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終章 話をしよう。あれは今から36万……いや、1年前だったか。まぁいい

 ミューカス討伐を果たした俺達は、奪還した影見の氷輪を使ってアッシュまで飛んだ。

 今いる場所は目抜き通りに面する一角、千里の料理店。準備中の札を下げているので、俺達以外のプレイヤーが来店する事はない。


「葛木君ほらほら~! 五味渕君が勝ったんだから、何か言う事があるんじゃないの?」


 口元を手で押さえ、ニヤニヤと笑みを浮かべながら問う千里。

 葛木は下を向いたまま唇を噛み、拳を握りしめていた。

 昇は千里と葛木を交互に見て、それから俺にも目を向けてオロオロするばかりだ。

 しばらくすると、ついに葛木が動きを見せる。真っ直ぐに昇の目を見つめてゆっくりと口を開き、


「春日部、これまでの事」

「はいストップ!」


 紡がれるはずだった謝罪の言葉を止めたのは、この俺、五味渕勇太だった。


「なぜ止める五味渕」

「いや……よくよく考えたら、俺はお前との約束を完璧には果たしてねーかな、と思ってさ」

「そんな事はねぇ。ミューカスのソロ討伐、本当に見事だった。オレの……完敗だ」

「そうかな? だって俺、自分一人の力で勝ってねーよ。千里と昇がいなかったら、俺はミューカスをソロで倒すなんてできなかった」


 俺がそう言うと、千里と昇は照れ臭そうに笑う。俺も笑った。


「そうだとしても、いや、そうであるなら尚更オレの完敗じゃねぇか。ゴミと、カスと、チリ……今まで散々馬鹿にしてきたお前らに、オレは完膚なきまでに負けたんだ」

「そう思うなら謝るな」


 俺の言葉に、葛木は「なぜ」と目で訴える。だから俺はこう答えた。


「勝負に負けたから約束通り謝りますってか? そんなのこっちとしてはぜんっぜん嬉しくねーんだよ。だってそれは上辺だけの謝罪じゃねーか。心がこもってない。謝罪の言葉を口にするなら、心の底から悪かったって思ってなきゃ嘘になる」


 俺は葛木から目を逸らさず、葛木もまた俺から目を逸らさずに、数秒。


「……今まで……本当にすまなかった。この通りだ」


 葛木の視線は俺から昇へと移り、その口から謝罪の言葉が紡がれた。

 深々と頭を下げる葛木の姿に、驚いて顔を見合わせる昇と千里。実を言うと、俺もちょっと驚いてる。

 これはつまり、葛木は心の底から自分の非を認め、許しを求めているという事だ。


「昇……どうする?」


 俺の問いかけに、昇は沈黙で答える。だが、その顔は許すか許さないかを迷っているようには見えなかった。

 きっと、答えは出ているが言葉が見つからないのだろう。それでも昇は何とか踏ん切りをつけたらしく、はっきりとした口調で声を発した。


「僕は葛木君を許さない。絶対にだ」

「えっ!?」


 俺は思わず聞き返す。おいおい昇、お前どうしちまったんだ?


「の、昇……確かに葛木は酷い奴だけど、こうして謝ってるんだからさ……」

「そうよ春日部君。あなたの気持ちは分かるわ。でも葛木君だって反省してるんだから……」

「じゃあ二人はこいつを許すって言うの? 僕が今までこいつにどんな仕打ちを受けてきたか、知ってるでしょ?」


 そ、それはそうだけど……でも……こんなの絶対、間違ってる。


「昇、よく聞け。全てを許す必要はない。けどな、こんなに謝ってる奴を許さなかったら、今後お前は何も許せなくなっちまうぞ」


 昇の肩に手を置いて続ける。


「人には人の考え方がある。それぞれの生き方がある。だから当然、すれ違う事もある。争って、傷つけ合う事もあるだろうさ。そんな時に大事なのは、許す事だ。何があっても傷つけ合わない関係より、何があっても許し合える関係の方が大切だって……そう思わないか?」

「……千里ちゃんもそう思う?」

「う、うん。私もそう思うわ」

「そっか。じゃあ許すよ」


 ……へ?


「じゃあってお前……いや、説得しようとした手前こう言うのもおかしいけど、もう少し自分の意思ってモンをだなぁ」

「あるよ、自分の意思」


 昇は肩に置かれた俺の手を握り、意志の宿った目を向けてくる。


「僕は初めから葛木君を許してたよ。でも僕だけ許しても勇君と千里ちゃんが許してなかったら意味がないかなと思って。それで……」

「それで一芝居を? ……はぁぁ~……何だよ脅かすなっての。一瞬本気にしちまっただろーが。お前の嘘はいつもホントっぽいから困るぜ」


 とにかくこれで話はまとまった。葛木は俺達三人が責任を持って許す。


「許してやるよ葛木、それが俺達の意思だ」

「ありがとう……今までの償いは、これから時間をかけて必ずやらせてもらう。それでな……和解の印にお前達がこの一年、どんな風に『UEO』を遊んでたのか……教えてくれないか?」


 そんな葛木の言葉に、俺達三人は揃ってこう答えた。


「もちろん!」


 そうして俺は語った。


 ぼっちじゃないソロプレイヤーの俺はゲーム内で魚を焼いて最強になった──そんな、嘘みたいなホントの話を──。

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