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俺、ユニコーンになります

「どうした、もう終わりか」

 飲酒して完全回復した終点童子が凄んでくる。慌てふためくホクトと酔いつぶれているアドマイヤを尻目に、俺は堂々と進み出た。

「それはどうかな。俺にはまだ切り札がある」

「面白い。ならば、それを見せてみろ」

 余裕綽々だな。だが、そんな自信、粉砕、玉砕、大喝采してやるぜ。


「一角昇華」


 俺は高々と新しい技名を叫ぶ。すると、俺の体をまばゆい光が包み、瞬く間に俺の体が変化……。


(しねぇじゃねえか)

 いつまで経っても俺は馬のままだった。気まずく流れる沈黙。あれ、これってモードチェンジできるんですよね。いつになったら変わるんですか。


「変わらねえじゃねえか」

 しびれを切らした終点童子が棍棒を振り下ろしてくる。俺は慌てて逃げ惑う。話が違うぞ。全然強化されないじゃないか。


(そりゃ当たり前じゃ。この技はきちんと段階を踏まないと発動できないのじゃ)

(それを早く言え、馬鹿)

(バカじゃない、馬神じゃ)

(このやりとりを再現しなくていいですから)

 1話か2話の時にやった覚えがあるな。棍棒の襲撃を受けている時にこんな悠長な回想している場合じゃないけど。


(で、どうすればいいんですか)

(ムーンスティックを片手に、ムーンプリズムパワーメイクアップと叫ぶのじゃ)

(それ、絶対違いますよね)

 月の戦士に変身してどうするんですか。


(冗談じゃ。まずは馬を唱えよ)

(は?)

 馬を唱える。どういうこっちゃ。馬なんてマジックカードは存在しないはずだぞ。

(ほれ、お前さんを転生させるときにやっとったじゃろ)

 まさか、アレですか。尺稼ぎになるからあまりやりたくないんだけどな。

(いいからやれ、クソが)

(どうして暴力口調になった)

 やるしかないのは間違いないだろう。未だに棍棒が振り回されてるんだから。その度に地面にクレーターが発生している。直撃したら死ぬから。


 逃亡を続けていた俺だが、ふと立ち止まり、終点童子を見据える。そして、こん棒の応酬の切れ目を狙い、早口でまくしたてる。


「馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬……」


 ひたすら「馬」を連呼する俺に一同は完全に固まっている。発言している俺でさえ、思考停止しかけているもんな。

(その調子で、百八回馬と言ったらこう叫ぶんじゃ)

 百八回って、全然数えてないぞ。一秒に一回馬と言っているなら、大体一分半ぐらいか。それまで無防備ってリスク高くね、この技。


 とにかくやり始めた以上、最後までやり遂げるのが筋ってもんだ。勘で百八回ほど馬と叫んだところで、俺は高々と宣言した。


「一角昇華、ダバダバダーッ!!」


 すると、俺の全身をまばゆい光が包んだ。はいはい、どうせフェイクでしょ。分かってるんですよ、この後全く変わらなかったってことになる……。

 そこで絶句したのは、冗談抜きで体に変化が現れているからだ。前脚、後ろ足ともに筋肉が盛り上がり、たてがみが長くたなびく。そして、額がむず痒くなり、そこからとんでもないものが生えて来たのだ。


「素晴らしいですわ、おババ様」

「うなぁ~。なんかすごいことになってるなぁ」

「貴様、その姿はまさか」

 俺だってまさかだよ。でも、額に生えたこいつはまごうことなき「角」であった。三角柱でドリルみたいに回転しそうな物体といったら角しかないだろ。そもそも額から突き出ているし。

 そして、角が生えた馬を世間一般ではこう呼ぶ。


 ユニコーン。


 筋骨隆々とした体躯に鋭利な角を備えた、まさに強靭、無敵、最強な形態。

(それこそが、モードユニコーンじゃ)

 俺のセリフを横取りするな。いいところだったのに。つーか、こうなったからには能力値も上昇してるんだろうな。だが、そんなのは杞憂に過ぎなかった。なにせ、今の俺のステータスはこうなっていたからだ。


バーバーババ・バーババ(以下略) モードユニコーン 6000バカ


 力が満ち溢れているのも尤もで、バカがあり得ないほど急上昇しているのだ。っていうか、上がりすぎだろ。六倍くらい上がってないか。

 でも、これだけの力があれば、5000バカ程度の相手なんて楽勝だぜ。俺が強気に歩み寄ると、終点童子はたじろいで後退する。さて、ここからは俺のターンだ。


 まずはやっぱりこの角で攻撃しようか。どう見ても、俺の新しい武器っぽいからな。俺は蹄を鳴らしながら、終点童子へと急速接近。角を前面に掲げ、そのまま突っ込む。股間を狙ったのだが、体躯の差から、標的はあいつのくるぶしになりそうだ。だって、あいつ大きすぎるもん。せめて、首の後ろを狙わせてくれ。


