平気。じゃあモンスターに煙が効くかどうか、試してみよう」
その後、俺達は玉手箱をモンスターの目の前に置いて実験を開始した。
実験は無事成功。
箱を開けた瞬間にダッシュで逃げれば、自分は助かりモンスターだけを消滅させられる事が判明した。
ただし、消せるのはモンスターのみ。岩などの障害物は消せないようだ。
さらに、消滅させたモンスターからは経験値も取得できず、アイテムも入手できない。
つまりこの玉手箱は、現状ただモンスターを消滅させるだけのアイテムって事になる。
「う~~ん……こう言っちゃなんだが、コイツはただ凄いだけのゴミアイテムって感じだなぁ」
「そ、そうかな? 僕は結構いいと思うけど」
「どのへんが?」
「モンスターを消せるって、僕みたいな弱いエクスプローラーにとっては重要だよ。この先を探検したいけどアクティブモンスターがいるから諦めよう……そう思っていた場所が探検できるようになるからね」
昇の台詞に、俺は小さな疑問を抱く。
「探索を諦めてた場所があるのか?」
「う、うん」
「そういう時は俺を呼べって言っただろ」
「そんな頻繁に呼んでたら迷惑かなって思って」
迷惑なんかじゃない。けど、それを言ったところで昇の考えが変わる訳じゃない。
これが昇の性分なのだ。これ以上何か言っても昇を困らせるだけだろう。
「アクティブモンスター相手に上手く煙を浴びせられるのか?」
「簡単だよ。モンスターを引きつけて木に登って、箱を上から落とすんだ。すると安全にモンスターを駆除できる」
なるほど。クライミングスキルを極めた昇ならではの発想だ。
採取スキルで手に入れた強欲なる者の指輪は、採取スキルによって活かされるアイテムだった。
ならばクライミングで手に入れた玉手箱は、クライミングによって活かされるアイテムだったという訳か。
「これで探索がはかどるな、昇」
「期待しててよ。伝説の食材は僕がきっちり集めて見せるから」
いつも弱気な昇の、いつになく強気な発言。
これはもう、期待せざるを得ないな!