マン・ドラ子、成長します
「お主らか、我らが同朋を倒した不埒者は」
老獪な声とともに、鼻にフランクフルトを付けた変人と、狐のケモ耳をつけた着物の女が現れた。モードユニコーンみたく、本当に鼻にフランクフルトをつけているわけじゃないぞ。あくまで比喩表現だからな。
「小娘たちに馬が一頭。大したことがなさそうですが、こやつらが本当に終点童子を倒したのかしらね」
「終点童子だと。お前ら、あいつを知っているのか」
「知っておるもなにも、やつはわしらの同朋じゃ。日本三大妖怪として名を馳せたものよ」
「日本三大妖怪。ジ〇ニャン、コ〇さん、ト〇ヲ・ウ〇ウネのことか」
「違いますわね。それに、最後の一体のチョイスがマニアックすぎてよ」
「日本三大妖怪とは、鬼の終点童子、天狗であるこのわし、妖狐の玉ちゃんの三体のことじゃ」
えっと、つまり、三大妖怪の内の一体を倒しちゃったってことか。目の前にいるのは明らかに天狗と妖狐。天狗の容姿は人間だったころに本で読んだから知ってるし、狐の耳をもっている姉ちゃんはどう見ても妖狐だろう。
厄介なことになったな。終点童子の敵討ちにでも来たっていうのか。あれの仲間だというのならどう考えても強敵だろうし。
「相手がどうであれ、こやつらを倒せばぬらりひょん様、ひいてはトノサマもお喜びになるというわけだ。これで晩酌も豪華になるというわけじゃのう。夕餉が楽しみじゃわい」
カーッカカと高笑いするフランクフルト野郎。バカしかいなかったから、まともな悪役と対峙すると逆に新鮮に思える。いや、ピンチには変わりないんだけどね。
「妖怪が相手ならば、レジスタンスとして相手になりますわ」
「同じく。ようやく酔いから覚めたから、大暴れしてやる」
ホクトとアドマイヤが進み出る。ホクトはともかく、アドマイヤは止めておいた方がいいぞ。酔いから覚めたってことは、バカの値も元に戻っているはずだから。
「やるって、そんなはしたない格好でやる気かしら」
妖狐の玉ちゃんに指摘され、アドマイヤたちは顔を赤らめる。着替える機会がなかったからそうなんだけどさ、彼女らはずっと水着のままだったのだ。
「あなたたちごときに、水着のまま戦うなんてサービスカットはもったいないですわ」
「そういうことだ。着替えてくるから待ってなさい」
そういうと、二人は馬車の中に駆け込んでいき、五秒後に元に戻ってきた。町人にカモフラージュするための着物姿ではなく、西洋風アーマープレートと魔法使いローブという戦闘スタイルだ。
「なるほどのう。トノサマに仇するレジスタンスというわけか。ますます、葬り去れば名を上げることができるではないか。よろしい、まずはこのわしがお相手しよう」
そう言って進み出て来たフランクフルト野郎。さっきからこんなひどい名前で呼んでるけど、俺、あいつの本名知らないもん。さっき名乗ってなかったし。
どうせ戦うのならちょうどいい。あいつのステータスを覗いてみよう。
(馬神様、ステータスお願いします)
(ア〇パンチ)
(なんでまたア〇パンマン見てるんですか)
(なんでだろう、なんでだろう、なでだなんでだろう)
あんたが見てるのになんでだろうはないだろう。
天狗 オティムコ・ティンティン丸 5785バカ
技
影分身
風起こし(スカート・メクーリ)
名前ひどすぎるだろ。そりゃ名乗れないわけだ。こいつの両親はどういう神経してんだ。そもそも、天狗の両親ってどんなやつなんだか。ただ、こんな名前なら、フランクフルト野郎でも問題なかったな。
ティンティン丸と俺たちが対峙していると、すっとマン・ドラ子が進み出て来た。
「せっかく食事しようとしていたのに邪魔するなんて。まずあなたたちの養分をいただく」
80バカしかないのに挑発するなよ。相手は5785バカだぞ。でも、その真剣なまなざしを見る限り、本気であの天狗を倒す気でいるようだ。策でもあるのならいいけどさ。
「雑魚が一人増えたところで変わらぬ。だが、わし一人でまとめて相手をするのは骨だの。これを使わせてもらうか」
ズボンの中という嫌らしい場所から取り出したのは赤い手裏剣だった。忍者戦隊のレッドが描かれているように見えたが気のせいか。
その手裏剣を地面に叩き付けると、たちどころに煙が舞い上がった。いきなり煙幕か。そうしておいて先制攻撃を仕掛けてくるつもりだな。それなら、カウンターでうんぽこぽんでもお見舞いしてやるぜ。
しかし、俺の予想は大きく外れることとなった。煙幕が晴れるや、そこには五人のティンティン丸がそろい踏みしていたのである。おいおい、あのおっさんが増殖しやがったぞ。
「驚いたか。四天王が一人ジャスタ・ウェイ様より受け継いだ分身の術。そなたらの相手はこの分身で十分じゃ」
