俺、鬼嫁と戦います
半ば漂流しながらも泳ぎ続けて三日三晩。ようやく、俺たちは鬼ヶ島に到着した。いやあ、長かった。途中、アドマイヤがポロリしかけて、それに乗じてホクトが自分自身に「不健全な仕置き(バニッシュメント・メイル)」を発動しようとしたハプニングもあったが、順風満帆な旅であった。
すんなりと上陸できたはいいが、ここって本当に鬼に支配されているのか。そんな気配が全くないのだが。穏やかな海岸がずっと広がるばかりだ。とりあえず、島の内部に侵入してみよう。第一村人を発見できるかもしれないし。
内部もまた、閑散とした集落が広がるばかりであった。これはさすがに異常だぞ。人の子一人いないなんて。村中みんな神隠しに遭ったんじゃないだろうな。
「サボタージュ発見オニ」
ようやく村人を発見か。建物の影から、頭に立派な一本の角を生やしたトラ柄パンツ一丁の変態が現れた。どっかの銭湯のおっちゃんじゃないのに、全身が真っ赤だ。
え? こいつは人間じゃないって。あ、うん、薄々分かっていたよ。こいつ、どう見ても鬼だよね。
「お前ら、こんなところで何してるオニ。この時間、島民はあの城で労働だろオニ」
指さす先には、岩山をくり抜いて作ったと思われるお粗末な城がそびえ立っていた。センス悪いな、こいつら。鬼の顔を象った巨大カマクラを作るなんてよ。
「悪いが、私たちは労働しに来たんじゃない。島民を苦しめる鬼を成敗しに来たんだ」
アドマイヤが啖呵を切る。どうやら、島民が鬼に支配されているってのは本当らしいな。
「あ、反逆者オニか。じゃあ、死ね」
赤鬼がどこからともなく取り出したこん棒を振るう。その直撃を受けたアドマイヤは数十メートルほど吹っ飛ぶ。いきなり襲撃かよ。ホクトがすぐさま回復魔法使ったから事なきを得たけどさ。
(馬神様、ステータスお願いします)
(俺、参上)
(仮面ライダー〇王なんて見てなくていいですから)
妖怪 赤鬼 983バカ
技
棍棒殴打(コンボ―・オーダ)
これだけバカが高けりゃ、アドマイヤが瞬殺されるのも道理か。だが、俺は1350バカもあるんだ。
(いや、今は1550バカじゃな)
またいつの間にか成長したのか。それならそれで助かるけど。
「邪神の弾丸」
うんぽこぽんの連射で、赤鬼を悲惨な目に遭わす。
「侵入者オニ!」
「やっつけるオニ!」
「白紙の未来を黒く塗りつぶすオニ!」
おいおい、続々と応援が出て来たぞ。まあ、その度にうんぽこぽんを喰らわせて黙らせてるんだけどね。いつまでうんぽこぽん出せばいいんだよ。
ホクトも、火の玉で応戦する。なかなか倒しきれずに苦戦しているみたいだけど、けっこう善処してるよな。
(ホクトも1018バカまで上昇しとるからの)
彼女もまた順調に成長してないか。現在進行形で鬼どもを蹴散らしているけどさ。
ゴキブリ並みに沸いてくる鬼たちを蹴散らしていると、ひときわ大きな足音が響いた。
「うっさいね、静かにおし」
俺の頭上より降りかかる怒号。山が動いた。ってのは大袈裟だが、それと同じくらいのインパクトはあった。
なにせ、小屋を踏みつぶしながら、巨大な鬼が姿を現したのだ。
その体長は十四メートルほどだろうか。トラ柄模様のブラとパンツを着用しただけのエロい恰好で、頭には二本の角を生やしている。その髪は長く伸び、中年のおばさんみたいな顔をしていた。
「まずいですわ。女型の巨鬼が現れましたわ」
「どこぞの巨人みたいに言わないでくれますか」
