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第九話 強欲なる者の神算鬼謀

 その後のレベル上げは快調そのもので、俺は怒涛の追い上げを見せた。

 昇から譲り受けた【極識】のお陰で、俺の編み出した“匂いによるモンスター誘引法”が活用できるようになったからだ。


 もはや別ゲー感覚でぐんぐんレベルが上がり、トップ連中をあっさりオーバーテイク。

 二か月足らずで俺のレベルは60まで成長し、他のプレイヤーは高い奴でもレベル45といった具合になっていた。


 ──だが、ここに来て俺史上最大の障害が発生する事となる。


「くっ……これ以上はレベルが上げられないぞ」


 実はこのゲーム、モンスターにもレベルが設定されている。そしてプレイヤーのレベルがモンスターのレベルを10上回った時、経験値が一切入らなくなってしまうのだ。

 現状俺が最も効率の出せるモンスターは“デスタイガー”。しかしデスタイガーのレベルは50。

 俺のレベルが60に上がった時点でトラとのレベル差が10になり、経験値が入らなくなってしまった。


 一応よその狩り場に“グレートボア”というイノシシがいて、そいつのレベルが55。やろうと思えばレベル65まで上げる事は可能だ。

 ただし、このイノシシはネコ系モンスターと違って好物がはっきりしないため、誘引法の効き目が無い。そのため、トラより経験値は高いのに効率が悪いという不思議な現象が起こってしまった。

 “おいしくない”モンスターとしてずっと敬遠してきた相手だが、ここは誘引法に頼らず地道にレベリングするしかないか? でも結局そこで積んじゃうんだからあまり意味はないような……。


「どうしよう……ソロでボスに挑むしかないのかなぁ」


 現在解放されている最新のマップ『タクソディウム湿原』には、“ミューカス”という名前のレイドボスが待ち構えている。このボスを撃破して影見の氷輪を奪還すれば、新マップが解放される仕組みだ。

 恐らく次のマップに進めばデスタイガーより高レベルのモンスターがいて、俺は再びレベル上げを再開できるようになるだろう。


「そうは言っても相手はレイドボスだ。多人数で挑むように設計されたモンスターをソロで倒せる道理はないよな」


 とか言いつつ、意外と楽勝に倒せちゃったりして。

 ものは試しだ。胸を借りるつもりで挑戦してみようかね。



 †   †   †



「ハッ!? ここは俺の部屋? そうか、やっぱ俺は死んだのか」


 いくら【極識】を持ってるからって、半端者のブレスがソロで挑むのはさすがに無謀だったか。

 分かっていた事とは言え……さて、これからどうしたものかなぁ。

 大人しく他のプレイヤー達が追いついて来るのを待つしかないのか? でもそれにはあと数か月かかるだろう。

 匂いによる誘引法を伝授してやれば、みんなもすぐにレベルアップ。だけど、できればそれは避けたいところ。


 その理由は、最速でレベルをカンストできたプレイヤーにはギルドポイント百万点という公式企画があるからだ。

 俺だけが誘引法を知っている今の状況なら、最速カンストを狙う事は十分に可能。千里にギルドポイント百万点をプレゼントしてやる事も夢じゃない。

 だが誘引法がみんなに広まれば、俺はせっかくのアドバンテージを手放す事になる。そうなれば最速カンストは実質的に不可能だ。


「ま、こうしてても仕方ない。デスペナの減少分を回収したら、久し振りに採取でもして遊ぶかな」



 †   †   †



 最近は本腰入れて狩りに集中してたから、採取はめっきりご無沙汰だ。

 でもやり方は忘れてないぞ。まずは強欲なる者の指輪を装備。これで獲得数+1になる。

 あとは採取ポイントを探して採取スキルを発動すればオーケー。そうだなぁ……とりあえず釣りでもするか。


 場所は懐かしの狩り場、レムレースの森。確かここの湖で手乗りクジラが釣れた記憶がある。

 ひょいと竿を振って仕掛けを沈め、あとはのんびり待つだけだ。


「あーリアルだと真冬なのに、ここは日差しが暖かいなぁ。そういえばこの【ウロボロス】って、あんま季節感ないな」


 色んな場所を旅して分かった事だけど、この世界【ウロボロス】には四季がない。いや、あるにはあるが地域による気候の違いの方が大きいんだ。

 その辺はちょっとRPGっぽいな……って、『UEO』はVRMMORPGだったか。


「きゃああぁぁっ!」


 長閑な森に突如響く、女の子の悲鳴。今このレベル帯にいるって事は新規さんか……あるいは生産系のプレイヤーかな。

 俺は一旦釣りをやめ、悲鳴のした方へ走る。そこには二頭のリンクスにうっかりリンクされている美少女の姿が。

 とんがり帽子にマントにローブという出で立ち、あれはメイジ系のクラスだ。何とか攻撃魔法で応戦しようとしているが、リンクス二頭から立て続けに波状攻撃を受け、魔法の詠唱を完成させられないでいる。


「あの子、《詠唱守護》のスキルを取得してないのか」


 詠唱守護とは、詠唱時間中に敵の攻撃を受けても詠唱中断にならなくなるスキル。メイジ専用スキルにして必須スキルの一つだ。それを取得していない以上、あの状況を自力で打開するのは不可能。

 つまりあれは……ピンチって事だ。


「はっ! せいっ!」


 漆黒のロングコートを翻し、流れるような二連撃でリンクスを葬り去るカッコいい俺。う~ん、これは惚れたな。


「怪我はないかい? お嬢さ」

「あら、五味渕君。こんなところで会うなんてアレね」

「何だ千里かよ」


 それにしても千里のヤツ、何でこんなところに?


「何だとはアレね。ところで五味渕君、この辺りで手乗りクジラっていう珍しい魚が釣れるって聞いたんだけど、知ってるかしら?」

「あぁ、それなら知ってるぞ。でも採取なら俺がやるよ。強欲なる者の指輪を持ってる俺がやった方が効率良いし」

「強欲なる者の指輪? なんだっけ、それ」

「ふふん、コレだよ」


 俺は待ってましたと言わんばかりに左手の薬指を見せつける。


「これを装備してると、アイテムの獲得数が+1になるんだぜ?」

「へぇーすごいじゃない!」

「だろ? だけど良い事ばかりじゃないんだよ。この指輪には恐ろしいマイナス効果もあって……」


 ……ん? 何だ……この感じ。匂い誘引法を閃いた時と同じ感覚……。


「どうしたの? 急に固まっちゃって」


 指輪のマイナス効果……レベル差……経験値……そうか!


「繋がった。脳細胞がトップギアだぜ!」

「はい?」


 停滞しかかっていた現状を打破する、究極至高の奇策。この方法を使えば、俺は最速でレベルカンストできる。


「悪い千里、ちょっと用事を思い出した。手乗りクジラはここから少し北東に行ったところにある湖で釣れるから、あとは自分でやってくれ」


 さぁて、これから忙しくなりそうだぜ──!

ここまでご閲読いただきまして、ありがとうございます。突然ですが一つお知らせを。

次の投稿は十話ではなく十一話になります。第一部分の『序章』が本作における十話という扱いだからです。

まだ序章を読んでいない方、読んだけど内容を覚えていないという方は、次話を読む前に序章を読む事をお勧めします。

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