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俺、死にました

 俺に目の前に変態がいた。何を言っているのか分からないって。俺も分からない。でも、神々しい後光を放ちながら空中浮遊しているこのおっさんは間違いなく変態である。

 なぜなら、上半身裸で、馬の被り物をし、股間には鹿のお面をつけていたからだ。おまけに、羽を生やして天使の輪っかまでついている。顔が隠れているのに、なぜおっさんだと分かったかだって。簡単なことだ。胸毛がジャングルだったからなのだ。


「おお、勇者よ」

 変態が口を開く。どこぞの魔法学校の校長っぽく、無駄に威厳があるな。っていうか、誰が勇者だ。

「死んでしまうとは情けない」

「死んでねえよ。それに、なんだよ、そのテンプレ。いや、それ以前に色々とつっこませろ」

 溜まりに溜まった鬱憤が一気に爆発した。

「死んどるやろ、バーカ。状況を確認してみんかい」

 初対面の変態にバカ呼ばわりされる筋合いはないが、俺はよく辺りを観察してみる。


 俺の周囲は青空が広がり、足元には、綿菓子が敷き詰められている。それに、ちょっと息苦しいような。とにかく、俺がさっきまでいたはずの街中とは違うというのは確実みたいだ。

「どこなんですか、ここ」

「天国」

「やけにあっさり言いやがったな」

 天国って、俺は死んでしまったのか。

「だから、死んでるっていうとるやろうが」

 いちいち鼻にかかる言い方する変態だな。


「そもそも、あんたは誰なんですか」

「わしの名前を知りたいか。ならば教えてやろう。わしは、馬神バカミじゃ」

「バカ?」

「バカミじゃ。ミをつけんかい、バーカ」

 バカにバカと呼ばれる筋合いはない。


「まったく、これでも、転生を司る高貴な神なんじゃぞ」

 馬神は、ふくれっ面で腕を組む。高貴な神のくせに、なんでそんな変態な格好してるんですか。あと、馬の被り物の頬が膨らんだのですが、どういう構造してるんですか。

「細かいことは気にするな。えっと、馬場克也じゃったかの。あんなことで死んでしまうとは情けない」

「そうそう。俺、いつの間に死んでるんですか」

 全く自覚がない。頭に強い衝撃を受けたのは覚えているが、そこから先の記憶が抜け落ちているのだ。うーむ、俺は何をしていたんだ。


「結論から言うと、お前は馬に蹴られて死んだのじゃ」

 馬に蹴られたって、どうやったらそんな状況に陥るんだ。


「えっと、馬場克也、園辺野そのへんの中学二年生。遠足で来ていたザマー牧場で、馬のち〇こがどうなっているのか観察しようとしたところ、馬の後ろ脚で後頭部を強打され、搬送先の病院で死亡とこれに書いてあるぞ」

 鹿から取り出したのは黒いノートだった。タイトルは「デ〇ノート」って、それあの死神が持っているやつだよね。なんであんたが持ってるのさ。


 それ以前に、生前の俺は何やってんだよ。馬神の説明で、急に記憶が戻ってきた。そうだ、俺はあの遠足で友人たちと「馬のち〇こはどんな形をしているんだろ」というバカな話をしていたんだ。それで、俺が「ち〇この写真を撮ってやる」と携帯電話を片手に接近したところ、ストライクヒットしたってわけだ。うん。我ながらバカだ。


「ちなみに、お前を殺した馬はメスだったぞ」

「そもそもち〇こねえじゃねえか」

 至極どうでもいいのに、俺は意気消沈した。もしも撮影成功していたら、中学二年生の健全な男子には衝撃が強すぎる映像が撮れていたことになる。


「まあ、そんなバカな死に方をしたお前さんに、チャンスを与えようと思ってな」

「手からエネルギー弾を放てるようになって、霊界探偵をやれって言われるんじゃないでしょうね」

「そんなことさせるわけないじゃろ」

 ですよね。

「お前には世界を救ってもらうだけじゃ」


 そうですか。俺が世界を。うん、よし、分かった。

「……マジですか」

「わしは嘘はつかん。えっと、なんかすごいことになっとる世界があるから、そこに行って悪の元凶を倒して来い」

「あの、近所にお使いにいくようなノリで言わないでくれますか」

 はじめてのおつかい。三歳のタロウ君は近所にいる魔王を倒すことができるかな。うん、無理ですね。


「俺は普通の中学二年生ですよ。世界を救うなんてできるわけないじゃないですか」

 馬場克也。中学二年生。成績中の下。卓球部。趣味ゲーム、漫画。そんなどこにでもいそうなプロフィールの俺だ。別に勇者でもなんでもない。ゲームの中でなら、魔王を倒したことはあるけどさ。


「もちろん、そのままの姿で戦えと言っとるわけではない。世界を救うにふさわしい姿にしてやろう。さあ、目を閉じるのじゃ」

 うさんくさいが、俺は言われた通りにする。すると、不快な呪文が聞こえてきた。おそらく、姿を変える魔法でも使っているのだろう。でも、その呪文がこんなんだぜ。


「馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬馬」


 約一時間ほど「馬」を連呼され、耳がおかしくなりそうだった。しかも、目を開けようとすると、「効力がなくなるだろ、バカ」と叱られ、また最初からやり直しになった。


 通算して二時間ほど「馬」と聞かされ、最後に馬神は大声で叫んだ。


「ダバダバダ―ッ」


 すると、俺の体はまばゆい光に包まれた。そして、急激に意識を失っていったのである。ああ、また死んだのか、俺。恨むぞ、馬神。

主に作者の息抜きを目的として書かれた小説のため、高尚な内容を期待してはいけません。

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