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第三話 シークレットイベント ~エクレア姫の休日~

 明くる日。

 俺のもとに、千里から衝撃的なメッセージが届いた。


「五味渕君、ごめん。私……傷物にされちゃった」

「キズモノ? それはどういう……」

「傷つけられちゃったの、アレを」

「何……? アレって、まさか!?」

「そう、プライド」


 何だプライドか……って、それはそれで大変なモノが傷ついたな。


「待ってろ、今からそっちに行く。どうせ店にいるんだろ?」


 今日は伝説の鍛冶屋シャムに会いに行こうかと思っていたが、予定変更。

 まずはどういう訳か落ち込んでいる千里に、話を聞きに行こう。





 千里の店には、本日休業の札がかかっていた。

 これはよほどの重傷だな。


「よう、来たぜ千里」

「いらっしゃい五味渕君。まずはこの料理を、何も言わずに食べてちょうだい」


 純白のテーブルには、色取り取りの料理が飾られていた。

 スパゲッティ、グラタン、ハンバーグ、どれもこれもおいしそうな匂いを振り撒き、見る者の食欲を刺激する出来栄えだ。


「いただきまーす! ……もぐもぐ……うん、うまい!」

「本当に?」

「何で疑うんだよ。味見してないのか? メッチャうまいよ、これホント」

「そっか……あのね」


 千里はそこで言葉を区切り、一度大きく深呼吸。


「私、もっとおいしい料理を作りたいの」


 決意を以て紡がれた言葉。

 俺と千里には何か温度差のようなものがあって、「そんな一大決心して言うほどか?」とも思ってしまう。


「あの人に……エクレアさんに認めてもらえるような料理を作りたい!」

「は? エクレアさんって……あのシステムボイスのお姫様?」

「そうよ。実は昨日、この店にね……来たのよ、エクレア姫が」

「マジで!? それを早く言えって! ど、どんな人だった?」

「金髪碧眼で色白で、物腰も上品で、もうどこからどう見てもお姫様~って感じの人」


 いいなぁ、俺も会ってみたかった……。

 でも、何でエクレア姫がこの店に? 自分の城と間違えた……なんて事はないよな。


「なんかね、自分のお城と間違えたんですって」


 この世界の住人、愉快すぎるだろ。


「それでここは料理屋ですって教えたら、料理を食べてみたいって言い出して」

「あっ、分かったぞ! それで出した料理をマズイって言われたんだな?」

「マズイとは言われてないけど……いや、そうね。とにかくダメだったの」


 なるほどなぁ。それでプライドが傷ついて、もっとうまいメシが作りたくなった訳か。


 ……ん? ちょっと待てよ……これって、一つのイベントじゃないか?

 このイベントはお姫様が自分の城とこの店を間違えた事で始まった。つまり、店舗レベルを最大にしたのがきっかけって訳だ。それだけの高難度条件が起点になってるイベントという事は……。


「千里! 多分これはシークレットイベントだぞ!」

「そ、そうなの? そっか……だからあんなにすごい報酬があるんだ」

「報酬? イベントの成功報酬があるのか?」

「うん。エクレアさんを満足させる料理が作れたら、NPC雇用に必要なポイントが半分になる永続アイテム『王家の紋章』がもらえるんだって」

「なっ、なんですと! それって超すげーアイテムじゃん!」


 だって、雑用NPCも戦闘用NPCも、全部半額になるんだろ?

 って事は、現状一番強いあの蛍火っていうNPCすら半額で雇える。

 いや、そんな事よりも……店の売り上げとかを意識しないで、千里にもっと伸び伸びと料理を楽しんでもらえるようになる。

 これは絶対に必要なものだ。


「五味渕君、王家の紋章が欲しい?」

「是が非でも欲しいね」

「そっか。じゃあ春日部君にもこの話をして、協力してもらおうよ」


 昇にメッセージを送って、待つ事一時間。


「はぁ、はぁ……遅くなってごめんね」

「いいって事よ。俺は一回ログアウトして情報サイト見てたし」

「ならよかったよ。で、相談って?」

「うん、実はね……」


 千里はエクレア姫のシークレットイベントの内容を昇に話した。

 黙ってそれを聞いていた昇だが、


「へぇ、それはちょうど良かった」


 話を聞き終わった時、昇は思いがけない台詞を口にする。


「それならこれが役に立つと思うよ」


 そう言いながらアイテムバッグから取り出したものは、


「伝説の食材の一つ、『アムブロシア』だよ」


 黄金の輝きを放つリンゴによく似た木の実だった。


「実は僕、さっきまでクライミングである場所に登ってたんだ。【ウロボロス】の中心にある無人島セコイア、そこに立っている世界樹なんだけど」


 昇は千里に果実を手渡して、笑顔で言う。


「これはそのおみやげって事で、受け取ってよ」

「ありがとう、春日部君。絶対に役立てて見せるから」


 いや~、さすが昇。やっぱできる男は違うな。

 さて、俺も負けてられないぞ。


「俺も情報サイトで色々調べてみたんだけど、使えそうな情報が一つあった」


 千里と昇が見守る中、俺は話を続ける。


「伝説の鍛冶屋シャムが作れる武器の中に、伝説の調理器具の一つ『千変包丁』ってのがあるらしい。それが作れれば、料理をさらにおいしくできそうだ」

「伝説の調理器具かぁ。すごそうだけど作るの大変じゃない?」

「まぁな。『千年竜の牙』っていう素材アイテムが必要らしいんだけど、その入手方法がまだ発見されてないみたいなんだ」


 ま、それは後で考えるとして。


「よっしゃ! そんじゃあ俺と昇で手分けして伝説の食材を探そうぜ!」

「うんっ!」

「ちょ、ちょっと待って! 私はどうしたらいいの?」


 俺と昇を、千里が不安そうな顔で呼び止める。

 うーん、千里にはこれといって頼みたい事もないけど……。


「とりあえず料理の練習とか、レパートリーを広げておいてくれればいいよ」

「そ、そっか……何かごめんね。私だけ何もできなくて」


 消え入りそうな声で言う千里。

 何だ? もしかして俺らに負い目でも感じてたりするのか?


「馬鹿言ってんじゃねーよ。お前がいたから俺達はこのシークレットイベントに挑める。そうだろ?」

「そうかもしれないけど、でも……私だけ何もしてないじゃない」

「今はな。でも最後に決めるのはお前だって、もう決まってるんだぜ? なら、俺らにアシストさせてくれよ」

「うん……」


 これだけ言ってもまだ納得しないか。

 ……しょうがねーなぁ。


「お前はもう、伝説の調理器具を一つ持ってる。それってお手柄じゃねーか?」

「え、嘘? 私、何か持ってたっけ?」

「伝説のまな板」


 千里の胸元を指差して、爆弾を投下する。

 さぁ、位置について……、


「何ですってぇぇぇーーーっ!」


 よーい、どん!

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