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第十三話 命知らずの証と友情の絆

 俺は刀を抜き放ち、左手の紋章に意識を集める。物理攻撃に高い耐性を持つミューカスにそのまま斬りかかっても効果は薄い。それなら……!


「風の霊虫“イカズチ”よ、我が前に力を示せ……《サンダーブレード》!」


 サンダーブレードとは、武器に属性を付与するブレス専用のスキル《オーラブレード》の風属性版。

 詠唱時間なしで使える即時発動型のスキルなので、敵がアクティブだろうと問題なく使用可能だ。

 風属性付与のオーラブレードは初期段階では《ウインドブレード》だが、俺はレベル98なのでその上位スキルにあたるサンダーブレードまで習得する事ができた。


 サンダーブレードはウインドブレードに比べて威力が高いだけではない。攻撃速度まで大幅に高めてくれるので手数が増やせるのだ。


 ここで重要なのは、手数が増えるという部分。もちろん威力は高ければ高いほど嬉しいけど、この際そいつはどうでもいい。


 俺は後ろの三人にターゲットが移らないように先制攻撃を仕掛け、ヘイトをとる。

 縦斬り、横薙ぎ、刺突、その全てが属性強化に劣らぬ一撃。これが……これこそがブレスの神髄だ。

 目にも留まらぬ疾風迅雷の連続攻撃、いくらレイドボスでもこれなら大ダメージを期待できるはず。


「……って、そうはいかないよな」


 俺の攻撃は確かに効いている。だが、ミューカスのHPバーには大した減少が見られない。

 レベル98のブレスが【極識】を装備して、サンダーブレードで攻撃してもこの程度なのか。こりゃあ厳しいかもな。


 心中で舌打ちをした次の瞬間、俺の脇腹にミューカスの触手が打ち込まれた。

 さすがに肉体的な痛みはないが、ズシンとした衝撃と刺激が精神を揺さぶってくる。


「ぐっ!? やっぱ強ぇな、コイツ!」


 敵の体力の多さも驚きだが、その攻撃力も馬鹿にならない。

 レベル60の防御特化プレイヤーでも痛い攻撃だ。いくらレベル98とはいえ、所詮俺はバランス型。レイドの攻撃はさすがに痛い。


 ミューカスのHPバーは全然減っていかないのに、俺のHPバーはどんどん減っていく。このままのペースで行けば、俺は絶対に勝てないだろう。


 だが……まだ手はある。

 最後の最後まで諦めずに手を出し続ければ、必ず勝機が見えてくるはずだ。


「うおぉぉぉっ!」


 迫る触手を逆袈裟に斬り飛ばし、跳躍から縦回転と体重を加えた斬撃を見舞う。

 そこから間髪を入れず水平の横薙ぎ。刃の軌跡を電光が走り、ミューカスの表面を覆う粘液が蒸発する。

 鼻を突く嫌な臭いを気にしている暇はない。もっともっと、手を出し続けなきゃ駄目なんだ。


「頑張れ、勇君!」

「五味渕君、いっけぇぇーっ!」


 昇と千里の声援が、俺の体を突き動かす。

 だが、ミューカスだってそう簡単にやられてくれる訳じゃない。

 触手から繰り出される鞭のような一撃に体を裂かれ、口から吐き出される溶解液に体を焼かれ──、


 ──やがて、限界が近付く。


「勇君、ダメだ! あと一撃で殺されちゃう!」


 悲鳴のような昇の声。ちらりとその方角に目をやると、泣きそうな顔の昇が俺を見ていた。

 何だよ昇、俺が負けると思ってるのか? お前にそんな顔されたら、悲しいじゃねーか。

 大丈夫だ昇、俺は絶対に負けない。負けたらまた、お前が馬鹿にされちまう。だから俺は……ここで切り札を、切る!


「喰らいやがれ、魂の一撃を! 発動ッ、《ソウルリベレーション》!」


 そのスキル名を聞いた瞬間、葛木が驚きの声を上げる。


「馬鹿野郎っ! そのスキルは自爆技だぞ!?」


 へぇ、ブレスの専用スキルなのに良くお勉強してやがる。

 そうさ、ソウルリベレーションは魂を生贄にして超威力の大爆発を引き起こす究極の破壊魔法。しかも詠唱無しの即時発動型。ブレスが誇る二大ゴミスキルの一つだ。


 なぜゴミスキルかって? そりゃーもちろん、使った瞬間に死ぬからだよ。


「なん……だと……?」


 驚いてるな葛木。そうでなくちゃ困るぜ。


「何で死なねぇんだ!? ソウルリベレーションは使うと死ぬスキルのはずだぞ!?」


 そう、俺は死ななかった。いや、死んだけど死ななかった事になった、が正しいかな。

 俺のHPは全回復し、戦闘は仕切り直し。だがミューカスのHPバーは五割減った状態からのスタートだ。これで勝機が見えたってもんだぜ。


 なぜ俺は死ななかったか。

 その理由は俺が装備していた『命知らずの証』にある。

 この『UEO』はゲーム内で死亡すると、デスペナルティを受けると共に強制ログアウトになってしまう。それを一度だけ無効にし、さらにHPを全回復してくれるのが、この命知らずの証なのさ。


 そしてこれは、昇が命懸けのクライミングによって手に入れてくれた装飾品。命綱無しで高難度の壁を制覇した者の証だ。


 なぁ葛木、限りなくリアルなこの【ウロボロス】という仮想世界で、痺れるような恐怖心と戦ってきた昇の強さがお前に分かるか?


 なぁ葛木、お前が笑い飛ばした昇の趣味がこの奇跡を起こしたって聞いたら、お前はそれでも、笑えるか?


 昇は本当にすげー男だ。だから俺は負ける訳にはいかない。

 ミューカスに勝って、必ず昇に謝ってもらうぜ、葛木!


「さぁ、ここから第二ラウンドだ。最後まで見逃すなよ!」


 俺は雷を纏った大太刀を振り上げ、疾風の如くミューカスに吠えかかった。

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