波動砲、撃ちます
ほっと一息つくや、急に力が抜けていった。それとともに、額の角も引っこんでしまう。あらら、元に戻っちまったぞ。
(モードユニコーンは一時的に肉体強化する技じゃ。だから、一定時間経つと元に戻るぞ)
使いどころを考えないといけない技ってことか。なんにせよ、一気に6000バカまで成長できるのは大きいな。
「いやあ、助かりましたよ、お馬さん方」
終点童子を倒したことで、強制連行されていた人々が島へと出て来た。その一方で、鬼の残党たちは投石され苛められている。そういえば、あの鬼嫁の姿がないけど、どうしたんだろ。
「くそう、鬼嫁様は終点童子様を追って海でランデブーしてるし、最悪オニ」
都合よく足蹴にされていた雑魚鬼が答えてくれた。とりあえず、しばらくはこの島に再上陸することはなさそうだ。
「それで、どうやって帰るんだ」
まさか、また対岸まで泳げっていうんじゃないだろうな。冗談じゃないぞ。鬼と戦ってヘロヘロなのに、そのうえまた遠泳しろだなんて。
しかし、そんな心配はしなくていいみたいだ。
「それなら、あの船を使えばいいですよ。鬼たちが人間を拉致するのに使っていたみたいです」
指さされた先にあったのは立派な客船だった。
いや、これは客船なのか。帆には麦わら帽子をかぶった髑髏のイラストが描かれており、船首は不細工な羊の顔のモニュメントが置かれていた。っていうか、完全にどっかで見たことあるんですけど、これ。まさかさ、ひとつなぎの大秘宝を求める海賊たちの船じゃないよな。
「その名もゴーイングメーメー号というらしいです」
確信犯だろ。なんで鬼がそんなもん作ってるんだよ。
とりあえず、脱出手段はこの船しかないみたいなので、鬼の一体を操縦士として拉致し、奴隷たちと一緒に乗り込んだ。馬が船に乗るってのも妙な気分だな。まあいいか。トナカイが海賊船に乗る時代だし。
苦労して泳いできたのがアホみたいに、順調満帆にアッセンピアの町へと航海していく。最初から船が借りられれば苦労はしなかったんだよ。過ぎたことをグチグチ嘆いても仕方ないけどさ。
このまま何事もなく海の旅は終了すると思われた。だが、家に帰るまでが修学旅行というのは言い得て妙であり、気を抜いた帰り道に決まって難題が降りかかるのだった。
突然荒波が襲い掛かったと思いきや、船体が大きく揺れる。何かに捕まっていないと投げ飛ばされそうだ。体構造上しがみつくことができないから、柱に必死にかじりつく。どうしたことだこれは。穏やかな晴天で水面も落ち着いている。荒波に襲撃される覚えなんてこれっぽちもないぞ。
その原因はすぐさま判明した。突如禿頭がせりあがったかと思うと、巨大な人間の顔が海上に現れたのだ。
船上は一気に悲鳴に包まれる。おいおい、こんなところで敵襲かよ。
「気を付けてください、おババ様。あれは妖怪海坊主ですわ」
海坊主って、海に出るポピュラーな妖怪だっけ。その名のとおり、坊主頭の巨人が半身を傾け、こちらを押しつぶそうとしている。さっきも巨大な鬼と戦ったけど、今度は本場の巨人と対決する羽目になるとは。
(馬神様、ステータスお願いします)
(ドン・ガバチョ)
(ひょ〇こりひょうたん島はいいですから)
妖怪 海坊主 3888バカ
技
大荒波
巨人だけあってけっこうバカが高いな。でもこんなやつ、モードユニコーンでイチコロだぜ。さっそく「馬」を唱えようとした矢先、
「よし、波動砲の準備をするオニ」
……は?
ちょい待て。波動砲だって。この船、そんな大それたものまでついてるのか。呆気にとられていると、先頭が海坊主へと向けられ、不細工な羊の口が開く。
「発射カウント開始。いち、にー、さん、し、ごー、ろく、しち、はち、アインス、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、ゼクス、ズィーベン、アハト、イー、リャン、サン、スー、ウー、ロー、チー、パー」
「いや、いつまで数えてるんだよ」
八まで数えてループしてますよね。あと、もう一つツッコんでいいですか。
「ホクト、それに合わせて踊らないでくれますか」
「肩に効く、天使の気分になる体操らしいですわ」
「ああ知ってる。武蔵野のアニメ製作会社で有名なやつだろ」
とりあえず、この局面でやるようなものではない。
なんてアホをやっている隙に、海坊主が先制攻撃を仕掛けて来た。
「大荒波」
さっきよりも船体の揺れが更に激しくなる。くそ、やばい。こんなに揺らされたら船酔いしちまう。さっき酒に酔わされたばかりなのに。
「酔って狙いがつかなくなる前に、さっさと発射するオニ」
「任せろ、波動砲、発射!」
あの、いつの間に鬼と奴隷たちとの間で連携取れてるんですか。でも、これで安心だ。奴隷が発射ボタンを押し、不細工羊から破壊光線が放たれ……。
「うひゃあああははは!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
さっきまで二日酔いでぐったりしていたはずのアドマイヤが復活し、不細工羊へと飛びかかっていったのだ。ちょっと、どうして船酔いさせる術で復活してるの。
「程よい揺れが、彼女を酩酊状態へと誘ったのですわ」
うん、素面だったら順当に酔うはずが、すでに酔っ払ってるからぶり返させちゃったのね。
「おりゃあ、派手にいくぜぇ」
そして、気合一発。アドマイヤ最大の必殺技、地獄の一閃が発動。
不細工羊が打首された。
なにやってんの、この子!! 当然、波動砲の軌道は海中へと変更される。そして、海底ですさまじい断末魔の悲鳴が上がった。
「しまったオニ。ランデブー中の終点童子様と鬼嫁様に命中してしまったオニ」
とんでもないとばっちりで鬼ヶ島のボスたちを完全に始末してしまったぞ。そんで、目の前の敵は片付いてないんだよな、これが。
さて、気を取り直して今度こそ始末するとしますか。俺は「馬」を百八回唱え、そして気合を入れて叫んだ。
「一角昇華、ダバダバダーッ」
俺の全身が光り輝き、躰の筋肉が盛り上がる。そして、額に輝く一本角。モードユニコーンへと変貌した俺は、さっそく海坊主に尻を向ける。
「くらえ、海王帝邪神の弾丸」
俺の尻から無数のうんぽこぽんではなく、バフンウニが発射される。それが全弾命中するや、海坊主は海の底へと帰っていった。
「お前、そんな技が使えるなら、さっさとやるオニ」
「やろうとしたら、波動砲なんか使うからだろ」
倒したのに文句を言われる筋合いはないぞ。奴隷たちはこぼれ弾のバフンウニを賞味してるし。おいしそうに食べてますけど、それ俺の尻から出したやつだからね。
余計な邪魔が入ったが、ようやく囚われの人々を町まで送り届けることができた。不細工な羊が折れた海賊船と別れを告げ、俺たちはカッパと合流しようとする。あいつ、ずっと待ちぼうけだったからな。待ちくたびれているだろ。
「やあ、お留守番ご苦労」
俺がねぎらいの言葉をかけたが、その姿に息を飲むことになった。
馬車のすぐそばでカッパが干上がっていたのだ。