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俺、キモヲタと戦います

 ひょろひょろとしたもやしのような体格。出っ歯で丸縁の眼鏡をかけている。バンダナを巻き、よれよれのパーカーとダボダボのズボンを着用した青年だ。ここまでならだらしないただの青年と思うかもしれない。けれどもそいつは、美少女アニメのキャラクターがプリントされたTシャツを堂々と着こなしていたのだ。

 気持ち悪い息遣いをする青年の胸でにこやかにスマイルを振りまく美少女。こんなアンバランスな組み合わせを実現させてしまえる人種はこいつらぐらいしか知らない。


 秋葉原とかにいそうなヲタク。


「単なるレジスタンスじゃなくて、美少女二人なんてついてるぜ。あ~心がぴょんぴょんするんじゃ~」

 やばい、完全にあっち方面の人だ。っていうか、ドラゴンが生息している以上、ここって中世ファンタジーの異世界だよな。それなのに、なんで現代日本の秋葉原にいそうなヲタクがいるんだ。


「気を付けろ。こいつはトノサマの手下だ」

「その通り。オデはヲタク軍団のダンツ・キッスイ」

「いや、ただのヲタクにしか見えないのだが」

 そんなにも本腰入れて身構える必要性ないだろ。そして、うざいから中途半端にかっこいいポーズをとらないでくれ、ダンツさん。

「しゃべる馬だって。おまいはファンタジー生物だな。ついでに馬刺しにして献上すれば、おでの株は急上昇だ、ヒャッハー」

 ダンツは勝手に舞い上がっている。なんで、この世界の人たちって、馬を食べることしか脳にないんだ。俺は食っても美味しくないぞ、多分。


「トノサマ配下のやつが狙ってくるってことは、あんたはあっちの軍勢ではないのね」

「当たり前だ。そもそも、トノサマなんて知らないし」

「おでの知り合いに、しゃべる馬なんていねーし。馬がしゃべる時点でファンタジー生物だろ、JK(常考)」

 擁護されたようだが、それと同時に中傷されたのは気のせいではないと思う。


「馬は馬刺しとして、そこのレジスタンス。そんな中世ファンタジー丸出しの鎧に魔法使いのローブなんて、トノサマの大日本万歳計画に反する行為。よって、おでが殿に代わっておしおきよしてやるし」

 律儀にあの美少女戦士のポーズを再現してやがる。いや、大日本万歳計画ってなんだよ。

「な、なにをする気ですの」

「決まってるだろ。追いはぎの刑だよ。その不健全な鎧とローブをひっぺがし、大日本にふさわしい和服に着替えてもらう」

 予め用意していたとしか思えない着物をリュックから取り出す。時代劇で町の娘が着ていそうな質素な布地のやつだが、それを無理やり着せようというのか。バニーガールとかよりは数倍マシだろうが、問題はそこではない。


「このキモヲタ。私たちにここで生着替えしろっていうのか」

「当たり前だ。おでの第一目的は追いはぎだかんな」

 よだれを垂らしながら迫るその姿はまさしく、変態であった。

「グヘへへ。ついでにそのポニテも和服に似合うように結ってやる」

「誰がお前なんかに触らせるか」

「そうですわ。この肢体、お馬様にならともかく、あなたごとき下賤に晒す気はございません」

 ホクトさん、あなたさらっととんでもないこと言いましたよね。


(馬神様、あのキモヲタどうにかできませんか)

(下界には直接干渉できんから無理。まあ、ステータスでも見てなんとかせい。わしジ〇エルペット見てるから)

 だから、なんでいい年してそんなアニメばかり見てるんだよ。でも、ステータスを知ることができるというのはありがたい。


キモヲタ ダンツ・キッスイ 880バカ

身躱しダンス・ダンス・レボリューション


 待て。880ってこいつ意外と強そうだぞ。そうとは知らず、アドマイヤは自慢の剣を抜いて構える。剣を前にしても、ダンツは怯むことなく、むしろ珍妙にくねった動きで挑発している。

