俺、クソガキの相手をします
いつも以上に下ネタとエロネタが強くなっております。
荷馬車を引くこと数時間。ようやく海岸へと到着した。水平線の向こう側に鬼ヶ島があるわけか。
「なあ、アドマイヤ。船って持ってないか」
「持ってれば苦労しないわよ」
でしょうね。さすがに荷馬車のまま、海を渡るなんてことはできないぞ。
しばらく海岸を散策していると、無精ひげを蓄えたおっさんと出会った。そのおっさんのそばには、なんとおあつらえ向きなんでしょうか。木製のボートがあるではないですか。
「もし、そこのオジサマ」
物腰低く、ホクトが声をかけた。こういう時、柔和そうなホクトは役に立つ。武骨そうなアドマイヤだと、警戒心もろだしにされるからな。なんて、失礼なこと考えていたら、頬をつねられた。そういうのが武骨なんだよ。
「なんだ、嬢ちゃん。釣りしとったのに、邪魔すんじゃねえ」
そう言って釣り糸を手繰り寄せると、その先にはバケツが引っかかっていた。本当に海でバケツなんて釣れるんだ。しかも、このおっさんのボートにはガラクタの山が積まれていた。どんだけ海のゴミ釣ってんだよ。
「申し訳ございませんわ。ちょっとお願いがあるのですが」
「魚ならやらんぞ」
いや、釣ってませんよね。
「そうではなくて、そのボートを譲ってほしいのですが」
「もっとダメだな」
ですよね。
「私たち、どうしても海を渡らなくちゃいけないんだ。だから、貸してもらうだけでもいいんだ」
「ダメなもんはダメだ」
アドマイヤが懇願しても、おっさんは首を横に振るばかりだ。まあ、見ず知らずのやつらにおいそれと渡せるわけないよな。ダメもとで頼んでみたけど、やっぱりダメだったか。
「それに、お前らこの船をどうする気だ。これから遠出して釣りしようかと思っとったのに」
「実は、この先にある鬼ヶ島に行きたいんだ」
アドマイヤが正直に告げると、おっさんは固まった。せっかく釣り上げたバケツを取りこぼす始末だ。
「鬼ヶ島って、本気で言ってるのか」
「本気よ」
「よした方がいい。行くのは簡単だが、戻ってきた者はいねぇって噂だ。とてもじゃないが、貸すにしても、返してもらう保証はないじゃないか」
おっさんは意固地になって首を振る。その顔は恐怖で引きつっていた。鬼ヶ島。話に聞くばかりだが、相当恐ろしいところみたいだな。
「どうしてもっていうなら、俺が借金して手に入れたこの船を買うことだな。どうだ、五十万でどうだ」
五十万って、また難儀な額を。ゆでだこおっちゃんに身代金を払わなければ楽に手に入れたんだけどな。
結局、そんな金額を払えるわけないので、船を買うのは諦めることにした。俺たちを別れた後、おっさんは海へと旅立っていった。がんばれよ、海のごみ掃除。
そこからさらにしばらく行くと、なにやら騒々しい集団と出くわした。この近所に住んでいるであろうガキどもが何かを囃し立てながら、木の棒で袋叩きにしているようだ。なんか、これと似たような光景どこかで見たことあるよな。どこだっけな。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
