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ホクト、追いはぎします

「おババ様、お待ちしておりましたわ」

 銭湯に到着するや、ホクトが駆け寄ってきた。うん、本当に久しぶりだね。実に三万五千文字ぶりの再会だ。

「こりゃたまげたな。本当に百万円を稼いでくるとは」

 手渡された百万円を前に、おっちゃんは目を瞬かせていた。小声で「保険に入ってるから、稼いでこなかったとしても問題なかったけどな」と言っていた気がしたが、まあ、いいか。


「約束通り、ホクトは返してもらうぞ」

「いや、元はあんたが勝手に人質にしたんだからね」

 偉そうに首を伸ばし、アドマイヤからツッコミを受けるが、おっちゃんは札束を数えるのに夢中でどうでもよさそうだった。この金の亡者め。


「いやあ、あんたらここまでやるとは思わなかったぜ。そんだけの実力がありゃ、もしかしてあいつも倒せるんじゃないかな」

「あいつって、まさか、あいつですか」

「そんな、あいつを倒すなんて、大それすぎてますわ」

「そうだぜ。ところで、あいつって誰だ」

 俺の一言に、その場の一同は固まる。おい、「あいつ」で共同認識されてなかったのか。


「あいつって、トノサマのことじゃないのか」

 だよな。俺もそう思ってたぜ。アドマイヤと以心伝心するなんて、意外だったな。

「ヌチャヌチャお茶漬け丸じゃありませんの」

 誰だよ、それ。初耳だが、強いんだか弱いんだかよく分からん相手だな。

「トノサマを倒すのはおめぇらでも無理だろ。俺が言ってるのは、鬼ヶ島の鬼のことだ」

 鬼って、また珍妙なのが出てきたな。


 おっちゃんは腕くみして、鬼について教えてくれた。

「この近くの海岸から、リバーサイドアイランドって島に行けるんだけどよ、そこがちょっと前から鬼に支配されちまってるんだ。俺の昔からのダチがその島にいるんだが、鬼の奴隷にされて大変だって噂だ」

 マジかよ、鬼最低だな。

「おまけに、鬼たちは島の名前を鬼ヶ島に変えてしまっているらしい。今じゃ、恐ろしくて、その島に近づくやつはいねえって話だ。俺もダチが心配で様子を見に行きたいんだが、鬼がいたんじゃどうにもできねえ」

 歯噛みしてるけど、4080バカもあれば鬼ぐらい倒せるんじゃないんですかね。まさか、鬼がそれ以上強いとかいうのはやめてよ。

「まあ、鬼を倒せれば数千万はくだらない報酬が下りるそうだからな。やる価値があるんじゃねえか」

 破格の報酬だけど、島の支配者を倒せってことだろ。前世に置き換えれば、都道府県知事を暗殺しろって依頼しているもんだ。それくらいの等価は当然ってことか。


 おっちゃんと別れた後、俺たちの話題は当然その鬼についてだ。トノサマ配下の妖怪の一味だから、レジスタンスとしてもずっとマークしていた相手だそうだ。ただ、相手がどれくらい強いのか分からないんじゃ、どうしようもないな。そもそも、俺たちって、どのくらい強くなってるんだ。

(馬神様、俺たちのステータスお願いします)

(嫌じゃ。と、いいたいところだが、面白いことになっとるから、見てみるといいぞ)


バーバ―ババ・バーババ・ババババ・ババリアン・バーボバイボ・バイボ・バイボ・バイボノ・シューリンガン・シューリンガンノ・グーリンダイ・グーリンダイノ・ポンポコピーノ・ポンポコナーノ・チョウキュウメイノ・チョウスケ 1350バカ

奇跡ミラクル鼻息スノース

蹴る(アトミック・ゴット・シュート)

邪神デズモ弾丸バレット

疾風ハヤク駿馬ハシレール


アドマイヤ・ベガ 5バカ

地獄ヘル一閃スラッシュ


ホクト・ベガ 880バカ

完全トテモ回復ナオール

火のファイヤ・ボール

不健全な仕置き(バニッシュメント・メイル)


 うん、色々とツッコもう。まず、俺の本名そうじゃないから。馬場克也だから。

(あのレースで公然と名乗ってしまったから、本名と認知されてしまったようじゃのう)

