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俺、美少女と出会います

 眼前にそびえる汚物。ドラゴンには失礼だけど、そうとしか表現できない。三百発もの馬糞に埋もれているんだぜ。

(どうしたらいいと思います)

(汚物は消毒じゃ)

 火葬しろってことですか。そうだな、このまま放置していてはドラゴンの魂も安らかに眠ることはできない。経文を唱えてやりたいが、ぬ〇べ~に出てきたやつしか知らないし。


 俺は大きく息を鼻から吸い込む。氷の息じゃなくてちゃんと炎の息が出てくれよ。

「奇跡の鼻息ミラクル・スノース

 一気に鼻から空気を発射した。それは一直線に汚物、ではなくドラゴンに降りかかる。


 出てきたのはなぜか液体であった。まさか、鼻水を発射してしまったのか。それにしては、ホースで放水しているぐらいの勢いがあるぞ。

 それに、またもどこかで嗅いだことのある臭いがする。この刺激臭はどこの臭いだっけな。学校の中の、えっと、どこだ。


 そうそう、保健室だ。あそこは薬品ばかりだけど、この臭いが一番強い。けがの治療をするときも、まずは水で洗ってこいつをつけるもんな。ってまさか。

(馬神様。俺ってもしかしてとんでもないものを放射していますか)

(そうじゃな。お前が鼻から出しているのはアルコールじゃ)

 本当に消毒してどうするんだよ。決して、二十歳以上じゃないと飲んではいけない嗜好飲料じゃないぞ。給食の前の手洗いで使うあの薬品の方だ。

 アルコール消毒薬を噴射するって、すでに息ですらないじゃん。話が違うぞ。

(いいじゃないの、ドラゴンを消毒できたんだし)

(いろんな意味でダメよ、ダメダメだよ)

 こうして、馬糞にまみれたうえ、アルコール消毒薬をふりかけられた可愛そうな爬虫類が出来上がった。


 消毒するという当初の目的は果たしたわけだし、とりあえずもう少しこの世界を探索してみるか。ドラゴンが出てきたということは日本ではないってのは確かだし。

「待て、そこの馬」

 突然、俺は声をかけられた。やっとこせこの世界の人間とご対面か。俺はその方向を見やる。


 まあ、なんということでしょう。赤髪をポニーテールにし、紅のプレートアーマーを纏った長身の少女がロングソードを引き抜いて俺の首元に突きつけていたのだ。きつい目つきをしているが、顔立ちは凛然としており、青い瞳が印象的だった。

 いきなりこんな美少女と出会えるなんてラッキー。ではないな。なぜか知らないが、命を狙われていないか。

「えっと、俺ってもしかしてピンチですか」

「馬のくせに人間の言葉をしゃべる。トノサマの手の内のものか。ならば、レジスタンスの名にかけて成敗する」

 いきなり固有名詞を連発されても訳が分かりません。そもそも出会って早々殺されそうになる覚えはないぞ。


「待て、話し合おう。俺が何をしたというんだ」

「とぼけるな。この世界ではドラゴンは保護対象となっている。それをあんな、う、う……」

 顔を赤らめてそっぽをむいている。やばい。殺されそうだけど滅茶苦茶可愛い。

「うって、私からそんなこと言わせるな」

 いきなり切りかかってきた。超至近距離から斬撃されてはかわせるものではない。俺の首は胴体から離され、おいしい馬肉にされましたとさ。


「……あれ、痛くない」

 馬肉になるどころか、無傷のまま俺は棒立ちしていた。これには少女もうろたえていた。

「そんな。私の地獄の一閃ヘル・スラッシュが効かない。あんたどういう防御力してるのよ」

 ドラゴンと戦った時もそうだけど、俺って異常なまでに防御力高いよな。この体どうなってるんだ。


(それはバカの加護じゃな)

(特殊スキルみたいなものですか)

(一定以上のバカを持つ者なら誰しも持つ自動発動スキルじゃ。自身のバカより半分以下の数値のバカの相手の攻撃は無効化してしまう)

 格下の相手に対して無双できるって一応まともな能力のようだ。ちなみにさっきからバカバカ言ってるけど、「馬鹿」と読むんじゃなくて「ばぢから」って読むんだぞ。念のために。


(つまり、あの女は俺よりもバカが低いのか)

(そうじゃ。これがあの娘のステータスじゃ)