打撃の勢いが子供のいたずらの範疇を超えているのだが。四人で一様に、世紀末救世主の秘孔突きみたいな刺突を繰り出している。そんなに躍起になって、何をいじめているのやら。
ガキどもの合間からのぞいたそいつを前に、俺たちは声を上げた。
そいつの背中には甲羅があった。はい、既視感の正体がはっきりしました。あれじゃん。まるっきりあの童話じゃん。最終的に玉手箱明けてジジイになる漁師の話ですね、分かります。
いや、それだとアドマイヤとホクトが仰天したのはおかしい。この二人はあの物語を知らないからな。じゃあ、どうして驚愕しているのか。単刀直入に言うと、そいつは亀じゃなかったからだ。
アヒルみたいなくちばしに、カエルのような水かき。そして、頭になぜかお皿を載せた怪生物。間違いない。あいつだ。
いじめられていたのは妖怪カッパだった。
なんでカッパが海まで出てきてガキに苛められているんだよ。色々と不可解な点はあったが、これは見逃しておくわけにはいかないな。
「おい、やめないか、お前たち」
「あ、あっちに変な馬がいるぞ」
「やっちまえ」
すぐさま、標的を俺に変更してきた。その隙に、アドマイヤとホクトがカッパを救い出す。
「待て待て、話し合おう」
「おい、この馬しゃべってるぞ」
「すげー」
どうやら、俺がしゃべっていることで興味を示し、嗜虐性を阻害できたらしい。殴られるのは嫌だからよかったよ。
「いやはや、助かりましたよ」
「なあ、あんた、なんでいじめられてたんだ」
「いやね。子供たちのシリコダマ奪おうとしたら、逆に襲われたんですよ」
「このカッパ、俺たちのケツにある球を奪おうとしたんだぜ」
じゃあ、自業自得か。ただ、それにしてはあっさり逆襲されたってことになるよな。
(馬神様。こいつらのステータスお願いします)
(は〇かっぱ見とったんじゃがの。実際のカッパは頭に花はついてないんじゃな)
(そりゃそうでしょうよ)
妖怪 カッパ 98バカ
技
なし
クソガキ 3672バカ
技
放尿光線(〇〇〇〇・ビーム)
カッパ雑魚すぎ、クソガキたち強すぎ。一人あたりの数値だから、四人だと……えっと、とにかくものすごい数字だ。そりゃ返り討ちにされますな。っていうか、一般人の子供にしてはバカ高いな、おい。
(子供は一般的にバカが高い傾向にあるみたいじゃ。春日部の五歳児は48万バカぐらいあるって噂があるぞ)
(あの五歳児は確かに別格ですからね)
ともあれ、これだけバカに差があってはカッパがフルボッコにされるわけだ。俺でさえ、バカの加護が発動してしまうせいで、まともに攻撃が通らないぞ。
「なあ、やっぱあのカッパ殴るの飽きたから、この馬苛めようぜ」
いきなり物騒なこと言うなよ。木の棒を片手に殺る気満々だ。待て待て待て、話し合おう。くそ、良い手はないのか。
「ホクト、新技を試してみないか」
とりあえず、こいつらの動きを封じよう。不健全な仕置き(バニッシュメント・メイル)は回りくどいけど行動制限の技だったし。
しかし、ホクトは嘆息するばかりだ。
「無駄ですわ、おババ様。あの技はあのお子たちには通じません」
諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって!