 そうなのか。畜生、へたこいた。もっとマシな名前つけとけばよかった。


 それと、アドマイヤが相変わらずバカが低いが、ホクトは何があったんだ。前は300かそこらじゃなかったっけ。三日間で急成長しすぎだろ。あのおっちゃんのもとでどんな所業をしていたのやら。


 とりあえず、鬼ヶ島まで行ってみようってことで、俺たちは海岸へ向かうことにした。

「いやあ、楽ちんだわ」

 そうでしょうね。荷馬車で百万円を運んだ時点でこうなることは予想がついたよ。俺はアドマイヤとホクトを乗せて、えっちらと行脚することになったのだ。まあ、馬本来の姿としてはこれが正しいんだけどさ。俺しか損してね。つか、西洋ファンタジーって馬を酷使しすぎだろ。

「おババ様。いつでもそこを変わる準備はできていますわ」

 無理だからやめてくれ。美少女が馬を乗せた荷馬車を引っ張るって、どんな罰ゲームだよ。


 さて、海岸までの道中は特に事件もなく過ぎる。わけがなかった。

「おいおい、待ちな」

 俺たちの前に突然、顔に切れ込みが入ったバンダナをした男が立ちふさがった。短刀をちらつかせていて、明らかに友好的な態度ではない。おまけに、その男の仲間っぽいのが数人ぐらい後に控えている。


 仕方なしに、俺は立ち止まり、アドマイヤたちも荷馬車から降りる。

「てめえら、アッセンピア記念で優勝したバーバーババ・バーババだろ。ならば、優勝賞金をたんまり持っているはずだ。命が惜しけりゃ、有り金全部よこしな」

「なんだこいつら。トノサマの刺客か」

「いや、ただのならずものでしょ。旅をしてるのならこういうのはつきものよ」

 平然としているのは、慣れっこだからか。俺は正直ちょっとビビってるぞ。ガチモンの強盗って、前世でも滅多に出会えるもんじゃないからな。頻繁に出会ったらそれこそ世紀末荒廃都市だよ。


「悪いけど、あのお金なら今はないわよ。とある事情ですっからかんになったの」

「はあ? まさか、身代金を払うってのは冗談じゃなかったのか」

 堂々とそんなこと宣言しましたからね。ゴキブリンを倒した報酬ならあるけど、それは全部生活費に回す予定だし。おめぇにやる金はねぇってことよ。


「しゃあねえな。金がないなら、女どもはとっとと服を脱いでもらおうか」

「いや、どうしてそうなる」

「日本ではそれが一般的ってトノサマ出版のこの本に書いてあったぞ」

 ならずものが見せつけてきたのは、「大日本犯罪辞典」という辞書だった。トノサマ、ろくでもない本を出版するなよ。そして、追いはぎが一般的って、いつの時代の話だ。


(馬神様。あの強盗のステータスって分かりますか)

(主よ、種も仕掛けもないことをお許しください)

(怪盗セ〇ント・テールですか。あれは義賊ですよ)

(それくらい分かっとる)

 前から思ってたけど、なんで馬神様って少女漫画が好きなんだろうな。


ならずもの ドジャー・バンク 673バカ

回転斬撃スピニング・スラッシュ


 これくらいなら、十分倒せるな。うんぽこぽんでもお見舞いしてやるぜ。俺が意気込んでいると、ホクトが進み出た。

「おババ様。ここはあなた様のお手を煩わせるわけにはまいりませんわ。私、この三日間で新たな力を手に入れましたの。それをお見せしますわ」

「なんだと、女。やる気か」

 ドジャーとホクトで一触即発だった。せっかくうんぽこぽんを発射しようと力んでたのに。仕方ないから、その場でボトリと垂れ流しておく。


「お前なんか、俺で充分! ドジャーが出る幕じゃないぜ」

 仲間の男が腕まくりしながら迫るが、

「火のファイヤ・ボール

 火の玉を投げつけられて瞬殺された。いや、まじめに強いな。

(さっきの雑魚は194バカぐらいじゃったからの)