まさか、首の後ろが弱点なわけないよな。っていうか、上陸して早々、かなりやばい相手が出てきやがったぞ。
(馬神様)
(分かっとる。キュアフ〇―ラのステータスじゃな)
(だから、中の人ネタはやめてください)
妖怪 鬼嫁 2873バカ
技
体内電気
さすがに強いな。バカの値からして、かろうじて俺の攻撃が通るか。いや、普通に戦っても勝てそうにないってのは分かってるんだけどね。
「なんだい、弱そうだね。こんなのひとまとめに消し去ってやるッチャ。体内電気」
鬼嫁はその体を光らせる。すると、急に雲行きが怪しくなった。空を覆う暗雲。やがて、そこから一閃の雷撃が鬼嫁を襲う。いやいや、自爆か。
そんなことはない。雷は鬼嫁を避雷針にし、そこから周囲に無差別に広がっていく。まずいぞ、これ。ガチの放電攻撃だ。こんなの直撃したら黒焦げになっちまう。
「くそ、こいつはどうだ。奇跡の鼻息」
対抗して鼻から電撃でも出せればいいんだが、そう簡単にはいきませんね。なんか、鼻づまりを起こしたけど、そこからひょっこり出て来たのは一冊の本だった。
赤い表紙の手帳のようだが、そんなのを出してどうなるってんだ。鬼嫁の雷撃はすぐそばに迫ってきているんだぞ。
ふと、アドマイヤがその手帳を拾い、ページをめくる。
「何か書いてあるけど、これを読めばいいのか。ザ〇ル」
すると、俺の鼻の穴が光り出した。おい、鼻がビリビリして痛いんだが。アドマイヤ、お前何したんだ。
うろたえる俺を尻目に、俺の鼻から突如電撃が発射された。
メカニズムは不明だが、電撃を出せたからいいか。っていうか、かなり回りくどいことさせんなよ。
鬼嫁の雷撃と寸前のところでぶつかり合い、威力が相殺される。ふう、危ないところだった。
「雷撃を雷撃で防ぐなんて、やるッチャね。でも、そう何度も耐えられるもんじゃないよ」
鬼嫁はまたも全身を発光させる。まずいな、また雷撃が来る。
「アドマイヤ、もう一度あの本を読んでくれ」
「分かった。えっと、今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山に混じりて竹を採りつつ、よろずのことに使いけり。名をば、讃岐のみやつことなんいいける。なんじゃこりゃ」
こっちがなんじゃこりゃだよ。一体何読んでるんだ。
「ああ、それ。暇つぶしに読もうと思っていた竹取物語ですわ」
ちょっと待て。鬼ヶ島に行くのに、なんで竹取物語なんて持ってきてるんだよ。確実に必要ないだろそんなもん。
そんなことしている間にも、雷撃のチャージは終了したようだ。
「ダーリン、許さないッチャよ」
俺はダーリンじゃねえ。くそ、おばさん顔しやがって。うん、待て。おばさん。もしかしたら、これが効果あるんじゃないか。
「おい、鬼嫁」
「何だい、呼び捨てにするんじゃないよ」
「あっちでバーゲンやってるぞ」
「本当かい」
馬面で指した先。そこは、岩山でできた城であった。
そっちへ振り向くと同時に、雷撃が発射される。そのままそれは岩山に直撃。その勢いでてっぺんの角が一辺砕け散った。怖いな。あんなのとまともにやりあおうとしていたのか。
「ごらぁああ! てめぇ何してくれとんじゃぁ!!」
「まずいわ。ダーリンが来る。お前たち、さっさとずらかるよ」
岩山から轟いてきた爆音を前に、鬼嫁は死体同然となった鬼たちを引き連れ退散していった。あれ、助かったのか。まあ、いっか。
なんて楽観的になっていたが、本当の恐怖はこれからだった。なにせ、岩山が真っ二つに砕けるや、そこからとんでもないやつが出現したのだった。