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第一話 リストランテ・カステッロ

 その数日後、ギルド拠点にて。


「いや~良い気分だなぁ。今や俺は伝説のプレイヤーですよ、伝説の」


 脚を組んで木のイスに座っていた俺は、大げさに脚を振り上げて組み直す。

 

 レイドボス“ミューカス”との死闘を終えた後の事。

 俺は開放された新マップをたった一人で突き進み、レベル95のネコ系モンスター・キマイラを見つけた。

 それから五日ほどでレベル99に上がり、現在に至るという訳だ。


「それは勇君が千里ちゃんのために頑張ったからだよ。ギルドポイントも全部お店改築に使っちゃったんでしょ?」


 隣のイスに腰掛けて、昇は笑顔を向けてくる。


「まぁな。でも俺が戦闘で稼いだポイントも大量にあったし、それなりに残ったんじゃないかな」


 予定していた通り、俺はギルドポイントを店舗改築に費やした。

 改装工事には数日かかるという事なので、しばらくは千里も暇になるだろう……と思ったら、アイツちゃっかり料理以外の趣味を持ってやがったんだよな。


 共通スキル『水泳』。

 千里がこの『UEO』内で、料理の他に見出したもう一つの楽しみらしい。

 数日営業できないと知るや否や、千里はさっさと水辺に繰り出していったんだ。


 俺も色々やってるようで、実は戦闘か採取しかしてないからなぁ。

 昇や千里みたいに、俺もそろそろ他の楽しみでも探そうかな。


『おーい五味渕君、聞こえる?』


 その時、頭の中に千里からのメッセージが響いた。


「聞こえるよ。今どこ? 海?」

『違う違う、お店の中よ。改装工事が終わったみたいだから見に来たの。春日部君は?』

「昇なら隣にいるよ。拠点で二人っきりだ」

『二人で変な事してないでしょうね?』

「何だよ変な事って」

『……まぁいいわ。それよりお店に来なさいよ。新装開店の前に三人で集まってお祝いしましょう』

「いいね。んじゃ昇連れてすぐ行くわ」


 千里とのメッセージを終え、俺と昇は拠点を出て店の前に移動する。


「うへー……これが改築レベル最大の店構えかぁ」


 純白の石材を積み上げて造った、巨大な何か。

 うん、これはもう城だな。もはや料理屋のそれじゃない。


「は、入ろっか……」


 準備中の札はそのままに、入店。

 豪華絢爛な外観に負けず、店内もまた荘厳華麗。毛足の長い真紅の絨毯の上には、まっさらなクロスを着飾った丸テーブル達が出番の時を待っていた。

 正面には二階へと続く階段があり、上にも客席がたくさん。バルコニーにも出れるようだ。


「こりゃすごい……NPC何人雇用すればいいかな? ギルドポイント使い果たすかも」


 ギルド機能の中には『NPC雇用』というものがある。

 ノンプレイヤーキャラクターを一定期間雇用して、特定のサポートを受けられるようになる機能だ。

 給仕でも店番でもお任せあれ、という非常に便利な機能だが、大量のギルドポイントを要するのが難点。

 今までの店舗なら数人雇えば十分回せたけど、この規模となると最低でも十数人は必要か。


「いらっしゃいませー、適当にオードブルっぽいもの作ってみたから食べてみて」


 俺の思考に千里の声が割り込んでくる。声のした方に目を向けると、ワゴンに乗せて料理を運ぶ千里と目が合った。


「おめでとう千里、これで願いは叶ったか?」

「十分すぎるほどにね。あなたにはデッカイ借りができたわ」

「貸しにした覚えはねーよ。変な勘違いすんな」

「……ありがとう、五味渕君」


 と、その時。


「よぉ、邪魔するぜ」


 ドアベルの音を響かせて入店してきたのは、何と葛木だった。


「うおぉ、豪華っスねぇ」

「中もすんげー広っ! もう城じゃんコレ」


 葛木の他にも男がぞろぞろと。しかも全員ネコミミ……種族フェルの集団だ。


「あら、準備中の札が目に入らなかったかしら?」

「そう邪険にしないでくれよ。今日は敵でも客でもない、友人として祝いに来たんだ」

「お祝いに来てくれたの? ありがとう葛木君!」


 昇が差し出した手を、葛木は笑顔で握り返した。


「ここにいるのはみんな葛木の仲間か?」

「あぁ。オレのギルド『マンチカンズ』のメンバーだ」

「痴漢男達? 大胆不敵なネーミングだな」

「チカンマンじゃねぇ、マンチカンだ! そういう猫の品種だよ!」


 何だそうなのか。もしかして葛木って、愛猫家?

 葛木だけじゃない、この場に集まったネコミミ男達もみんな猫大好きか?


「なぁ葛木、お前が種族フェルを選んだのって……」

「可愛いからに決まってんだろ」


 あー……俺はてっきり、強さを重視して見た目を捨てたんだとばかり……すまん葛木。


「お前から教わった匂い誘引法、活用させてもらってるぜ。すぐに追いついてやるから待ってろよ」

「おうよ、さっさと這い上がってきな」


 ん? 猫好きなのにネコ系モンスター退治って大丈夫か……?

 まぁ高レベルになればトラとかライオンみたいな怪物ばっかだし、問題はないか。


 和気藹々と純白のテーブルを囲む面々。

 みんなの手にグラスが行き渡ったのを確認すると、千里の挨拶が始まる。


「えっと……本日はご多忙中にもかかわらず多くの皆様にお集まりいただきまして、心から感謝申し上げます。思い起こせば一年前、初めて『UEO』に」

「おいコラ、飲み物がぬるくなっちゃうだろ! 早くしろ!」


 何だか長くなりそうだったので、俺がみんなを代表して野次ってやる。

 すると千里は恥ずかしそうに顔を赤らめ、コホンと咳払いを、一つ。


「かんぱーいっ!」


 改築完了記念パーティーは、強制ログアウト時間ギリギリまで盛り上がった。

 今日は最高の日だ。きっと明日も最高で、どうせ明後日はもっと最高の日なんだろう。

 なぜならここは、夢とロマンの仮想現実。


 『ウロボロス・エクスプローラー・オンライン』なのだから──。

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