「死にさらせヲタク! 地獄の一閃ヘル・スラッシュ

 死神の鎌を連想させるアドマイヤお得意の縦一閃。バカの加護からすると無傷は確定ではあるが。

 ただ、ダンツは素直に受ける気がないのか

「身躱しダンス・ダンス・レボリューション

 軽快な足さばきで剣の一撃を受け流す。アドマイヤは躍起になって剣を振るうが、ことごとく回避されてしまう。ひょろいやつかと思いきや、あの足さばきは常人ではない。まるで踊っているかのようにすべての攻撃をかわしている。


 やがて、スタミナの限界が近づいたのか、アドマイヤの攻撃が止んでしまう。

「なんだ、このヲタク。異常に素早いぞ」

「おでをなめるなよ。ゲーセンにある四つの矢印が流れてくるダンスゲームで鍛えたんだ。人呼んでおでを偉逗の踊りダンス・マスターと呼ぶ」

 何その痛い通り名。ただ、ゲームで鍛えたとはいえ、あらゆる攻撃をかわしてしまう足さばきは厄介だ。あれ? バカのはずなのに、普通に強くないか。


「お姉さま、私にお任せください。今度は魔法でお相手しますわ」

 ホクトが進み出て、手のひらを広げる。解読不能な呪文を詠唱するや、そこからテニスボールくらいの火の玉が発生する。それは段々と大きくなって、ついにはバスケットボールぐらいにまで膨れ上がった。

「火のファイヤ・ボール

 技名を叫ぶや、火の玉は一直線にダンツへと飛んでいく。真っ当な攻撃魔法だ。ひょろひょろしたヲタクなら、あれの直撃を受ければイチコロのはず。鍛えた人間でも火炎を浴びればイチコロになるけどね。


「身躱しダンス・ダンス・レボリューション

 しかし、またもや素早い足さばきでかわされてしまう。目標を通り過ぎた火の玉は彼方へと消え去っていく。かと思われたのだが。


 突然、ダンツの背後でものすごい爆発音が響き渡った。一同の視線がそちらに集中する。まあ、なんということをしてくれたのでしょう。


 汚物まみれになっていたドラゴンが火葬されていた。


(アルコールまみれになっとったからのう。あの火の玉が引火したんじゃろ)

 えっと、俺のアルコール消毒のせいですか。今更火葬を成功させてどうするんだよ。


 この場にいる誰もが水の魔法を使えないので、ドラゴンの方は自然消火するのを待つことにしました。広々とした草原であれば二次災害の心配もないだろう。疑われても焚火だって誤魔化しとけばいいし。

「おでの技術に誰もついてこれないようでつね。グヘへへ。ならば、遠慮なく追いはぎさせてもらうぜ」

(いかん、やつをとめるのじゃ。このまま追いはぎされては不健全な作品としてこの小説の存続自体が危うくなる)