 いとも簡単に俺の角が命中する。深々と突き刺さったそれにより、終点童子は悲鳴をあげる……はずだった。

 だが、あまりに予想外なことが起きた。


 俺の角は、やつに命中した途端、真っ二つに折れたのだ。


 いとも簡単にポキッと折れるって、強度脆すぎるだろ。しかも、勢い余ってホクトの目の前に着地した。おい、これどうなってるんだ。相手を貫くでもなく、いきなり折れるなんて聞いてないぞ。


(バカか。そんなんで攻撃できるわけないじゃろ)

(いやいや、どう見てもこの角が最大の武器ですよね)

(何言ってるんじゃ。その角の主成分はポ〇ンキーじゃぞ)

 なんで角がスナック菓子で出来てるんだよ。そりゃ、ポ〇ンキーなんか勢いよくぶつけたら折れるに決まってます。


 しかも、いつの間にか新しい角が勝ってに生えてきた。でも、これもポ〇ンキーで出来てるんだろ。

(折れても無限に再生できる親切設計じゃ)

 無限にスナック菓子を生成できるって、それはそれでチート能力だけど、体力を微回復するしか効果ないぞ。

「あら、この角おいしいですわ」

 そして、ホクト。さりげなく食べてるんじゃない。


「結局はったりじゃないか。お前なんかこうしてやる、酒乱乱舞サケハ・ノンデモ・ノマレルナ

 やばい、また酔っ払うことになる。しかし、あのスナック角の件でたじろいだせいで、回避が間に合わない。

 終点童子の口より放出されるアルコールの塊。それが俺たちを覆うと、


「ぐおらーっ、死に晒せコンチクショウ!!」


 アドマイヤが壊れた。酩酊しているはずなのに、剣を振りぬいて、一気に飛びかかる。


「ハハハ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」

「もうやめてくださいまし。終点童子のライフはゼロよ」

 一方的に剣の舞を受け続ける終点童子。だが、アドマイヤが嘔吐と共にぶっ倒れると、終点童子はすぐさま飲酒して体力回復してしまう。酒を飲む暇を与えず攻撃しないと勝てないのか。でも、そんなことできるのか。


(言い忘れとったが、モードユニコーンになると邪神の弾丸が強化されるのじゃ)

 それ、一番重要な情報ですよね。

(だから、言い忘れとった。その形態は力を特に強化するからのう。ただの蹴りも強化されとるけど、こっちの方が今だと有用じゃろ)

 お察しの通りで。実際、ステータスで邪神の弾丸が妙な進化を果たしていた。


海王帝邪神の弾丸ポセイディア・バレット


 王様なのか帝王なのか神なのかはっきりしてくれ。とにかくこれに賭けるか。


「くらえ、海王帝邪神の弾丸ポセイディア・バレット

 技名を叫び、俺はケツを向ける。そこからうんぽこぽんが連射されるはずだった。しかし、なかなか初撃が出てこない。おいおい、出し過ぎて便秘になったんじゃないだろうな。普通は軟便とかになりそうなのに。

 でも、そんな心配はなかった。ようやくケツからあるものが矢継ぎ早に飛び出たのだ。「あるもの」と称したのは、それがどう見てもうんぽこぽんではなかったからだ。真っ黒い球体で、全身を覆うように棘が生えている。海の底にしかいないはずのそれは、俺のケツから発射されると一直線に終点童子の股間に飛んで行っているのだ。


 まったく、なんということでしょう。俺は、ケツから無数のウニを発射していたのだ。


 ケツからウニを出すって、どういう体内構造してるんだよ、俺。食べたものが消化されてウニを生み出すって、もはや錬成術の領域じゃねえか。

(それこそが新技海王帝邪神の弾丸。それは一秒間に三十二連発の速度でバフンウニを連射できるのじゃ)

 なるほど、馬糞だからバフンウニか。いや、バフンしか合ってないから。それに、全国のバフンウニに謝れよ。


 でも、攻撃としては効果覿面だった。なにせ、刺さると痛い棘が全面に生えている物体を連射しているのだ。うんぽこぽんよりは真っ当すぎる攻撃だろう。おまけに、命中しているのは全部股間なのだ。


「あ、これもけっこうおいしいですわ」

 そして、ホクト。さりげなく股間に命中して跳ね返ってきているウニを食べてるんじゃない。

「これだけのウニがあれば食糧に困らなくて済みますわ」

 毎日ウニばっかり食べていたらさすがに飽きるぞ。


「くそ、俺の死に場所はここだったか」

 終点童子は断末魔の叫びと共に仰向けに倒れる。あまりにも巨大すぎるために島の面積がカバーしきれず、頭から海の中にダイブすることになる。そして、犬上家みたいに水没していき、後にはなぜかメダルが残されていたのだった。

(お前さんの実力を認めて、メダルを託したんじゃろ。よかったのう、レ〇ェンド妖怪じゃぞ)

 あの腕時計持ってないから呼び出せませんが。なんにせよ、これで終点童子は倒したってことか。いやはや、恐ろしい敵であった。

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