アドマイヤ・ベガ 2バカ

地獄の一閃ヘル・スラッシュ


(2バカって相当低いな)

(ちなみに東大生の平均は1バカらしいぞ)

 じゃあ1000バカの俺はむしろ異常なんじゃ。どうやら、変人や奇人ほどバカが高く、まともな人間は低いそうだ。


 500バカ以下の敵の攻撃が通じないと分かった今、恐れることはない。俺は不敵な笑みを浮かべアドマイヤに立ちふさがる。

「な、なんだ、やる気か」

 アドマイヤは怯むことなく剣を構える。ちょっと脅かしてやろうかな。奇襲を受けた仕返しもしたいし。

「蹴る(ミラクル・ゴッド・シュート)」

(バカもん! 2バカの相手にそんなものを使ったら……)

 え、まずいですか。馬神様が制止するより早く、俺の前脚はアドマイヤの胸のプレートにめりこんだ。


 俺としては軽く蹴って脅かすだけだった。しかし、攻撃が命中したとたん、アドマイヤは後方へ勢いよく吹っ飛んでいった。ちょっと待て。明らかに手から衝撃波を放ったぐらいの威力は出ているよな。さすがにまずいぞ、これ。

 しかし、やってしまったものはもう後の祭りだった。アドマイヤは岩石に背中を打ちつけ、そのままがっくりとうなだれてしまった。お、おい、大丈夫なのか。恐る恐る、彼女のもとに近づく。


 プレートのおかげで致命傷とはならなかったようだが、完全に虫の息だ。どうしよう、俺。出会って早々ヒロインを殺しかけてしまった。うろたえるも、馬の身では手術はおろか応急処置さえできない。


「アドマイヤ姉さま、どうなされたのですか」

 もう一人別の少女がローブの裾を少し持ち上げながらお嬢様走りでやってくる。身長はアドマイヤより少し低いくらい。こちらも赤髪だが色素が薄くピンクに近い色をしている。髪型もボブカットだ。アドマイヤがシャープな顔立ちだとするなら、こちらは丸っこくやわらかな顔立ちだった。ただ、全体の雰囲気は似ており、特に青い瞳は酷似していた。

 などと真面目に人物描写しているところではない。やばいぞ、状況的に俺が犯人というのはサルでもわかる。どうする、やられる前にやるか。


「あら、このお馬様にやられたのですか。早く手当てしないと。完全回復トテモ・ナオール

 お嬢様はアドマイヤの胸の上に手をかざすと、そこから緑色の仄かな光を発した。それを浴びたアドマイヤは呻きながらも上半身を起こす。ひょっとして、これって魔法か。実物は初めて見たぞ。まあ、そもそも魔法なんて存在しないはずなんだけどね。


「あ、えっと、ごめんなさい。つい蹴り飛ばしちゃいました」

 奇襲の機会を逃してしまったため、とりあえず素直に謝ってみる。これで済めば警察はいらないんだけどな。


 すると、お嬢様は手を組み目を輝かせていた。どことなく顔が赤いが、熱でもあるのか。

「つい蹴り飛ばしただなんて、勇猛な殿方。ああ、どうしましょう」

 両手で顔を覆ってそっぽを向いてしまった。うん、本当にどうしましょう。


「まったく、ひどい目に遭ったわ。ホクトが来てくれなきゃ死んでたわよ。で、ホクト、あんたまさかその馬に……」

「そ、それ以上は言わないでほしいですわ」

 一人で舞い上がっている。おいおい、どうしたんだ、これ。


「えっと、アドマイヤさんですっけ。さっきはいきなり蹴ってごめんなさい」

「私の名前を知っているって、本当に胡散臭い馬だな。それに、人間の言葉を話せるなんてのも解せない」

「俺、もともと人間だったからね」

「ウソつけ。栗毛で、無駄がなく競走馬としても通用しそうな健脚美を誇る、黒いたてがみが印象的なくりっくりな瞳の馬じゃないか」

 丁寧な人物描写ありがとうございます。いや、馬物描写か。


「それにしても、あの子はどうしたんですか」

「ああ、多分お前に一目ぼれしたんだろ」

 どういう感性してんだよ。馬に一目ぼれって。

(モテる男はつらいのう)

(惚れられるのはうれしいけど、今の俺馬だし。そうだ、あの子のステータスも分かりませんか)

(面倒くさいのう。ほれ)


