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第十二話 半端な暇人が達する極致

「よう、本当に逃げずにログインするとはな。そこだけは評価してやる」


 放課後。

 俺達はそれぞれの家に帰宅して、すぐさまログイン。あらかじめ決めておいた合流地点で落ち合った。

 エキドナ大陸の西端に位置するデルピュネ王国。その首都であるウォールナットの中央広場がその場所だ。


 特に興味はなかったが、俺は葛木のキャラ情報を確認してみた。

 クラスはハンター、コーリングはクロス。両手に片手武器を装備して戦う敏捷特化型。

 種族は回避が高いという種族特性を持つフェル……なるほど、これなら普通に強いと思う。

 だが……獣耳がこれほど似合わないヤツもいねーな。強さにこだわるあまり見た目は捨てたか。


「さて、ゴミ野郎の強さをチェックしてやる。レベルは49……あぁ? おい、オレは61で殺されたと言ったはずだぞ。このレベルじゃやる前から結果は見えてるぜ」

「そうかい。そう思いたいならそう思ってろ」

「チッ……クラスはウォリアー、コーリングは……おいおい、やっぱ馬鹿だなお前。ブレスなんてゴミ職選んでる時点で地雷確定じゃねぇか」

「そうだな。地雷確定かもな」


 不敵な笑みを浮かべてそう返すと、葛木は再び舌打ちして頭を掻いた。


「勇君、まずは準備するんでしょ? 何が必要なの?」

「属性強化のために宝石を買うんだ」

「へぇ、分かってるじゃねぇか。ミューカスは物理攻撃に耐性がある。宝石を使って属性を付与しなけりゃダメージが通らないからな」


 ふん……そういうお前は何も分かっちゃいない。俺が付与する属性は地水火風のどれでもない、特殊属性だ。

 宝石店で俺が購入したのは『アレキサンドライト』。“毒属性”を武器に付与する宝石だ。個数はとりあえず三百個。


「な、さッ!? 三百って、何でそんなに買えるんだ!? 宝石は一個一万ゴールドもするんだぞ! 三百個で三百万ゴールド……オレの全財産じゃねぇか」

「へぇー葛木三百万ゴールド持ってるのか。結構金持ちだな。まぁ俺は千二百万ゴールド持ってたからまだまだ余裕あるけどね」

「せんにひゃく……馬鹿な……そうかチートだな!? てめぇチートを」

「これだよ」


 何やら失礼な勘違いをしてるようなので、俺は左手の薬指を見せてさっさと種明かしをする。


「強欲なる者の指輪……それがどうした?」

「その反応、情報サイトで存在は知っているが入手はしていない……ってとこか」

「当たり前だ。こっちは戦闘で忙しくて、採取スキルを777回も使ってる暇ねぇんだよ」

「俺を暇人呼ばわりするのは勝手だけど、俺はこの指輪で大金を手にした。だからチートじゃねーよ」


 それを聞いても葛木は納得できない様子で、ぶつぶつ言っている。

 確かにこの説明だけじゃ意味が分からないだろう。だが、これ以上コイツにあれこれ教えてやる義理もない。とりあえず今は放っておこう。


 さて、いよいよ属性強化に取りかかる。

 まずは共通スキル『霊石合成』を使用。素材となるアレキサンドライトを百個投入っと。


「よっしゃ成功!」


 アレキサンドライト百個はアレキサンドライト霊石一個に変化して俺のアイテムバッグに追加された。

 俺はそのアレキ霊石を選択し、【極識】の属性スロットに追加。これで「毒属性LV1」が完成だ。

 【極識】にはスロットが三つあるから、同じ手順で毒属性LV3まで強化できる。

 俺は再び霊石合成を使用。しかし……、


「ありゃ、失敗か」


 霊石合成の成功確率は50%弱といったところ。失敗すれば宝石百個──金額にして百万ゴールドが一瞬にして消し飛ぶ事になる。


「じゃ、もう百個買い直して……っと」


 その様子を、葛木は驚きに目を見開いて見続けている。くくっ……最高にいいツラだな。

 二回目のチャレンジで無事成功。これで毒属性LV2だ。続けて──、


「ハイまた失敗。ま、俺のリアルラックじゃこんなもんか」


 宝石をもう百個追加購入、再チャレンジで成功。これで毒属性LV3の完成って訳だ。

 合計五百万ゴールドも使い込んでしまったが、まだ手元には七百万ゴールド残ってるから別にいいや。


「これで準備完了だ。さて、行きますか……ミューカスのところへ」





 俺と昇、千里と葛木の四人は、ウォールナットから影見の氷輪を使って移動。

 戦いの舞台は、デルピュネ王国領内の最前線マップである『タクソディウム湿原』だ。


 やせ細った裸の木々に無言の歓迎を受けた俺達は、ゆっくりと歩を進める。

 霧深く薄暗く、視界は最悪。湿った空気が肌に纏わりつき、気分も最悪。唯一最高だったのは、


「しめた、他のプレイヤーはいないみたいだ」


 やるなら今しかない。武器の準備は万全、心の準備も万全、さぁ……舞台は整った。

 前方には、ワンボックスカー並みの大きさの影が蠢いている。その影から、ぬちゃぬちゃと気味の悪い音を立てて二本の角のような突起物が生えた。


 それは目だ。

 これから俺が戦う相手、ミューカスとは……“巨大なナメクジの化け物”なのである。

 ミューカスはこちらに気付き、体中から無数の触手を伸ばして戦闘態勢に移行。ヤツはアクティブだ、のんびりしている暇はない。


「行くぜ……強欲なる者の指輪、装備解除!」


 別に叫ばなくてもいいんだけど、そこは何となく気分だ。

 強欲なる者の指輪は、装備中に入手したアイテムの獲得数を+1にする効果を持っている。

 しかし、この指輪には“危険なマイナス効果”が付属しているため戦闘中には装備できず、多くのプレイヤーから採取専用装備と思われてきた。

 この指輪が持つマイナス効果とは──レベル半減。

 装備中、そのプレイヤーはレベルが半減してしまう……つまり、超弱体化してしまうのだ。


 だが、俺はそこを利用した。

 匂い誘引法でデスタイガーを狩り続けてレベル60になった俺は、モンスターとのレベル差によって経験値が入らなくなった。

 そこにこの指輪のマイナス効果『レベル半減』を適用し、レベル30に。

 あとは今までと同じように、リンクスを初めとするネコ系モンスターを焼き魚で誘引し、仕留めまくったって訳。


 ついでにネコ系モンスターからは『小判』という高価な換金アイテムを低確率で入手できる。

 それを指輪のプラス効果で一度に二枚入手していたから、俺は他のプレイヤーの数倍貯金できたっていうカラクリだったのだ。


 指輪を外す前の俺のレベルは49。

 指輪を外した今の俺のレベルは、いくつかな?


「レベル98!? て、てめぇ、どうやってそんなレベルに……!?」

「戦闘するのに忙しかったお前には、到底考え付かない方法だ。暇人にでも聞いてみな」


 っと、お喋りはここまで。それじゃあ戦闘開始だぜ!

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