「だって、もうすでに脱いでますもの」
不可解なことを口にし、アドマイヤと共に顔をそむける。もう脱いでるって、どういう……。
「よっしゃ、みんな、まずはお〇っこビームだ」
なんてことをしてくれているのでしょう。クソガキどもは、いっせいにズボンとブリーフを脱いで、いかがわしいものを衆目に晒していたのだ。貴様らには羞恥心が存在しないのか。これでは、強制的に脱衣させるホクトの新技は意味がない。っていうか、これやばくない。
「くらえ、おし〇こビーム」
てめえら、馬に向かって放尿すんじゃねえ。くそ、ばっちい。俺は便器じゃねえぞ。
「放尿プレイなんてマニアックなこともやってのけるなんて。私もまだまだ修行する必要がありますわね」
「しなくていいから。あんた、大人向けのビデオに出るつもり」
アドマイヤが俺の代わりにツッコんでくれた。放尿プレイってそんなの需要あるのか。
(一応、需要あるみたいだぞ。わしのコレクション見るか)
見せんでよろしい。っていうか、話題が不健全になりつつあるからやめてくれ。
とりあえず、おしっ〇ビームとやらはうまい具合に躱しました。
「隊長、〇しっこビームが効きません」
「じゃあ、次はうんぽこぽん爆弾だ」
「今朝出したからもうでません」
「仕方ない。じゃあ、やっぱりボコるぞ」
一瞬、ろくでもない技を出そうとしていませんでしたか。おめえら、本家本元のうんぽこぽん爆弾発射したろうか。
なんて、大人げなく腹だったが、俺も大人だ。落ち着こう。
(いや、お前さんは元中学二年生だろ)
そのツッコミは野暮だから。小学校入る前のやつに本気出しちゃダメぐらいの分別はあります。
邪神の弾丸を使うわけにはいかない。蹴る(アトミック・ゴット・シュート)はもってのほか。っていうか、バカの加護のせいでどっちも効果がないんだよな。じゃあ、これに頼るしかないか。
「奇跡の鼻息」
俺は鼻から息を吸い、一気に放出する。さて、何が出るやら。
すると、無駄に軽快な前奏が流れて来た。え? 前奏? しかも、このリズム、つい最近耳にしたことがあるぞ。おいおい、これって二回目じゃないのか。一度流れ出した音楽を止めることはできず、またも珍妙なあの歌を垂れ流すことになってしまった。
うんぽこぽん うんぽこぽん
ごはんを食べたら うんぽこぽん
うんぽこぽん うんぽこぽん
きょうも元気に うんぽこぽん
バナナのうんぽこ 健康だ
べちゃべちゃうんぽこ 不健康
たくさんたべて いっぱい出すぞ うんぽこぽん
そう、ダンツ戦で披露してしまった「うんぽこぽん体操」だ。こんな珍妙な体操でどうなるってんだ。妖怪の体操の方がまだ効果があったんじゃないか。
諦観していると、予想外のことが起こった。
「なあなあ、今の歌もう一回やって」
なんと、クソガキどもが目を輝かせてねだってきたのだ。え、もしや、効果ありか。そりゃ、おしっこビームなんか発射するようなやつらだからな。ウケはいいかもしれんが。でも、もう一度同じ歌なんて出せるかな。
「おババ様、ここは私にお任せください」
戸惑っていると、ホクトが進み出た。自信満々で、策でもあるのか。
「どうしたの、お姉ちゃん。おっぱい揉ませてくれるの」
「揉みたいのなら、アドマイヤ姉さまのをお揉みなさい」
「揉ませねえよ」
「それよりも、あの歌なら、私歌えますわよ」
え、マジで。はったりじゃないだろうな。
訝しく目を細めていると、ホクトは無駄に美声であの珍妙な歌を復唱し始めた。いやいや、どうして歌えるんだよ。
「いや、あんだけインパクトあれば、嫌でも覚えるだろ」
そういうものなのか。
しかも、それに飽き足らず、即興で振付まで加えている。直立したあと、がに股になって脱糞する姿勢となり、その後元に戻るって動作の繰り返しだが。曲が曲だけに無駄にマッチしている。
そして、それに合わせ、クソガキどもも一緒に踊っているのだ。
「うまいですわ。その調子です」
「わーい、もう一回やって」
なにこれ。目の前で繰り広げられているのは、どう見てもお〇あさんといっしょの収録だった。
「なあ、ホクトって、保育士の才能ありそうだよな」
「そんな職業は知らないけど、子供の面倒見がいいってのは昔から思っていたわ」
すっかりその気になってクソガキどもと戯れるホクトを、俺とアドマイヤは遠巻きに眺めていた。
「ああ、楽しかった。おい、お前ら。そろそろおやつの時間だから帰ろうぜ」
「そうだな。じゃあね、お姉ちゃん、今度おっぱい揉ませてね」
最後にろくでもないことを言って、クソガキたちは帰っていった。あいつら、絶対将来、公然わいせつ罪か暴行罪で捕まるな。