ホクト・ベガ 320バカ

完全回復トテモ・ナオール

炎のファイヤ・ボール


 320って、それなりに高いな。馬に一目ぼれするぐらいだから薄々嫌な予感はしていたけど。

「そういえば、あんたって名前あるの」

 アドマイヤが怪訝な目をして訊ねる。そういえば、まだ名乗ってなかったな。

「俺は馬場克也っていうんだ」

「ババ・カツヤ。ババって名前か。馬らしくていいんじゃない」

「いや、それ名字だから」

「あんた何言ってるの。私はベガ家のアドマイヤだからアドマイヤ・ベガ。あんたのその名乗り方ならババが名前ってことじゃない」

 そうか、アメリカ文化圏と同じく名前が先に来るのか。つまり、カツヤ・ババと名乗らなくちゃいけなかった。くそ、盲点だったぜ。

「ババ様。なんと知的な響き、素敵ですわ」

 その呼び方だと俺がババアになったみたいだぞ。


「そういえば、あの汚物、じゃなくてドラゴンが保護対象とか言っていたけれど」

「その件についてですね。私が説明しますわ」

 アドマイヤを押しのけてホクトが進み出る。やけに積極的な子だ。風貌はザ・お嬢様なのに。

「この世界では、トノサマの政策により、ファンタジー生物は絶滅寸前にまで狩り続けられているのです。あのドラゴンも世界に数頭しかいない貴重品種でした」

 ひょっとして、パンダをう〇こまみれにしちゃったようなもんか。ならば怒られても仕方ないな。

「それで、私たちはファンタジー生物を保護するため、レジスタンスとしてトノサマの軍勢と戦っているの」


 会話していると、いつの間にか緑色の軟体生物がすりよってきた。全身ゼリー状で「ピギー」と鳴き声を上げている。

「こいつはスライムだな。こいつもまた保護対象となっている生物だ」

 アドマイヤはスライムを両手で救い上げると、顔の前まで持ち上げた。スライムはアドマイヤの肩にぴょっこり飛び乗る。肩に乗るスライムって意外と可愛いな。


「ガジガジ」


 思い切りむき出しになっている首を噛まれてますが。

「ああ、これは甘噛みだから気にすることはない」

「アドマイヤ姉さまは意外とファンタジー生物に懐かれるのですわ」

 そうなのか。なんか微笑ましいな。


「そんなわけで、私はこんなファンタジー生物を駆逐しようとするトノサマを許さない」

「ガジガジ」

「だから、お前がトノサマの手下だというなら、ここで切り捨てる」

「いや、だから、トノサマが何者かさえ知らないから」

 俺になじみがあるのは殿様メイクで「アイ~ン」ってやっている大御所お笑い芸人ぐらいだ。

「姉さま、いきなりお馬様を疑うのは失礼ですわよ」

「ガジガジガジ」

「そ、そうか。けれども、しゃべる馬をすんなり信用しろというのも無理があるよな」

「そうかもしれないけど、信じてプリーズ」

「いや、可愛くないから」

「ガジガジガジガジガジ」

「ひどいですわお姉さま、お馬様に向かって可愛くないなんて」

「そもそもこの馬面のどこが気に入ったんだよ」

「そ、それを私の口から言わせるのですか。そ、そうですね、じゃあ、言いますけど、お、お覚悟はよろしくて」

 十八禁な雰囲気になりそうだからやめてくれ。

「ガジガジガジガジガジガジガジガジ」


「っていうかさっきからさ」


 ガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジガジ


「甘噛みしすぎだろ、この糞スライムがぁぁぁぁっ!!」


 アドマイヤはスライムを肩からひっぺがして思い切り地面に叩き付けた。って、オイオイ。このスライムって保護対象じゃなかったっけ。


「大丈夫。姉さま得意のみねうちです」

 それにしたって、確実にこのスライムの残りHP1だろ。モ〇スターボールを投げたら簡単に捕獲できそうだ。いらないけど。


 とりあえずスライムはホクトの「完全回復トテモ・ナオール」で回復させて逃がしてあげました。さよならスライム、達者で暮らせよ。

 三人(一頭と二人)でほのぼのとスライムを観察していると、背後に不穏な気配を感じた。

「グフフフ。見つけたぞ、レジスタンス」

 振り向くや、そこにはとんでもない人物が気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらを指差していたのだ。

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