第十一話 葛木の挑戦状 ~レイドボス“ミューカス” 難関の討伐~
「おはよう千里。いよいよ明日だな!」
「明日? ……あぁアレね。え~と、ゴールデンウィーク」
千里の回答はある意味正しい。ゴールデンウィークは誰にとっても待ち遠しいものだ。
だが違う! このタイミングで明日といえば、もう一つしかないだろう。
「違うな千里。明日って言ったら『ウロボロス・エクスプローラー・オンライン』の正式サービス一周年の事だ。俺にとっちゃゴールデンウィークなんてオマケみたいなもんだね」
「……なんだっけ、それ」
……おいおい嘘だろ? 毎日のように遊んできたのに、マジで覚えてないのか? 前々から怪しいとは思ってたけど、こいつ若年性健忘症の疑いがあるようだな。
「仕方ない、また一から教えてやる。『ウロボロス・エクスプローラー・オンライン』、通称『UEO』は世界初にして世界唯一の」
「あーはいはい、そこまでで結構よ」
「もっと早く止めてくれよ。一年前と同じ展開になるかと思ったぜ」
俺が肩をすくめて見せると、千里はべーっと舌を出した。
「一年前と同じなら、そろそろ春日部君が来る頃なのにね」
「そうだな……でも今年は無理か。二年になってクラスがバラけちまったから」
クラス替えで別々のクラスになった時は、昇にガチで泣かれちゃって大変だったっけ。
昇のクラスには葛木もいるからちょっと心配したけど、今のところ問題なく済んでいる。このまま平和が続いて欲しいもんだ。
──そう思った直後。
「おい、ケンカだってよ!」
「隣のクラス、葛木と春日部がやり合ってるって!」
廊下から聞こえてくる声を聞き、俺と千里は顔を見合わせる。
「行くぞ千里!」
「うんっ!」
人混みを掻き分けて隣のクラスに駆け込んだ俺の目に、尻餅をつく昇とその前に立つ葛木の背中が映り込んだ。
「葛木ッ! お前、昇に何しやがった!」
「はぁ? オレからは手出ししちゃいねぇぜ? カスが勝手に転んだだけだ」
葛木を無視して通り過ぎ、俺は昇に肩を貸す。立ち上がった昇はすぐに俺から体を離して、葛木の方へ向き直る。
「取り消してよ、葛木君。僕の事はいい……でも、二人の事を悪く言うのは許さない」
こんな昇、今まで見た事が無い。俺と千里のために怒ってくれてるのか。
「威勢がいいなサイボーグ。『UEO』を一年もプレイしててレベル3しかない雑魚のくせに」
「昇は戦闘をやってないからレベルが低いだけだ。その分積み上げてきたものがある」
「へぇ……戦闘しないで一年も何やってたんだよ?」
「クライミングだよ」
「何だそりゃ?」
「壁登りだよ」
「カベノボリ? ぶっっはははっ! カス、壁登る、あっはは、名前通りじゃん! くっそ笑える!」
「表へ出ろ、クズ野郎。もう我慢ならねぇ……今日こそテメーをブチのめしてやる」
俺がそう言うと、葛木は笑うのをピタリとやめる。不気味な静寂。葛木は両手を広げて顎を上げ、俺を見下ろすように吐き捨てた。
「いいぜ? じゃあオレはダチを十人連れていくわ」
「なっ!? 卑怯だぞ! 男の勝負はサシだろうが! この鬼畜! 弱虫! 臆病者!」
やばい、リアルで十人にボコられたら死ぬかもしれん。何とか一対一に持ち込めるよう挑発しまくるしかない。
「おーおー、散々な言われようだぜ。だがゴミの言う事も一理ある。男の勝負は一対一が基本だよな」
よし、挑発に乗って来た。って、全然よしじゃねぇ! 冷静になってみたら俺、ケンカ弱いじゃん。一対一でも勝てないじゃん。
「ハハッ! すぐ顔に出るなぁお前。本当はビビってんだろ?」
「あ、当たり前だろ? たとえ相手がクズでも、同じ人間を殴るのは気が引けるって言うか……べ、別にお前に勝てないからビビってる訳じゃねーからな」
「面白ぇよお前。じゃあこうしようぜ? 『UEO』の最新マップにいるレイドボス──“ミューカス”をお前がソロで倒せたら、オレは今までの事を全部謝罪してやる」
レイドボスのミューカス……以前俺が一人で挑んで、見事にぶっ殺されたヤツだ。
「……上等だ。VRゲーム内のモンスターが相手なら、心も拳も痛まなくて済む」
「ちなみに教えといてやる。オレは昨日ミューカスに十人で挑み、殺された。オレはレベル61、他の奴らもレベル50代だ。言うまでもねぇと思うが、全員特化型だぜ」
そこまでやってもダメだったのか。あとはもう少しレベル上げして、装備整えたり人数増やして勝つしかないな。
だが、今の俺ならきっとやれる。俺の強さは、昇と千里を守るために磨いた強さ。これ以上敗北はない。
「ね、ねぇ葛木君。もし勇君がミューカスのソロ狩りに失敗したら、どうするの?」
「そういや決めてねぇな。面倒だからそっちで決めていいぜ? どうせ失敗するだろうから、なるべく簡単なのにしておくといい。くくっ……」
「あっそ。じゃあ五味渕君、あなたもし失敗したら葛木君のアレを舐めなさいよ」
ん? 葛木のアレ? アレってもしかして……アレか!?
「はぁっ!? やだよ、何でそんなトコ舐めなきゃいけないんだ!」
「我慢しなさい。なるべく綺麗なところをペロってすればいいから。まぁどうしても嫌なら言い出しっぺの私が舐めるけど」
その言葉を耳にした瞬間、葛木の顔色が変わった……ような気がする。
「馬鹿! それだけは絶対だめだ! よ、よし分かった、やってやろうじゃねーか。奥まで咥え込まなくても、い、いいんだな?」
「奥まで咥え……? あっ! やだ違うわよ! アレって別にアソコじゃなくて」
「何、違うのか!? ならアソコじゃないアレってドコだよ!」
「あ、アレっていうのは靴よ靴! 葛木君の靴を舐めるの!」
「初めからそう言え!」
ったく、いつもアレとかソレで済ませてるから変な誤解を招くんだ。反省しろ。
「分かったよ。もし俺が失敗したら葛木の下半身のアレを舐める。約束する」
「お、お前らなぁ……まぁいい。じゃあ今日の放課後、楽しみにしてるぜ」
こうして俺は、レイドボスのミューカスとサシでやり合う事になった。
まずは勝つための準備を。そしてミューカスに他のプレイヤーが挑んでいない時を見計らい──、
──確実に、討つ!