 作中で大人の事情を暴露しないでくれますか。まあ、美少女二人が困っているのを見過ごすわけにはいかないよな。


「待てよ。まだ、俺がいるぜ」

「なにぃ? ただのしゃべる馬がしゃしゃり出たところで、どうにもできないぜ」

 吐き気がするぐらい気持ち悪い声で嘲笑する。いくらダンスが得意だからって、これは回避できないだろ。俺はやつに背中を向け、尻を突き出す。


「邪神の弾丸デズモ・バレット

 一秒間に馬糞を十六連射する禁断の技。絶え間なく降り注ぐう〇こに対処できるはずが……。

「身躱しダンス・ダンス・レボリューション

 嘘だろ。目にも留まらぬ動きでう〇こを回避し続けている。百発以上お見舞いしたものの、やつの体に汚物は一切れたりとも付着していなかった。


「少しは骨があるみたいだな。でも、まだまだ余裕だぜ」

 俺の最大の攻撃技が効かないだと。単なる蹴りなんか当てられる自信はないし。ならば、残る手札は一つ。もうこいつにかけるしかない。

「まだまだ。俺にはこれが残っているぜ。奇跡の鼻息ミラクル・スノース

 俺は思い切り空気を吸って、鼻から一気に放出した。さあ、何が出るか。


 すると、突然軽快な音楽が流れ出した。なんだ、この中途半端に懐かしい曲は。どこかで聞いたことあるけど、えっと、どこだっけな。

 そうだ。Y〇u Tubeでアニソンまとめを聞いた時に混じっていたやつだ。ただの人間には興味ないとか言っている女子高生が教室で宇宙人や未来人とかと踊っている曲。

 でも、再生機器もないのに、どうして突然音楽なんて鳴りだしたんだ。

(奇跡の鼻息ミラクル・スノースの効果で鼻歌が発動したんじゃな)

(鼻歌って、一応鼻から放たれるけどさ)

 わざわざ技を使ってまでやることじゃないじゃん。鼻歌のくせにきちんとボーカル入りフルバージョンだけどさ。


 そして、いきなりアニソンが流れ出したにもかかわらず、ダンツは慌てることなく、むしろこの曲の振付を完全に再現している。おまけに、間奏部分にはヲタ芸を入れる余裕まである。

「おでは、ありとあらゆる曲の振付をマスターしている。おでに踊れぬ曲はない」

「ちょっと、やつを調子に乗らせてどうするのよ」

 アドマイヤからも責められる始末だ。くそ、もう一度だ。

「奇跡の鼻息ミラクル・スノース

 すると、またもや鼻歌が流れ出した。だが、なんだこれは。子供向け番組で流れていそうなゆるいメロディーに乗せ、とんでもない歌詞が歌われたのだ。


うんぽこぽん うんぽこぽん

ごはんを食べたら うんぽこぽん

うんぽこぽん うんぽこぽん

きょうも元気に うんぽこぽん


バナナのうんぽこ 健康だ

べちゃべちゃうんぽこ 不健康

たくさんたべて いっぱい出すぞ うんぽこぽん


「童心に帰って踊りたくなるような歌。さすがはお馬様ですわ」

「いや、ただ下品なだけでしょ」

 そもそも、こんな歌知らないし。

(これはうんぽこぽん体操じゃな)

(知ってるんかい)

(おばあさんといっしょで流れる歌で、尿漏れを恐れてトイレに行きたがらないご老人に、元気に快便することの大切さを説いた文部科学省推薦唱歌じゃ)

 こんな歌を推薦するなよ。文部科学省、仕事してくれ。


 そして、こんな珍妙な歌にも関わらず、ダンツは完璧に踊りこなしている。

「おでも知らない歌とは変化球で来たな。でも、即興で振付をつければ問題ない」

 うんぽこぽん体操も通じないなんて。こうなったらヤケだ。三度目の正直。

「奇跡の鼻息ミラクル・スノース


 この最後の一撃は、またもや鼻歌だった。しかし、これまでと比べるとダンツの様子が明らかにおかしい。踊り始めることなく、愕然と膝をついている。悲壮感やら絶望やら、そんなマイナス因子が漂う姿に、不覚にも同情しそうになる。

「あ、ありえない、おでに踊れない曲が存在したなんて」

「これは、さすがに踊るのは無理ですな」

「いや、これは踊れるやつなんていないだろ」

 そうだよな。俺でさえ、これで踊るのは無理って断言できる。


「くそう。トノサマに言いつけてやる。覚えてろよ」

 泣き目になりながらダンツが敗走していく。一応、勝ったのか。こんなので倒せるなんて、逆に拍子抜けしたくらいだ。


 草原には、火葬されていくドラゴンを弔うかのように、俺の鼻歌が響くのであった。


 仏説・摩訶般若波羅蜜多心経……。

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