 それなら簡単に倒せるけど、ノーマークだった少女にいとも簡単に倒されたってことで、やつらは動揺を隠せないでいた。ホクトが一歩踏み出すと、慌てて後ずさる始末だ。


「び、ビビんじゃねえぞ。こうなりゃ、俺が相手だ」

 ドジャーが短剣を抜いて構える。

「ホクト、危ない」

 とっさにアドマイヤが割り込み、長剣での一閃を放つ。歴戦の覇者の一撃。これで勝負が決したか。


 ……うん、決したね。ドジャーが返り討ちで短剣を振るい、アドマイヤの剣は弾き飛ばされていた。武器を失い、すごすごと退散する彼女。いや、いくらなんでも弱すぎるでしょ。


「お姉さま、心配には及びませんわ。おっちゃん様のもとでアッフンムフフして生み出した新技を披露いたします」

 アッフンムフフって、まじで何やってたんだ。ホクトは、舞い踊るように両手を掲げる。その動きに合わせて、足元から煙が立ち上ってくる。お、なんかすごそうだぞ。


「不健全な仕置き(バニッシュメント・メイル)」


 そう叫ぶと、煙は一直線にドジャーの体にまとわりついた。全身を覆い隠す、この場においては不自然な物体。っていうか、バリバリに既視感があるそいつ。あれって、不自然な湯気君じゃない。ほら、アドマイヤがいやらしい姿になった時にどこからともなく現れたあいつ。

 首から下が不自然なモザイクに包まれたドジャー。そして、これからどうなるんだ。爆発でもするのか。期待に胸を膨らませて動向を待つ。


 だが、体が隠されたまま、特に動きはない。おい、どういうことだ。まさか、これで終わりなわけないよな。

「はったりじゃねえかよ。こんなのこうしてやらあ。回転斬撃スピニング・スラッシュ

 ドジャーがフィギュアスケートの高速回転のように、短剣を振り回す。あいつを中心に小さな竜巻が発生しているようだった。近づいたら細切れにされそうだ。

 その竜巻に巻き込まれるように、不自然な湯気君も消滅していく。おい、ダメじゃないかよ。いとも簡単に技が破られているぞ。


 しかし、ホクトは余裕の表情だった。むしろ、この瞬間を待っていたとでも言いたげな。いや、でも、明らかに技は打ち破られているわけだし。このまま突撃でもされたらひとたまりもないぞ。ここはミラクル・スノースでも準備しておいた方がいいんじゃ。


 なんてのは杞憂だった。技を発動し終えて、意気揚々とドジャーは仁王立ちする。その姿を前に、アドマイヤがけたたましい悲鳴を上げた。うん、これはたまらないな。


 ドジャーの股間にはいかがわしいものがぶら下がっていたのだ。


 衆目にとんでもないものを晒してしまったドジャー。慌てて下半身を隠そうとするが、それでも教育上よろしくない姿には変わらなかった。ぶっちゃけると、あいつは一糸まとっていない、生まれたままの姿をしていたのだ。

「ドジャー様、ありのままの姿見せてどうしたんですか」

「ありのままの自分になるんですか」

「そんなわけあるか。てめえら、さっさと服を探して来い。くそ、覚えとけよ」

 ドジャーは全裸のまま逃げ帰っていった。あいつ、絶対途中で捕まるな。


 それにしても、あの技は何だったんだ。突然相手を全裸にするなんて。疑問に思っていると、ホクトが解説してくれた。

「私の新技不健全な仕置き(バニッシュメント・メイル)は、不自然な湯気君を相手にまとわりつかせるのですわ。あの湯気は、不健全な描写を隠すためのもの。それを無理に振り払った場合、相手は公の場に不健全な姿を晒すことになりますの。それが嫌なら、湯気が自然に消えるまでじっと待つしかありませんわ」

 えっと、要するに、湯気が消えるまでじっと待たないと全裸になる技か。かなり回りくどいけど、相手の動きを封じる補助技ってことだろ。戦闘では役立ちそうだけど、色々と問題がある技だな。


 まあ、ホクト本人は胸を張っているから、それでいいか。なんにせよ、戦力増強できたのは間違いないわけだし。それで、強盗を追い払ったことで、俺の荷馬車を引く旅が再開されるのであった。

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