分身なんて、忍者さすがは汚い。こんな奇天烈な技を披露されたにも関わらず、マン・ドラ子は更ににらみを利かす。
「まずはそのファンタジー生物が餌食になりたいようじゃの」
「あなたの養分いただく」
まさに一触即発。穂波を揺らす突風が吹き抜けた時、両者は同時に飛びかかった。
なんてかっこよく描写したけど、結果は明白でした。だって、80バカと5785バカだぞ。どうなるかはお分かりですよね。
マン・ドラ子が噛みつきを仕掛けたが、それより先にティンティン丸分身体が彼女の顔面にパンチを喰らわせた。
女の子座りで倒れ込むマン・ドラ子。おい、大丈夫か。
「顔が汚れて力が出ない」
顔が汚れていなくても力不足でしたよね。やはりここは俺たちでやるしかないか。
「ああ、せめて肥料があればうまく戦えるのに」
「肥料なんて、こんな海辺にあるわけないだろ」
「そんなはずない。どこからか肥料の臭いがする」
肥料の臭い? そんなのどこから漂っているんだ。植物の肥料だったら畑とかにあるんじゃないのか。
「こいつはくせー、プンプンするわ。あなたの尻から強烈な肥料の臭いがする」
俺の尻からってまさかこの尻尾が肥料なわけないよな。試しに振ってみたらマン・ドラ子は首を横に振るし。
それ以外に尻から出るもの。いや、まさかね。でも、これが肥料になるってどっかで聞いたような。
「ごちゃごちゃと相談しとる場合かの。そっちから来ないならこっちから叩きのめしてやろう」
まずい、ティンティン丸が痺れを切らした。ええい、ままよ。こうなったらヤケだ。
「マン・ドラ子、新しいうんぽこぽんよ」
邪神の弾丸
俺の尻より連射されるうんぽこぽん。バカが上がったため、一秒間に五十連射まで進化していた。
その大量のうんぽこぽんをあろうことかマン・ドラ子は残さず食べている。この光景はまずいだろ。うんぽこぽんを食べる美少女って。でも、彼女は植物だから問題ないのか。
「熱いわ、これ。燃えてきました」
口調が平坦すぎて全然燃えてないような。植物が燃えたらまずいですよ。
「うんぽこぽんを食べたところでどうなるという。わしの敵ではないと証明してやろう。風起こし(スカート・メクーリ)」
ティンティン丸はズボンから団扇を取り出すと、力いっぱい扇いだ。だから、妙なところから道具を取り出さないでくれ。
すると、息をするのも苦しくなるほどの大風が吹き寄せて来た。そのせいでホクトのローブの裾が捲れそうになっている。
「さあ、おババ様。私の痴態をご覧あれ」
御開帳を拝見している場合じゃないけどな。だって、足を踏ん張っていないとすっ飛ばされそうになる。現に、アドマイヤなんかあまりの風圧に顔が不細工になってるし。
この突風にはマン・ドラ子はひとたまりもない。そう思ったが、微動だにせず胸を張っている。バカな、この突風が効いていないのか。
「あなたの養分いただく」
すると、彼女の腕が伸び、ティンティン丸の首に巻きついた。その手の先は植物の根っこのように変化し、やつの体内へと突き刺さる。
そのままティンティン丸を締め付けると同時に、やつの体がどんどんと痩せ細っていく。これってマジで養分を吸い取ってないか。この作品には似つかわしくないガチの攻撃技のような。
やがてティンティン丸の分身はカッパのごとく乾物になって倒れたのだ。どうなってんの、これ。80バカしかないのに、どうやってあいつを倒したんだ。
(馬神様。マン・ドラ子って今どんなステータスになってるんですか)
(これは驚きじゃの。彼女はお前さんらと同じくモードチェンジできるようじゃぞ。これが彼女の今のステータスじゃ)
マン・ドラ子 モード肥料 6208バカ
ちょっと待て。さりげなくモードユニコーンを超えてないか。
(安心せい。終点童子や海坊主を倒したおかげでモードユニコーンは6300バカまで成長しとる。主人公の威厳は保たれとるぞ)
そりゃよかった。いやいや、そうじゃなくて、モード肥料ってなんだよ。
(あれは植物の肥料となるうんぽこぽんを浴びることで急激にパワーアップできるモードじゃ)
調子に乗って五十連射を連続で喰らわせたからパワーアップしすぎたようだ。う〇こでパワーアップできるヒロインってまた際どいのが現れたな。
「うむ、分身の一体が倒されたか。だが、まだ分身は四体も残っているぞ」
ティンティン丸の分身四体が一斉に団扇を構える。やる気満々のマン・ドラ子だが、主人公の意地として彼女ばかりに任せてはおけないぜ。
「それはどうかな。ここからは俺の戦争だ」
啖呵を切ると、俺の両隣にホクトとアドマイヤが並び立つ。
「いいえ、私たちの戦争よ」
あ、うん。ホクトはまだいいとして、アドマイヤはあまり出しゃばらない方がいいと思うぞ。また酔っ払いモードになると色々厄介だし。